衝突実験で“物理的”に円周率が約3.1と実証することに成功! たった2桁だけど大変な実験!(彩恵りり)

円周率は円に関わる代表的な数学定数で、その詳細な値は数学的手法によって算出されてきたので、物理実験で円周率が求められるとは思えないよね?しかし実際には、その実用性はさておき、物理実験で円周率を求めることができるよ!

岡山理科大学の長尾桂子氏などの研究チームは、物体同士をぶつけ、その衝突回数が円周率となる「ガルペリンのビリヤード」と呼ばれる手法で、円周率が約3.1であることを実験で実証したんだよね!この種の実験で円周率を2桁まで求めたのは世界で初めてだよ!

たった2桁と侮っちゃいけない。このたった2桁を求めるために、いろいろと苦労した点があるんだよね。今回の解説記事ではその辺も含めて解説していくよ!

なお、今回の記事は一部長尾氏へのインタビュー内容に基づいています。ご協力ありがとうございました!

“物理的”に円周率を求める方法がある?

3.14159265358979323846……直径と円周の比率を表す数学定数である「円周率」は、小数点以下の数字が無限に続いていて、この記事を書いている時点では300兆桁まで計算されているよ!最近の円周率の計算はコンピューターによって行われていて、無限級数と呼ばれる、簡単に言えばひたすら足し算を行うことで正確な円周率を求める作業が行われているよ。

では円周率というのは難しい計算を行わなければ求められないのかな?実は、いくつかの道具を使った、物理的な実験を行うことでも円周率を求めることができるよ!例えば以下の方法があるよ。

・振り子の長さと揺れる周期を測る。
・複数のコインを投げ、ちょうど半分だけ表が出た回数を数える。
・正方形と、その中にぴったり収まる円を描いたマトを用意し、ダーツを投げ、正方形内と円内に当たった数を数える。
・同じ幅の平行線を何本も紙に書き、幅の半分の長さの針 (曲がっていてもOK) を落とし、平行線と重なった数を数える。

意外かもしれないけど、これらの実験で得られた結果に簡単な計算を加えれば、ここから円周率が求められるんだよね!もちろん、現実には測定精度の問題や、空気抵抗などの摩擦があるので、精度のいい値が求められるとは限らないんだけど、物理的な実験で円周率を求められるというのはちょっと面白いよね。

衝突回数で円周率を求める「ガルペリンのビリヤード」

さて今回は、このような物理的な実験で円周率を求めるものとして「ガルペリンのビリヤード (Galperin’s Billiards)」と呼ばれるものを紹介するよ。これはグリゴリー・アレクサンドロヴィチ・ガルペリン氏 (Григорий Александрович Гальперин) によって、2つの物体の衝突によって円周率が求められると主張されたことに因む名前だよ。

様々な (ポケット無しの) 形の中で、球をぶつける運動を観察すると円周率が現れるのは1990年に出版されたガルペリン氏の本の中で言及されているけど、特にガルペリンのビリヤードと呼ばれるものは、2003年に出版された論文の中で詳しく説明されているよ。具体的には、以下のような実験手順を踏む必要があるよ。

【▲図1: ガルペリンのビリヤードの仕組みの概説。 (Credit: 岡山理科大学) 】

1.物体2つと壁を用意する。壁に向かって物体を滑らせ、別の物体に衝突するようにする。
2.物体同士が衝突し、両方が壁に向かう。
3.先に進んだ物体が壁に跳ね返り、別の物体と衝突、物体と壁の間を何回か往復する。
4.最終的に物体は2つとも壁から離れるようになる。この時、物体同士や物体と壁との衝突回数をカウントする。

