罪を背負った青年と犬の絆を美しい映像で紡ぐ 映画『ブラックドッグ』グァン・フー監督インタビュー「1つのシーンに28日かけることもありました」

世界中で旋風を巻き起こす、ロウ・イエやジャ・ジャンクーらに代表される中国映画ニューウェーブの新たな旗手、グァン・フー監督の最新作『ブラックドッグ』が公開中。本作は、2024年のカンヌ国際映画祭で《ある視点部門グランプリ》《パルム・ドッグ審査員賞》のW受賞を始め、世界中の映画祭で36以上ノミネート15以上の受賞を果たしています。
2008年の北京オリンピック開催間際の中国を舞台に、誤って人を殺めてしまった青年ランと、一匹狼の黒い犬との友情を通して、人生の贖罪と救済を描く力強いヒューマン&ドッグ・ムービー。第72回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティションのクロージング作品にも選ばれたクライムアクション『ロクさん』(15)や、日中戦争を背景にしたスペクタクル映画で、中国国内で驚異的なヒットを飛ばし、2020年興行成績世界No.1をたたき出した『エイト・ハンドレッド 戦場の英雄たち』を手掛けるなど、中国第六世代を代表するグァン・フー監督に作品についてお話を伺いました。

――本作楽しく拝見しました。ストーリーやお芝居はもちろん、独特の映像美に惹かれましたが、どの様な機材選びをしましたか?
こういう景色を撮るときに特殊な機材を選んでしまったとしたら、それはジャンル映画の撮り方になってしまうと思います。私は、むしろ普通の機材を使ってこの物語を撮っていくことをカメラマンと何度も相談したのです。遠くから景色を撮るフルショットを選んだのは、街と景色を冷静に観察するということを狙ったのです。
色調は、この大自然のロケーションに合う様に、これもカメラマンとじっくり相談して、そこで起きている事物、人間に干渉しないような色調を選びました。
――取材やリサーチで驚いたことはありましたか?
取材の中で、改めてすごく驚いたということはありませんでした。以前よりこの北の地域には野良犬がたくさんいるということも知っていました。この映画にも実際の野良犬たちが出てくれています。政府ではなく、小さな地域の中で犬を捕獲して収容していたわけなのですが、野犬を除外するということではなく、ちゃんと保護して養う意味でやっていました。
一つ、今回驚いたのは、当時の動物園がまだ残っていたっていうことです。バンジージャンプは無かったので、映画のために加工しました。

――ランと黒い犬の関係性がずっと観ていたいものでしたが、どの様にキャラクター創造をしたのでしょうか。
映画の撮影に入る前に一人一人のキャラクターについて描写を精査しますが、ランというキャラクターは坊主頭にしていかにも西北の地方にいる青年のような感じにしました。そうすると、何日か経った時に(ランを演じる)エディ・ポンを、誰もエディ・ポンだと気付かなくなります。エディ・ポン自身は台湾のとてもカッコ良い青年ですが、ヘアスタイルなどの形からランに生まれ変わってしまうのです。
黒い犬はオーディションで選ばれました。最後のあたらりで子犬を生むシーンがありますが、20数日間ずっと待ち続けて撮影しました。一体いつ生まれるかということを把握出来なかったのでひたすら待つ。こういったシーンには我慢強さが必要になります。動物を撮るにはとにかく辛抱強さが大切です。初めてこの黒い犬とランが出会うシーンで、ランが用を足した後に黒い犬がやってきますが、毎日、11時の同じ光の中で2時間ぐらいかけて撮影して上手く繋げることが出来ました。1つのシーンにですね、28日間ぐらいかけたということです。
――本作での経験が今度どの様に活きていくと思いますか?
評価が作品作りに影響があるかというのは、今は感じていないのですが、今後あると思います。作家性の強い作品を撮る時に出資が集まるかどうかというのは、この『ブラッグドッグ』の評価が影響してくると思います。
最初に映画館で自分の作品を観る瞬間が、映画作りにおいて一番楽しいことですので今後も作品作りを続けていきたいです。
――今日は貴重なお話をありがとうございました。

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