連続ドラマW-30「塀の中の美容室」奈緒インタビュー「演じることで、自分と違う視点や価値観を思い出す」

ひとりの受刑者と社会を生きる女性たちの人生が交錯する感動必至の温かな“再生”の物語。女子刑務所に実在する美容室をモデルにした小説を、主演に奈緒さんを迎えてドラマ化。『塀の中の美容室』がWOWOWで配信中です。

女子刑務所の中にある“あおぞら美容室”を舞台に、美容師・小松原葉留がさまざまな事情を抱えたお客様たちの想いに寄り添うように、彼女たちの言葉に耳を傾けながら髪を切っていく。そんな人々との出会いを通し、葉留が自ら犯した罪、そしてこれからの人生とどう向き合っていくのかを描き出す本作。奈緒さんに撮影の思い出や印象に残っていることをお伺いしました。

——全てでは無いのですが拝見し、とても素晴らしかったです。奈緒さんは撮影を終えた時、どの様なお気持ちになりましたか?

撮影は終わりましたけれど、塀の中では葉留の人生は続いているので、彼女が今どうやって生きているのだろう?と考える時間があって。毎日すれ違う人の中には、もしかしたら葉留のような人がいるかもしれないと思うんですよね。葉留が罪を償った後、幸せに生きていることを願いますし、葉留の身の回りの人、葉留が傷つけた人、みんながそれぞれの幸せを生きていることを願いながら、今の自分には何が出来るんだろうということを考えるきっかけとなった作品です。それは私だけではなくて、制作チームみんなの想いなので、観てくださる方に少しでも届いてくれたら嬉しいなと思っています。

——葉留はお客様の髪をカットしながら、自身の罪と向き合っていますから、演じる上でも大変なことが多かったかと思います。

大きな後悔を持った人を演じることになるので、とても苦しいなと感じていました。葉留を演じている時は、本当に苦しくて。自分の気持ちというものを出せない時間が長かったので、今まで感じたことのない孤独感みたいなものがありました。カットがかかった後の現場ではその分すごく穏やかで楽しく過ごせていたので、日常の尊さみたいなものも感じで。演じている時との時間と、普段に戻った生活とのギャップで、日常が大切に輝いていたんです。とても印象的な日々でした。

——葉留という人物をどの様にとらえていましたか?

葉留は小さい時に夢もあって、大切な家族がいて、普通に恋をして、ささやかな幸せを願っていた女性だと思います。何かが少し違ったら、罪を犯さずにいられたんだろうということもたくさん考えてしまっていたんですけど。私たちがそうであるように、誰にでも罪を犯す可能性はあるんだっていうことを、葉留を見ていて改めて感じました。罪を犯してしまった未熟な彼女ごと、役として受け入れて演じたいと思いました。
葉留自身を理解しようとすると、過去に焦点を当てて考えなければいけないなと感じていたので、お母さんとお姉ちゃんとの関係だったり、何が葉留にとっての挫折で、何が葉留にとっての大切なことだったんだろうと、1つ1つ考えていきました。
それは他の作品でもしてきたことですので、いつも通りの役との向き合い方を今回もしました。その中で1つ、葉留のために特別にやらないといけなかったことは、刑務所の中での生活がどういったものなのかを知るということです。そして、美容師になった葉留にとって、お客さんの髪の毛を切るという行為がとても大事な時間なので、その2つを深く知ることが、葉留を知ることの手がかりになるんじゃないかと思いました。
なので、たくさんカットの練習をさせていただいたり、刑務所の取材の時間でも色々と質問させていただきました。

——カットの練習をたくさんされたということですが、所作が本当に美しくて自然でした。

ありがとうございます。まず、「自信を持って立つ」ということのハードルが高くて。幸運だったのは、美容師さんの仕事について何も知らなすぎて、自分が出来ているのかどうかが分からないままがむしゃらに出来たことです。皆さんが「出来てる!」ってすごく褒めてくださったんですよ。「こんなに早く、奈緒ちゃんじゃないと出来ないよ!」とひたすら褒めて伸ばしてくださって(笑)。私自身出来ているか分からなかったのですが、みんなから見て大丈夫なのだったら出来ているんだ、と堂々と自信を持ってあおぞら美容室に立つことが出来ました。

