『桃太郎電鉄2 ~あなたの町もきっとある~』レビュー:ボードゲームとしての楽しさを大きく深めたシリーズ最新作

デジタル・ボードゲームの定番といえる「桃太郎電鉄(桃鉄)」シリーズの最新作がリリースされた。その名は『桃太郎電鉄2 ~あなたの町もきっとある~』(以下『桃鉄2』)。大の「桃鉄」ファンである筆者ももちろん購入し、早速プレイしたので、この記事で最新作の魅力をお伝えしたい。

1作で2作以上のボリューム! 『桃太郎電鉄2 ~あなたの町もきっとある~』

『桃鉄2』は、さまざまな駅を訪れ物件を購入し、総資産ナンバーワンを目指すデジタル・ボードゲーム。おなじみ、「桃鉄」シリーズの最新作だ。

今作最大の特徴は、マップが東日本と西日本の2つに分かれていること。実は本作の発表時、この話を聞いた筆者は思わず「前作よりボリュームダウンしていないか?」と考えてしまった。

というのも、前作『桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~(桃鉄ワールド)』は、地球すべて、全世界が舞台という超特大スケール。また、前々作『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!』にしても、北海道から沖縄まで、日本全体が舞台となっていた。

このため、日本を東と西に2分割した『桃鉄2』がボリュームダウンしているのではないかと疑問に感じたのだ。だが、実際には本作は、前作、前々作と比較して2倍以上にボリュームアップしていた。

「桃鉄」シリーズのボリュームをもっとも端的に表すものが、「物件駅」。「物件駅」とは、マップ上に存在する駅の中で、勝利に繋がるための「物件」を購入することの可能な駅だ。

この「物件駅」の数は、前々作『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!』で339駅存在する。前作『桃鉄ワールド』では366駅。対して本作は「西日本編」だけで431駅、「東日本編」だけで559駅という大ボリューム!

つまり、「日本が2分割された」というより、「2本分の『桃鉄』が1本にパッケージされた」という方が正しい。ちなみに本作はダウンロード版であれば「西日本編」のみ、あるいは「東日本編」のみといったかたちでの単独購入も可能になっている。

それでもやはり、肝心なのは「物件駅のボリュームアップがどのような楽しさに繋がっているのか」という点だろう。この点において本作は、ゲーム性とコミュニケーションという2つの面で、ボードゲームとしての楽しさを掘り下げている。

リスクを抑えながら物件をガンガン買いまくる! 爽快なゲーム性

本作のゲームシステムの基本は、これまでの「桃鉄」シリーズのつくりを継承している。ゲームの目的は、一定年数経過時点で、全プレイヤー中最大の「総資産」を形成すること。「総資産」とは、手持ちの「物件」と「お金」の合計額だ。

各プレイヤーはゲーム開始時に1000万円の「お金」を保有している。このお金を使って、「物件駅」で物件を購入。すると、「物件」からの収益というかたちで、さらなる「お金」を獲得することができる。

また、目的地として指定された駅に一番乗りすることでも「お金」を獲得可能。すごろくのようにサイコロを振って出た目の分だけ移動し、目的地を目指しつつ、「物件駅」に立ち寄って物件を購入するというかたちでゲームは進んでいく。

ただ本作には、総資産を減らしてしまう存在もいる。それが、「貧乏神」!

