【連載コラム】マンガライターちゃんめいの「一曲、読んでみる?」第3回 ―『クズの本懐』(横槍メンゴ)とサンボマスター 「青春狂騒曲」
このマンガを読むとあの曲が脳内に鳴り響く…。
それは逆もまた然りで、時にマンガと音楽が出逢う奇跡みたいな瞬間がある。本連載では、そんなマンガと音楽の邂逅に恵まれた瞬間をマンガライターのちゃんめいが徒然なるままに綴っていきます。
<紹介する作品>
・『クズの本懐』(横槍メンゴ)
・サンボマスター「青春狂騒曲」
思い返せば、私たちの子供時代のアニメ主題歌は、やたらとギターが唸りを上げていた。例えば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「遥か彼方」や「リライト」、FLOWの「GO!!!」ロードオブメジャーの「心絵」、DOESの「曇天」。好きなアニメ作品の主題歌だ〜!と無邪気に歌っていたあの曲たちは、今思うと有名な邦ロックバンドたちの大名曲だった。
今でもイントロを耳にするだけで、ナルト、キバ、チョウジ、ネジのシカマル小隊の戦いが脳裏に浮かぶし、とにもかくにも条件反射で「サスケェエエエエエエ!!」と叫びたくなる。もはや「青春狂騒曲」と『NARUTO -ナルト-』はワンセットだし、何度聞いても思わず胸が熱くなる。
だけど、それだけじゃない。この「青春狂騒曲」にもう一つの音色があることを教えてくれたのが、
『クズの本懐』(横槍メンゴ)だった。
安楽岡花火と粟屋麦は、誰もが羨む美女美男の高校生カップル。けれどその関係は“真実”ではない。なぜなら、2人はそれぞれ別の人に恋をしているから。
花火が想いを寄せるのは、幼い頃から「お兄ちゃん」と慕う鐘井鳴海。麦が心を捧げるのはかつて家庭教師だった皆川茜。偶然にも、鳴海と茜が2人の通う高校に新任教師として赴任したことをきっかけに、物語が大きく動き出す。
2人の想いをよそに距離を縮めていく鳴海と茜。そんな互いの本命たちを見つめながら、花火と麦は互いに同じ匂いを感じ取る。やがて「お互いを好きにならないこと」「どちらかの恋が叶ったら終わりにすること」「身体的欲求には応えること」を条件に、本命の代用品として互いを見つめ触れ合う“偽り”の交際をスタートさせる。
――報われない片想い、打算的な関係、恋と呼ぶにはあまりにも痛々しい欲望。青春なんて言葉からは程遠い、ぐちゃぐちゃに揺れる想いに翻弄される花火と麦だが、そんな2人はある日高校生カップルの定番「放課後カラオケ」に行く。
嫌でも毎日のように目にしてしまう、お兄ちゃん(鳴海)が、茜に恋している瞬間…。抑えきれない苛立ちを花火はマイクに叩きつけるようにして「青春狂騒曲」を歌い始める。彼女を隣で見つめる麦は、静かに問いを投げかける。この恋を諦めようとは思わないのか? と。
花火にはその麦の冷静さと問いが癪だったのだろう。思いのぶつけどころを失った花火は、衝動的に麦へマイクを渡し、肩を並べて2人で「青春狂騒曲」を歌うのだ。強がりと、本音と、少しの寂しさを混ぜながら。
揺れる想いは強い渦になって 溶け合うのよ
サンボマスター / 「青春狂騒曲」
周囲の目から見れば、この恋はきっと滑稽で痛々しい。さっさと諦めて、次の恋を探せばいいじゃないかと言う人もいるだろう。けれど、恋はそんなにシンプルじゃない。諦めたくても簡単には諦められない。一方で、「諦めない!」と強く言い切ることもできない…。その間で揺れる気持ちは、どうしようもなく青くて、美しい。
「青春狂騒曲」は、友情や青春の迷いも熱も、何もかもを全力でぶつけるような、まっすぐな名曲だと思っていた。だけど『クズの本懐』で響くそれは、どこか歪で、切実で、狂おしい。焦がれるような恋の葛藤や、満たされない思いが、歌詞の一つひとつに重なっていく。一筋縄ではいかない想いに揺れる2人のデュエットは、切なさと痛みが溶け合うような音色で、私の心の奥を静かに震わせた。
●マンガライターちゃんめいの「一曲、読んでみる?」は毎月1日22時に掲載予定です
プロフィール
ちゃんめい
マンガライター。マンガを中心に書評・コラムの執筆のほか作家への取材を行う。宝島社「このマンガがすごい!2024、2025」参加、その他トークイベント、雑誌のマンガ特集にも出演。オールタイムベストは『鋼の錬金術師』(荒川弘)。
https://x.com/meicojp24
https://chanmei-manga.com/
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