——日常的に当たり前の様に美容院に行っていますけれど、人の髪を切るというのはとても難しいことですよね。

そうなんですよ。どれだけのことをこの短い時間でやっているんだろ、こんなに難しいことなのかと思いました。笠松刑務所へ取材に行った時に、美容室で髪を切っている美容師さんにどうしても聞きたくて1つ質問したんです。「初めてお店に立ち始めた頃、出来なくて叱られることもありましたか?」と。そうしたら「たくさんありました」と、その時のことを思い返して、ちょっと気恥ずかしいようなお顔をされていて、私はその時にすごく安心したんです。私がお会いした美容師さんはもう完璧で優しくてすごくカッコ良かったから、これを自分が演じるのだとすごく緊張したのですが、始めた頃は失敗もあったと聞いて、どこか安心して。葉留にも最初は失敗があったのだと、すごく勇気をいただいて撮影に臨めました。

——素晴らしいエピソードをありがとうございます。その他、撮影で印象に残っていることはありますか?

私が着ているオレンジ色の囚人服があるのですが、衣装さんがすごくこだわって作ってくださって。生地をよく見るとオレンジ以外の色も練り込まれているような感じで、私たちの大のお気に入り衣装になったんです。刑務所の中の日常として、みんなでスポーツをするシーンがあるのですが、その時に囚人服を着ているエキストラさんたちはスタッフさんたちだったりするんですね。みんな同じ服で全力でスポーツを楽しんで、一体感がすごくありました。
撮影が終わった後に、(囚人服を)いただこうとずっと思っていたんです。でも出所したシーンを撮り終えた後に、私が持ち帰るのはやっぱり違うなってちょっと思ったんです。葉留がこの服とお別れするのと同時に、私もお別れしないといけないんだって自然に思えて。

——奈緒さんは他の作品でも衣装を持ち帰ったことがあるのですか?

本作と同じ、松本佳奈監督のドラマ『春になったら』(2024)の衣装は、いただいたんです。今回、松本組のスタッフさんも多かったので、「気がつくかな?」と思って瞳のニット(ドラマ『春になったら』の主人公)を着ていったんです。そうしたら、みなさん一瞬で「瞳の服だ!」と言ってくれて。「よく気付きましたね」と言ったら、「もちろん気付きますよ」って。嬉しかったです。
そうやって昔の作品のスタッフさんと再会出来ると「瞳は元気かな」というあたたかい気持ちになります。

——そうして、キャラクターへの想いがたまっていくことは、素敵なことであり、大変なことでもあるのかなと想像しますがいかがですか?

大変な部分もあるのかなと思うんですけれど、それよりもすごく幸せなことだと思っています。役から学ぶこともすごく多くて、自分と違う視点を思い出したり、自分と違う価値観を思い出す瞬間をもらえるので、演じるということはありがたくて幸せな時間だなと思っています。

——今日は楽しいお話をどうもありがとうございました!

撮影:たむらとも

連続ドラマW-30「塀の中の美容室」
■放送日時:8月22日(金)午後11時スタート(全7話)
毎週金曜午後11時~ [第1話無料放送]
【WOWOWプライム】【WOWOWオンデマンド】
<スタッフ・キャスト>
原作:桜井美奈『塀の中の美容室』(双葉文庫)
監督:松本佳奈
脚本:狗飼恭子
音楽:林正樹
出演:奈緒
夏帆 成海璃子 光石研 小林聡美
祷キララ 中島セナ 上川周作 中島歩 西田尚美
長井短 広岡由里子 伊勢志摩 木梨憲武 朝加真由美 由紀さおり
プロデューサー:高嶋ともみ 荒川優美 山本章 松浦ちひろ
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
制作協力:日活
製作著作:WOWOW

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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