土が主原料の「3Dプリンターの家」販売スタート! 約70~80平米・価格2000万円~、来年から受注。間取りや強度など詳細レポート 熊本

熊本県山鹿市に拠点を置く住宅メーカー「Lib Work」(リブワーク)が研究・開発を進めてきた、土を主原料とする3Dプリンター住宅。その最新モデル「Lib Earth House model B」(延べ床面積97.93平米・2LDK+中庭)が、2025年7月、ついにお披露目された。従来モデルでは土と少しのセメントを組み合わせていたが、今回の壁材はセメントなしで土を主原料とした天然由来の素材で構成されるという、国内初かつ画期的な進化を遂げた。現在販売もスタートしており、いよいよ本格的な実用化フェーズへ。「model B」のお披露目の日に会場を訪問し、体感してきた。
住宅業界の課題解決から環境問題まで。未来を切り拓く住宅に
2025年7月、「Lib Work」の3Dプリンター住宅のモデルハウス「Lib Earth House model B」の完成披露記者会見、及び発表式典が開催された。
熊本県山鹿市に本社を置く住宅メーカー「Lib Work」。「サステナブルな家づくり」をテーマに注文住宅・規格住宅の企画・建築・販売を行っており、オリジナル商品から他企業とのコラボレーション商品まで、多様な家づくりに臨んでいる。さらに、デジタルマーケティングや工務店向けサブスクリプション事業など、多角的な事業展開も行っている。
そんな同社が挑む意欲的な新プロジェクトが、3Dプリンター住宅「Lib Earth House(リブアースハウス)」だ。近年、世界的に3Dプリンター技術を活用した住宅建築は注目を集め、国内でも存在感を示しつつあるが、「Lib Work」が開発したのは、壁材に従来のコンクリートではなく「土」を用いる国内初のモデルだ。これまでのプロトタイプモデルを経て、今回お披露目された2作目「model B」は、一般販売を視野に入れた実用化段階へと踏み出した一棟となる。
■関連記事
3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待

山鹿市鹿央町にある同社敷地内に建てられた「model B」。その完成式典の様子(写真撮影/中川千代美)

完成披露記者会見に臨む、代表取締役社長の瀬口 力(せぐち・ちから)さん(写真撮影/中川千代美)
この3Dプリンター住宅を生み出した背景について、代表取締役社長の瀬口 力(せぐち・ちから)さんはこう語る。
「自動車や電化製品などは技術革新が加速度的に進んでいますが、住宅業界は50年以上、構造もデザインもほとんど変わっていません。しかし今、住宅建設業界は深刻な課題を抱えています。その課題を解決し、住宅の未来を大きく進化させるには、抜本的な変革が必要なのです」
瀬口氏が指摘する「深刻な課題」の1つが職人不足だ。日本国内の大工の人数は、10年後には半減、20年後にはさらに減少するという予測もある。さらに、建築コストの高騰や工期の長さといった問題も、従来型の家づくりを圧迫している。
「今後も物価高が続いていき住宅が高騰していけば、高級バッグの一品制作のようにアート作品化していき、一部の人に限られた商材と化し、一般の人の手には届かなくなる、そんな未来も予想できます。しかし、3Dプリンターの活用によって住宅を工業製品化することで、これらの課題を解決し、住宅の未来を大きく切り拓くことに繋げたいと思っています」
「model B」のコンセプトは「サステナビリティ&テクノロジー」。高精度な再現性と工期の短縮を実現する3Dプリンター技術に、自然素材である「土」を掛け合わせることで、環境負荷の軽減と建築コストの抑制という課題に同時に応える。
「家」を再定義する―未来の家をつくる―、この「Lib Earth House(地球の家)」のスローガンは、そのような瀬口社長の思いと使命感がこめられている。

建築現場で使われるものと同じプリンターによる3Dプリントの様子。実際の家づくりの際も、デジタル設計データに基づいて製造現場で直接壁をプリントし組み立てる「オンサイト型」の方法を採る(写真撮影/中川千代美)

職人の腕に左右されず、短い工期で品質の再現度が高い家づくりが可能になる。さらに、人の手では難しい曲面や一体型家具などの造形も可能(写真撮影/中川千代美)
自然素材とテクノロジーとのかけ算で、快適な住空間を創出
今回のモデルハウス「model B」で注目すべきポイントの1つが素材だ。
今、日本で開発されている3Dプリンター住宅はセメントを主原料としたもののみ。しかしサステナビリティの観点から、再生可能な「土」を主原料とする製造にこだわった。これは、国内初の技術だという。
2024年につくられたプロトタイプモデルハウス「model A」では、強度の関係で土・もみがら、藁(わら)、石灰などその他の自然素材に10%程度セメントを配合したものだった。
しかし今回の「model B」では、研究の積み重ねにより強度面の課題を解決し、セメントを配合せず自然素材のみで土壁を構成することに成功した。土・砂成分が約65%、残りは消石灰を含む結合材や自然繊維。強度は従来のものの約5倍で、収縮ひび割れも起きにくい仕様となった。
地球上で豊富に得られる自然素材を使うことで、製造時のCO2排出量の大幅な削減にもつながる。同社による100平米の住宅での試算では、RC住宅に比べて約50%、木造住宅よりも少ない排出量で建設が可能という数値結果が出ているという。