「貧乏神」は、プレイヤーの誰かが目的地に入った際、目的地から最も遠い場所にいるプレイヤーに憑りつく。そして、勝手にお金を捨てたり、勝手に物件を売ったり、勝手に目的地から遠ざかったり……とさまざまな嫌がらせを行う。まさに「貧乏神」という名前の通り、憑りつかれたプレイヤーはどんどん資産が減り、勝利から遠ざかることとなる。

このため、いちはやく目的地を目指すことが重要なのだが、それだけではない。「貧乏神」は、他のプレイヤーと重なることで、そのプレイヤーへなすりつけることができるのだ。したがって、「貧乏神」がついたプレイヤーはなすりつけることを狙って他のプレイヤーを必死に追うことになるし、「貧乏神」に憑りつかれていないプレイヤーは、「貧乏神」のついたプレイヤーから必死で逃げることとなる。

こうした「追いかけっこ+物件獲得」がシリーズの醍醐味。本作でもきっちり踏襲されている部分だ。

一方、細かい点に目をやると、『桃鉄ワールド』より『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!』に近い。地球ではなく日本が舞台なので球状マップは廃止されており、進行ルート選択に『桃鉄ワールド』ほどの自由度はない。また、『桃鉄ワールド』では繰り返し使用可能な周遊系カードが廃止され、カードに使用回数が表示されるようになっていたが、本作では周遊系カードが再び復活している。

そして、これまでとの最も大きな違いとなっているのが、「物件駅」の密度だろう。「西日本編」、「東日本編」それぞれ単体で、これまでの作品を凌ぐボリュームの「物件駅」があるのだ。このため、ちょっと移動するとすぐそこに「物件駅」が見つかる。

つまり本作は、物件が極めて買いやすい。

この「物件が極めて買いやすい」という点は、明確な体験の差を生んでいる。とにかくガンガン物件が買えるのが、とても気持ちいい。序盤である程度他プレイヤーに差をつけられたとしても、物件が買いやすいから、何度か目的地に入れば物件を買ってすぐに巻き返すことができる。

この爽快感は本作ならではだと感じた。

物件購入が爽快な一方で、物件保持にはリスクも存在している。それが端的に表現されているのが、「パーセントボンビー」だろう。

「パーセントボンビー」は「東日本編」のみに登場する貧乏神で、所有する物件の収益率をマイナスに変えてしまう。本来なら物件の数だけ収益としてお金が手に入るところ、赤字となり物件の数だけお金を払わなければならなくなってしまうのだ。

しかも、本来の収益は1年に1回、決算のときに手に入るのだが、マイナス収益はなんと毎月支払わなければならない! その上、この効果は「パーセントボンビー」を他人になすりつけたとしても、次の決算を迎えるまで消えることがない。爽快感に任せてガンガン物件を購入し、順位を上げていったところで登場する「パーセントボンビー」のエグさは相当なものだ。

「西日本編」には「パーセントボンビー」が登場しない分、「デビルボンビー」「マイナ~~スボンビー」という貧乏神が登場。「デビルボンビー」は毎ターン所持金を減らす「デビル系カード」を召喚し、「マイナ~~スボンビー」は、抽選でマップ上のマスをお金の減る「マイナスマス」へと変化させてしまう。

筆者は「西日本編」をプレイしてみて、いずれの貧乏神も、カードを上手く使った立ち回りが要求されると感じた。「デビル系カード」は、どんなに潤沢な所持金を持っていても、瞬く間に失うきっかけになる。また、「マイナスマス」も、止まれば所持金を大きく減らしてしまう。

では、所持金を早めに使って物件を買ってしまおうか……と考えるところだが、その手はあまり意味がない。「桃鉄」シリーズでは、所持金がゼロになれば物件を手放す羽目になるからだ。一方、所持金がゼロになってもカードを奪われることはない。

となると、所持金をある程度カードに換えて持っておき、いざというときはそれらを使って立ち回るのが有効。つまり、「ガンガン物件を購入する」ことのリスクヘッジとして、「デビル系カード」や「マイナスマス」への対策となるカード購入が求められるわけだ。

いざというときのリスクヘッジを踏まえつつ、物件をガンガン購入していく。筆者は、これが「桃鉄」を一段深掘りした楽しさにしたと感じている。

というのも、「桃鉄」とは「物件を買う」のが面白いゲームなのだ。だから、「物件をガンガン購入」できれば、当然楽しい。その上で、「どうリスクヘッジするか」という立ち回りの戦略性が構築されている点に奥深さを感じている。

