コントラバス / ベース奏者の山本昌史、第24回佐治敬三賞を受賞
コントラバス奏者、NATSUMENのベーシストとしても活動する山本昌史が、2024年1月公演「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」で、第24回佐治敬三賞を受賞した。
同賞は、公益財団法人サントリー芸術財団により、国内で実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画でかつ公演成果の水準の高いすぐれた公演に贈られるもの。
山本昌史はプログレッシブハードコアバンドNATSUMENやMEGALEV(加藤雄一郎sax, オータコージdr)のベーシストとして活動しており、ポストロックバンド3ndや、緋と陽にも在籍。ベーシストとしてライブハウスやサマソニ、フジロックなどに出演、クラシックのコントラバス奏者としてミュージカルやプロオーケストラに客演しながら、近年は独奏コントラバスのための現代作品や、即興演奏、自作の実験的音楽など、趣向を凝らしたプログラムでソロコンサートを開催している。
第24回(2024年度)は、「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」と、「田中悠美子リサイタル2024~義太夫三味線の音響世界」が同時受賞となっており、賞金は各100万円が贈呈される。後日贈賞式が予定されている。
贈賞理由
「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」
山本昌史はコントラバス奏者という立場を超え、現代の作曲界をグローバルな視野で捉えながら、他の演奏家たちの視野になかなか入らない作曲家の作品を採り上げて、それらをみごとなパフォーミングで披露する。このひとがいるおかげで、ことに日本の現代音楽界は格段に広い地平と展望を得ている。2023年に神奈川県立音楽堂で催された「紅葉坂プロジェクトvol.2」では、ピエール・ジョドロフスキのライヴエレクトロニック作品に広い空間を用いて八面六臂の活劇的演奏を繰り広げた山本だったが、2024年1月のThe Unplugged Theatre(アンプラグド・シアター)は、それとは対照的なアトリエ第Q藝術というインティメットな空間で催された。3日間にわたり2つのプログラムで行われたこの演奏会は、凝縮された音と荒行的な演奏行為の数々によって、会場の空気の密度を破裂させんばかりに高め、聴衆を強度の興奮状態へと導いた。現代作品によるこのエクスタシーは近年では珍しいものだ。ジョン・ケージ、一柳慧、森田泰之進、木下正道、ジェイコブ・ドラックマン、フィリップ・ボアヴァンというAプログラムの並びを眺めただけでも、山本がこれまでのコントラバス奏者、あるいは現代作品奏者たちとは異なった角度、それも「今」の仰角から音楽界を見つめていることが了解されよう。Bプログラムではケージ、一柳、ドラックマンの代わりに高木日向子、藤倉大、ヤン・ロバンの作品が入る。がたいの大きなコントラバスは、いろいろな「付き合い方」が可能な楽器だが、山本は通常奏法に秀でることは言うに及ばず、特殊奏法やばちを使った奏法、楽器を傾けたり裏返したりと言った挙動、打楽器的な扱い、声を伴いながらの演奏・・・あらゆる演奏行為を、あたかもそれがこの楽器本来の奏法であるかのように連続的にこなしながら、それぞれの奏法に緊張感を常駐させる。特殊奏法から見れば、通常奏法こそが「特殊」なのだ。その相対性のなかで、でもけっして演奏が平準化しないのは、ひとえに山本のパフォーミングに漲る強度ゆえである。両プログラムの最後を飾る、長大なボアヴァン作品では、床一面に広げられた五線譜に従いながら、コントラバスという楽器との等身大の格闘技が繰り広げられる。まさに「プラグの外されたシアター」だ。ときに山本は楽器の影に隠れ、見えなくなり、また楽器との添い寝もする。演奏者と楽器と、どちらがこの芝居の主役なのか?いやこれはむしろ「ふたり」の対等なデュオ。山本がコントラバスから音を引き出すと同時に、コントラバスが山本という人格を引き出している。そのチャレンジングな楽器との相克は、まさに佐治敬三賞の精神に相応しい。
(長木誠司委員)
プロフィール
山本昌史(やまもと・まさし)コントラバス奏者
静岡県掛川市出身。東京藝術大学音楽学部別科修了。NATSUMENベーシスト。オーケストラ・トリプティーク首席コントラバス奏者。
コントラバスソロを活動の中心とし、現代作品、とくに再演の少ない作品の復活と継承を自らの使命と課す一方、国内外の作曲家への委嘱も積極的に行い、コントラバス独奏曲のレパートリー拡大に努める。コントラバスによる新たな音楽表現を追求し、ソロ企画では独奏コントラバスのための現代作品、自作の実験的音楽など趣向を凝らしたプログラムを展開。これまでに、静岡音楽館AOIとの共同主催事業や、日本現代音楽協会「ペガサス・コンサートvol.VI」などに採択されている。神奈川県立音楽堂「紅葉坂プロジェクトvol.2」 では、映像、照明などマルチメディアを伴う怪演でコントラバス独奏の新境地を開いた。2024年1月には、アトリエ第Q藝術にて『山本昌史コントラバス・ソロ アンプラグド・シアター』を主催。三日間4公演、全編無伴奏の現代作品のみ、2種類のプログラムで、独奏コントラバスの存在感を最大限に示した。
演奏活動は国内にとどまらず、近年は海外の作曲家や演奏家と広く交流を持ち、ポーランド、ドイツ、フランスにてソロ公演を行う。ピエール・ジョドロフスキに招聘され、ワルシャワ新劇場Nowy Teatrにて行ったソロパフォーマンスは、ポーランドのテレビ放送「Informacje kulturalne」にも取り上げられ、「非常に強い集中力と正確さ、質の高い芸術表現」と評される。
ダルムシュタット夏季現代音楽講習会では独奏が評価され、クラニッヒシュタイン特別賞受賞。また、自作曲『REAL TIME – The Elf in Big f -』が国際コントラバス奏者協会(International Society of Bassists)主催「デイヴィッド・ウォルター作曲コンクール」コントラバス&エレクトロニクス部門で、同部門日本人初となるグランプリを受賞。2025年フロリダでのコンベンションにて受賞作品が再演されるほか、演奏家としても招聘されリサイタルを開催する。さらに、ワルシャワの現代音楽祭「AżTak Festival」に招かれ、ポーランドの作曲家ヴォイチェフ・ブレチャーズの作品初演を含むソロリサイタルを行う。
ソリストとして森田泰之進作曲のコントラバス協奏曲を初演。サントリーホールサマーフェスティバル、N響ミュージック・トゥモローなどに客演。即興演奏家としても様々なプレイヤーと共演している。
アーティスト情報
・山本昌史オフィシャルウェブサイト
masashiyamamoto.net

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