ちょっと静止画だとイメージが湧かないと思うから、以下の岡山理科大学の説明用の動画 (YouTube) の冒頭を見てもらうとより分かりやすくなると思うよ。


【▲動画1: 今回の実験の概要と、実際の衝突実験の様子。 (Credit: 岡山理科大学) 】

この実験で重要なのは、ぶつける物体の質量の比率だよ。より具体的には、物体Aの質量を1とした時、物体Bの質量は物体Aの1倍、100倍、1万倍……という風に、100のn乗倍になるようにすることなんだよね。

この実験のシミュレーションをしてみると、以下のような結果が現れるんだよね。

・1倍=100の0乗倍の質量比の時、衝突回数は3回。
・100倍=100の1乗倍の質量比の時、衝突回数は31回。
・1万倍=100の2乗倍の質量比の時、衝突回数は314回。
・100万倍=100の3乗倍の質量比の時、衝突回数は3141回。
・1億倍=100の4乗倍の質量比の時、衝突回数は31415回。

実際の円周率3.141592……と比べてみると分かるけど、この実験では100のn乗倍の質量比で衝突実験を行うと、2つの物体の衝突回数は、円周率を小数点以下n桁まで読んだ値に等しくなるんだよね!

なんでこんなことが起きるのか?の原理面はちょっと難しいのよね。記事の最後に、とても簡単なものだけど、説明を入れているよ。とにかく重要なのは、理想的な物体同士の衝突を行うと、衝突回数に円周率が現れるという点なんだよね!そう、理想的には。

ところが現実というのは、問題集にある「摩擦や空気抵抗は無視するものとする」などが通用しない世界なのよね。例えば、ボールが転がったりぶつかったりした時って音が鳴ると思うけど、あれもまさに音の形でエネルギーが逃げている証拠になるよ。

この実験は、理想的な世界からほんのちょっとだけズレている点が、実証実験を阻む障害になるのよね。なのでこれまで、衝突実験による円周率は、わずか1桁である3しか求められなかったんだよ。3を求めるには、ぶつける物体同士の質量比が1:1、つまりは同じ重さ同士の物体をぶつけることで実現できるよ。

苦労の末に約3.1まで求めるのに成功!

岡山理科大学の長尾桂子氏などの研究チームは、円周率2桁目に相当する31回の衝突回数を実証する実験を行ったよ。理論的には、31回の衝突が起こるのはぶつける物体同士の質量比が1:100の場合なので、ぶつけられる側の物体の重さに対し、ぶつける側の物体の重さを、100倍にすればいいことになるのよね。

しかし、この衝突実験を行うには色んな難題があったよ。まず先ほど書いた通り、摩擦や空気抵抗の影響を少しでも減らすことが難題となってくるよ。それに加えて、物体同士が衝突した後、ぐらついてしまうのを防ぐ必要があるんだよね。衝突角度が直線から少しでもズレたりすると、円周率の回数が現れる条件を満たさなくなってしまうからね。

ということで長尾氏らは、まずはレールをガイドに直線状にして見たり、エアホッケーの原理で物体を浮かせて摩擦を減らす方向の実験を行ってみたよ。しかし、これほど低い摩擦条件でも理想的な状態からはうまく行かないことが分かったんだよね。

【▲図2: 今回の実験のセッティングの様子。ピンポン玉と真鍮がそれぞれ紐で吊るされ、アクリル板にぶつかるようになっている。円筒形の真鍮には重さ調整用の粘土が貼り付けられている。 (Credit: 岡山理科大学) 】

なので今度は、そもそも床の上を走らせたり滑らせたりするのをやめて、物体を吊り下げる方式に変更したんだよね。これならそもそも床との摩擦が発生しないし、吊るす紐によって運動方向も制約されるよね。今回の実験では、紐を長くすることで、振り子のような円運動ではなく、より直線的な運動に近づくように調整したんだよね。

また、ぶつける物体にも工夫を凝らしたよ。この実験では、物体同士の衝突はピンポイントで起きるのが理想的となるね。だけど物体の両方が球形の場合、ちょっとした衝突角度の変化で、衝突した物体にスピンがかかって理想的な条件から外れてしまうんだよね。ということで、衝突物体の片方を平面にすることで、スピンがかからないように工夫したのよ。