これぞボードゲーム! コミュニケーションを通じた楽しさ

ここまでゲーム性について触れてきたが、「物件駅のボリューム」は、「コミュニケーションを通じた楽しさ」にも強い影響を及ぼしている。友だちや家族とゲームをプレイし、ゲームの展開に盛り上がり、話が弾む……こうした「コミュニケーションを通じた楽しさ」は、「桃鉄」シリーズのようなボードゲームの醍醐味。ゲーム性と同じ……いや、場合によってはそれ以上に重要になることさえもあるのが、「コミュニケーションを通じた楽しさ」だろう。

では、「物件駅のボリューム」が多いと、なぜコミュニケーションを通じて楽しくなるのか? それは、我々にとって身近な物件駅が追加されているからだ。

本作は過去作以上に「物件駅」が増えている一方、対象範囲については「西日本」「東日本」というかたちで、これまでより狭くなっている。これはつまり、今までの作品では「物件駅」となっていなかった駅……我々の身近にある、やや小さめの駅が追加されているのだ。だからこそ、「あなたの町もきっとある」というサブタイトルがついているのだろう。

このため、「お、あの駅がある!」「この駅行ったことがある!」というかたちでコミュニケーションに拍車がかかり、盛り上がるのだ。筆者は今回のレビューのため妻と一緒にプレイしたのだが、過去作をプレイしたとき以上に盛り上がった。

というのも、「桃鉄」シリーズでは、「物件駅」の「物件」として、その駅付近の名産品や名物商店が並んでいる。このため、自分が行ったことのある駅に止まると、自然と「そうそう、この駅付近にこういうお店あったよね!」だとか「ここの名物美味しいんだよね!」と思わず言いたくなるのだ。

もちろん、こうしたコミュニケーションが発生するのはこれまでの「桃鉄」シリーズも同様なのだが、過去作以上の「物件駅」が用意され、身近な物件駅が多数存在する本作では、その回数が段違いに多い。

「身近な物件駅について話が盛り上がる」という観点からすれば、「東日本編」と「西日本編」のうち、自分になじみの深いどちらか片方でいいのではないか……と思うかもしれない。実際、先に触れた通り本作は、「東日本編」「西日本編」のどちらか片方だけを購入することもできる。だが本作は、なじみのない地方のバージョンもまた、独自の「コミュニケーションの楽しさ」を秘めている。

それは、この先の旅行やグルメに思いを馳せる楽しさ。「物件駅」の「物件」は、その駅付近の名産品や名物商店なので、行ったことのない駅にある未知の名物や名店を発見することができるのだ。

実際、関東生まれ関東育ちの筆者は関西になじみがないのだが、「西日本編」を奥さんとプレイしていて、食べたい名物の話で大いに盛り上がった。「これは!」と思う物件を見つけたら、スマートフォンで「地名」と「物件名」を入力し、検索。すると、物件の元ネタらしき名物や商店がヒットするのだ。これがとても楽しい!

お酒を飲み、美味しいおつまみを食べながらプレイしていたこともあり、ゲームの進行と同じくらい話も盛り上がってしまった。「それはゲームそのものの楽しさではないのでは?」と思うかもしれない。しかし、これもまた、ワイワイ楽しむボードゲーム「桃鉄」シリーズの楽しみ方のひとつ。正直なところオススメである。

「桃鉄」シリーズをレビューする度書いているが、今回もまた「桃鉄」は、100年後の世の中にも残ってほしい傑作のひとつだと感じた。今作もたっぷり楽しませてもらう予定だが、絶対に次回作も、次々回作も、その次も、ず~っとリリースし続けて欲しい。

そのためにも、さくまあきらさんがこの先も美味しいものを気持ちよく食べ続け、健やかであり続けてくださることを心より願っております。

(文/田中一広)

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