土壁には淡路島産の土を使用している。淡いクリーム色は土の色がそのまま現れたものだ。将来的にはその地域に合った土の活用、さらには建設残土問題への貢献も構想しているという(写真撮影/中川千代美)
とはいえ、「土だけだと水漏れは?」「壁に水分が染みてしまうのでは?」と不安になりそうだが、ここも技術面でクリアしている。独自開発の特殊なコーティングを施すことにより、水の浸入を防ぐことが可能に。記者会見の際には、実際に水を吹き付ける実験も行い、その耐水性が実証された。

右半分がコーティングを施した箇所。水に濡れて色が濃くなっている左半分と比べ、色に変わりがなく、手で触れてみると水が染みていないことも感じられた(写真撮影/中川千代美)
また構造に関しては、現行法で土を構造体として使用できないという状況もあり、木造軸組構造を主構造とし、構造体は木、造形は土のハイブリッドだ。「model B」は耐震等級3相当で設計されており、これは熊本地震の最大震度7にも耐えうる強度である。
では、居住空間の快適性はどうだろうか?
「model B」の中を見てみる。床面積約100平米の居住空間に、LDK、トイレ、バス、居室、中庭などが設けられている平屋の住宅だ。プロトタイプだった「model A」と違い、「住居として住める」形として完成されている。
デザインの自由度が高いという3Dプリンターの特性を兼ねて、空間を小分けにしたようなクラスター型の間取りに。大窓などで外部環境を取り入れられる設計となっている。
土壁と親和性の高い木の建材も取り入れられており、自然の優しい温もりを感じられる質感と従来の木造住宅にはないデザイン性を兼ね備えた空間だ。

土壁のカーブが光るリビング。木との調和が心地よい(写真撮影/中川千代美)

ダイニング・キッチン。天井は板張り、床は粘土などの天然素材を配合したソイルペイント、木枠のサッシ、そして壁は土壁と、自然のさまざまな質感を楽しめるデザイン。「model B」では、あえて自然の色を感じられるようなアースカラーに統一 (写真撮影/中川千代美)

ダイニングには中庭が見える大窓が配されている。外からの目線を遮りつつ開放感を持たせる都市型の間取りを意識(写真撮影/中川千代美)
お披露目当日は快晴で35℃を超える酷暑だったが、これだけの大窓がありながら、屋内はどの部屋も快適で静かだった。土壁内に断熱材が充填されているのはもちろん、土壁自体も高い調湿機能を持ち、日本の気候風土に合った機能性を持っており、過ごしやすい室内空間をつくり出してくれるという。
そして、テクノロジーがさらなる快適性を補填する。
IoTによる次世代住宅管理システムを搭載。壁の内側にセンサーをつけてリアルタイムで壁の中の温度・湿度をモニタリングできるシステムを備えている。万が一、雨漏りなどの浸水があっても即座に察知し防ぐことができるなど、「家の健康」を監視できる機能だ。加えて、スマートフォンで電気やエアコンの管理、鍵の施錠・解錠ができるなど、住む人のライフスタイルに応じていろんな箇所に機能を追加・更新できるため、住宅をアップデートし続けられる可能性も秘めている。

スマホで一元管理・見える化できるため、屋外からの操作も可能(写真撮影/中川千代美)
そして、サーキュラーエコノミーの実現を達成している点にも注目だ。
同社は2025年6月に、電気自動車大手のテスラの家庭用蓄電池『パワーウォール』の認定販売会社に登録。「model B」にも太陽光発電と『パワーウォール』を搭載しており、独立した電力供給システムを構築している。
「万が一停電した際も、日照さえあれば家庭内の電気は賄えますし、日照がなくても数日は電力が持つ計算です。つまり、電気の供給がないところでも生活できるということです」(瀬口社長)
電気の自給自足で環境に優しいくらしの実現ーー、これも「サステナビリティ&テクノロジー」というコンセプトを象徴しているポイントの1つともいえる。

テスラの蓄電池『パワーウォール』。蓄電容量は13.5kWh、出力は5kWと大容量、高出力を誇る。こちらもスマートフォンのアプリで監視や操作が可能(写真撮影/中川千代美)

