脳の中のキャズム

access_time create folder生活・趣味
脳の中のキャズム

今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

脳の中のキャズム

ひところ「キャズムを超えろ」とか念仏のように言われていた。何かが社会で爆発的にヒットする臨界点みたいなもののようだ。最初は少数の特定の人たちが注目している。それが徐々に範囲を広げていく。この辺りまでは増加が直線的なのだが、あるところ境に増加傾向が級数的に高まる。そして猫も杓子も大騒ぎする一大ブームとなる。その意味では「キャズム」自体がブームだったともいえる(笑)。

これは社会現象を説明したものだが、人間の脳内でも同じことが起きているのかもしれない。最初は脳細胞のほんの一部が反応しているにすぎない。だんだん影響を受ける範囲が広がっていき、ある点を境に爆発的に増加していく。そうなるともう寝ても覚めてもそのことしか考えられなくなる。

人間が何かに熱中している時、それを「面白い」と表現する。でも「面白い」というのはその状況に付けられた言葉であって、なにも説明していない。たとえばゲームが面白いとはどういうことだろう?どんどん新たなストーリーが明らかになってワクワクするとか、レベル上げが楽しいとか、ラスボスを倒した時の達成感とか…。でも、これらはみんな後付の理由な気がする。

なんで自分がそう行動したのか、理由がうまく説明できないから、あれこれそれっぽいものを考えだす。スキーや登山だって「なにが面白いの?」と問われても、うまく説明できないだろう。

   *   *   *

脳の中の一角が何かに反応している。その反応はフィードバックがかかり次第に激しくなる。すると時折、それまで反応していなかった別な一角の脳細胞が反応しだす。その反応はすぐに収まってしまうが、しばらくたつと別な一角でも反応が起きる。

そういうことが起きる頻度が徐々に増えていき、時には脳全体を巻き込むような反応も起きる。しかもその頻度も増えていきもはや止まらない。自分でも理由はわからない。とにかくそのことで頭がいっぱいで、それ以外考えられなくなる。

ただブームはいずれ醒める。今度は逆の順序で次第に反応の頻度が下がっていく。最終的には最初の一角の脳細胞の範囲に縮小する。しかしブームは脳全体にさまざまな影響を残している。それまでとは微妙に違う状態になっている。

   *   *   *

1995年にはエヴァンゲリオンブームがあった。エヴァに関するたくさんの本が出版され、その解釈や結末について多くの人が自分の考えを語ったものだ。ブームになると単に「面白いアニメ」という範囲を越えて、心理学や社会学の側面から分析する人も現れる。直接結びついていなかったジャンルを、ブームが結びつけるのだ。その結びつきの一部はブームが去っても残る。言ってみれば社会の中に新たな「回路」ができたことになる。

脳の中でも同じことが起きているのだろう。それまで個別のこととして位置づけられていたものが、何かをきっかけに結び付けられる。それがさらに別な部分に影響を与え、その連鎖反応によって、新たな信号伝達の結びつきが爆発的に増えていく。

ただ増えるだけだと飽和してしまうから、いらない回路を破棄する仕組みも脳は持っている。徐々に間引きが行われ、脳の中も沈静化し平常状態に戻っていく。しかしその回路の形は以前とは別な形をしている。

   *   *   *

社会においても脳内においても、ブームのピークは、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、大変な混乱状態だ。なんとか整理しようとするが、その試み自体がさらに混乱に拍車をかける。コントロール不可能なポジティブフィードバック。それまでの秩序が失われ、そして混乱の中で次第に淘汰が行われ、生き残ったものによって新たな秩序が構築し直される。

たぶんこれは最初の局所的なブームの段階でも起きているのだろう。ブームだとは気づかないだけで。その繰り返される秩序の再構築が周囲に影響を与えて、より大規模な範囲で拡大再生産されていく。そして全域に達した状態を我々はブームと呼ぶのだ。ブームは自己相似な構造をもっているのだろう。社会ならほんの数人のグループから発祥する。脳の中でもわずか数個の脳細胞から始まるのかもしれない。

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年08月12日時点のものです。

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 脳の中のキャズム
access_time create folder生活・趣味

寄稿

ガジェット通信はデジタルガジェット情報・ライフスタイル提案等を提供するウェブ媒体です。シリアスさを排除し、ジョークを交えながら肩の力を抜いて楽しんでいただけるやわらかニュースサイトを目指しています。 こちらのアカウントから記事の寄稿依頼をさせていただいております。

TwitterID: getnews_kiko

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。