ということで今回の実験では、ぶつける側の物体を円筒形の真鍮、ぶつけられる側の物体を卓球で使われるピンポン玉、そして壁にはアクリル板を使用したよ。これにより、先ほどの条件を満たすだけでなく、衝突によるエネルギーの伝達がなるべく100%に近づくようにしたんだよね。

なお、真鍮は金属なので、ピンポン玉のぴったり100倍の質量となる大きさに加工するのが難しいのよね。だから実際の実験では、わざと少しだけ軽めに作った後、衝突する面とは反対側に粘土を貼り付けることで、質量の微調整を行ったよ。これにより、真鍮と粘土の重さが計1050g、ピンポン玉が1.05gで、実験の前提となる1:100となっているんだよね!

そして、吊るす紐も工夫し、ピンポン玉も回転しにくいような状況を施すことで、角度の変化が最小限になるよう工夫したのよ。

約3.14を求めるのは難しそう?

【▲図3: 実験の結果、衝突回数が31回となり、円周率が約3.1であることを “物理的” に確認できたよ! (Credit: 岡山理科大学) 】


【▲動画2: 図3で示された実験の様子だけを映した動画。動画1の説明省略版。 (Credit: 岡山理科大学) 】

今回、30回の衝突実験を試した結果、最大の衝突回数が31回となり、物体同士の衝突回数で、円周率2桁の3.1に相当する値を求められたのよね!これは世界初の実証実験なはずよ!というのは、この実験に関する論文が投稿されたのは2025年2月17日なんだけど、その約1ヶ月後には別のグループが滑らせる方式で実験を行った内容がYouTubeに投稿されているので、特別な事情が見つからない限り、長尾氏らの実験が世界初を名乗れるはずなんだよね。

なお、最小の衝突回数が28回、30回の実験での平均の衝突回数が30.57回と、良い精度ではあるんだけどやはり完全に理想通りと行かなかった部分があるんだよね。いろいろ苦労して実験をセッティングしても理想通りにいかないことがあるのは、理想的な世界と現実世界との違いを良く表していると言えるのよ。

ところで、ここまで読んでくれた人はこう思うんじゃないかな?「今回の実験では3.1に相当する31回の衝突回数を得る実験ができた。なら次に目指すのは3.14に相当する314回の衝突回数を得る実験だ」ってなりそうよね?ズバリ、長尾氏にも聞いてみたんだけど、結論としては「すぐに実現するのは難しそう」ということなんだよね。

まず、314回の衝突回数を得る実験を実現するには、ぶつける側の物体が、ぶつけられる側の物体と比べて1万倍も重くないといけないよ!そしてこの実験は、ちょっとした摩擦や空気抵抗も結果に影響を及ぼすのよね。ということは、軽い側であるぶつけられる側の物体をあまり軽くできないのよね。なにしろ軽すぎると、空気抵抗が大きく影響する上に、吊るす紐の重さやピンと張った具合の影響も受けてしまうからね!

じゃあ、ぶつけられる側の物体をある程度重くして空気抵抗の影響を無くそうとすると、これはこれで問題になるよ。例えば、ぶつけられる側の物体の重さを10gにすると、ぶつけられる側の物体の重さは10万g=100kgというとてつもない重さになっちゃうからね!これを紐に吊るして振り子にする…というのがどう頑張っても危険な実験になるのは明らかだからね!

今回の実験は、質量の比率が1:100だったので、脚立から紐で吊るすような、ある程度簡易的な実験装置でも実行できたよ。しかしさすがに100kgのものを吊るすとなると、かなりしっかりとした設備を構築し、なおかつ安全対策を施してやっと実験ができる。そして苦労する実験の結果わかるのは、理想的であっても円周率の3桁目……実験としては大迫力にはなるけど、実施前に色んなところの説明や説得が大変になっちゃうよね。なので314回の衝突回数を得る実験は、できるとしても当面先になってしまうと思うのよ。

とはいえ、今回得られた31回の衝突回数を得る実験でも、結構面白いと私は思うのよ。いわゆる「やってみないと分からない」系の実験だからね!