自然素材に加えて、自然光や風を効果的に取り入れる設計で、自然の力も十分に活かして住環境を快適に(写真撮影/中川千代美)

書斎は落ち着いた空間に。空間を壁で仕切るのではなく、部屋ごとに造形しているクラスター型の間取りも新しい(写真撮影/中川千代美)

寝室も居心地良い空間。床から天井までのフルハイトサッシで、自然光も優しく取り入れられる(写真撮影/中川千代美)
AIによるフルオートビルドにNFT化……。グローバルを見据えてさらなる展開を
「未来の家をつくる」とのスローガンに違わず、さらなる展開へと動いている瀬口社長。
カナダの生成AI開発企業『Market technologies』社との共同開発により、世界初のAIフルオートビルドを目指して始動をしている。家族構成や土地の形状、方角、ライフスタイルの希望など顧客の要望を入力することでAIが自動で設計し、3Dプリンターによる施工まで一気通貫の自動化を構想している。
さらに、「今後、3Dプリンター住宅企業は国内外問わずたくさん登場すると思います」と予測する瀬口社長。設計のデジタルデータの複製なども簡単に行われてしまうかもしれない、そんな時代の到来に備え、設計図の無断複製阻止や「Lib Work製」であることのブランド価値の証明などを見据えたNFT化や、グローバルな販売・取引を見据えた決済方法なども構想しているという。「シリアルナンバリングを行うことで資産価値を創出できるかもしれませんし、メタバースに転用したり、FC展開やライセンス展開も効率的に行える可能性があると思います」(瀬口社長)
従来の「家づくり」の概念を大きく打ち破る、革新的な展望は尽きることなく続いていく。

未来に向けて意欲的に新しい技術を取り入れている(写真撮影/中川千代美)

今は先駆者でも、数十年たつと3Dプリンター住宅企業が多く登場するかもしれないと予測する瀬口社長(写真撮影/中川千代美)
2026年より受注スタート、価格帯は2000万円から。2040年までに累計1万棟を目指す
この3Dプリンター住宅「Lib Earth House」は、2025年8月より販売開始、2026年1月より受注スタート、そして同4月より着工予定だ。
価格帯についてはスタンダードモデル2000万円~(約70~80平米、水廻りなど含む)を想定。
ちなみに、今回紹介したモデルハウスは建材や仕様のグレードが高い「プレミアムエディション」となるため、6000万円~(水廻りなど含む)の販売価格が目安となる。
気になる工期は、土壁の造成に2~3週間、内装まで含めて全体で約1カ月半程度を目指すという。やはり従来の木造住宅と比べると短い工期と言えるだろう。
また、現在は平屋造りの「model B」の販売だが、同時進行で2階建ての「model C」の研究開発も進んでいるという。自由度の高い設計に加え、2階建ても可能になると、さらに選択肢が広がる。
本格的に事業として動き始めた今、2040年までに累計1万棟の受注・着工を目指すと語る瀬口社長。
「大きな数字に見えるかもしれませんが、我々はとんでもない数字だとは思っていません。というのも、Grand View Research, MarketsandMarkets, ResearchAndMarkets等の複数グローバル調査会社によるシナリオ
を参考に独自に集計・推計したものでは(参考:世界の3Dプリンター建設市場予測)、世界における3Dプリンター建設市場は2034年までに221兆円にまで伸びるという予測が出ています。一方で現在は、世界を見ても3Dプリンター建設のプレイヤーは未だ数十社しかありません。そう考えるとこの数字を我々だけで達成するのは不可能で、日本中にパートナーをつくりたいと思っています」
全国でFC展開を行い、3Dプリンターの導入支援、設計データ提供、技術研修、運用サポートなどを提供。日本における市場自体の拡大を図る狙いだ。
「この『3Dプリンター住宅』をきっかけにして、サステナブル&テクノロジーで住宅業界にイノベーションを起こしていきたい。それが我々に課せられた使命だと思っています」と、瀬口社長はこのプロジェクトの意義を、改めて力強く語った。

(写真撮影/中川千代美)
3Dプリンター技術にIoT、AIなど革新的な技術が多く取り入れられている一方で、日本古来の建材や意匠の魅力、知恵も取り入れられている、同社の3Dプリンター住宅。これまでの住宅業界の概念を打ち破りつつも、人々の暮らしに寄り添った家づくりに徹しているからこそ、「工業製品化」と言いつつも無機質なものにならず、どこか温かさを感じられる家に仕上がっている。今後、住宅の未来がどう変わっていくのか、動きに注目し続けたい。
●取材協力
株式会社Lib Work

~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。
ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/
TwitterID: suumo_journal
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。