余談だけど、今回の研究に関わっている人の1人である、岡山理科大学の高見寿氏は物理サークル「おもしろ実験研究所」の代表を務めていて、小学生レベルから大学レベルまで、幅広い実験を分かりやすく解説する活動をしているんだよね。今回の実験の背景にはこんなものも絡んでくるのよ。

なおこの関係で、高見氏の肩書には岡山理科大学と共に、おもしろ実験研究所が所属の肩書として書かれているんだよね!ただし、英語で上手くニュアンスを翻訳できず、論文にはこの所属は書かれていないんだけどね。ちょっと残念!

付録: なぜ衝突回数で円周率が求められるかの大雑把な説明

運動している物体には「運動量」と「運動エネルギー」という2つのパラメーターがあるよ。これらは似ているけど、運動量は運動する物体の方向を含めたパラメーターなのに対し、運動エネルギーは運動方向とは関係なく持っているパラメーターなので、実は別物なのよ。

そして、物体同士をぶつけると運動方向や速度が変化するのは、お互いに運動量や運動エネルギーを受け渡した結果と見ることができるんだよね。運動量や運動エネルギーには保存則が働くので、衝突の前後で合計値は変化しないよ。

ここで、理想的な世界においては、衝突時に音や熱や振動の形で逃げ出すエネルギーがないので、運動量や運動エネルギーは100%の効率でやり取りされる、という前提を踏まえるよ。そうすると、運動量保存則は直線のグラフ、運動エネルギー保存則は円のグラフとして描けるんだよね。

【▲図4: 衝突回数が3回の場合の、運動量 (直線グラフ) と運動エネルギー (円グラフ) を表したグラフ。 (Credit: 長尾桂子, et al.) 】

衝突前後で運動量が変化することを考慮し、運動量に対応する直線グラフに反映してみると、物体同士の衝突とは、直線グラフと円グラフが交差する部分で数学的に定義できるんだよね。例えば上の図は衝突回数が3回の場合で、直線グラフと円グラフが交差する点で3回と数えることになるのよ。そして、直線グラフの傾きは運動量と対応するために、質量比が大きくなるほど傾きが大きくなり、衝突回数が変化するようになるんだよね。それがちょうど円周率の数字と対応するようになるよ。

「うーん分からん」という人のために、非常に乱暴な説明をすれば「円グラフが出てくるので、円の大切な要素である円周率は出てくる。その円周率を取り出す “道具” として直線グラフが必要」くらいに考えてもらえると良いかなぁ。

(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)

参考文献

● Keiko I. Nagao, et al. “Estimation of π via experiment”. European Journal of Physics, 2025; 46 (4) 045006. DOI: 10.1088/1361-6404/adebc0
● 岡山理科大学 企画部 企画広報課. (Aug 29, 2025) “「衝突回数=円周率」を現実の実験で実証 摩擦の影響を避ける“吊り下げ式”装置で、質量比 1:100 の 31 回(=3.1)を再現”. 岡山理科大学.
● Григорий Александрович Гальперин и Александр Николаевич Земляков. (1990) “Математические бильярды. Бильярдные задачи и смежные вопросы математики и механики.”. ISBN: 5-02-014080-5
● G. A. Galperin. “Playing pool with π (the number π from a billiard point of view)”. Regular and Chaotic Dynamics; 2003; 8 (4) 375-394. DOI: 10.1070/RD2003v008n04ABEH000252
● 高見寿. “弾性衝突の一つの見方”. 物理教育通信, 2021; 183, 82-92. DOI: 10.24594/apej.183.0_82

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