高齢化率30%超の静岡市で生活困窮者が増加。住まい探しから入居後まで”地域福祉”の居住支援はじめた社会福祉法人の覚悟 居住支援法人パラレル
コロナ禍においては、閉業や事業縮小などで職を追われ、生活困窮に追い込まれる人が多くいました。生きていく上で大切な基盤となる「住まい」の支援の必要性を感じて居住支援法人パラレルを立ち上げたのは、介護事業を主業とする社会福祉法人・静和会でした。介護職員による買い物バス運行支援など「地域貢献」から始まった住まいの支援とは? パラレルの居住支援サポーター・柴田涼(しばた・りょう)さんと、静和会 静岡グループ・グループ長の成岡桂子(なるおか・けいこ)さんに話を聞きました。
高齢化率の高い静岡市、コロナ禍で住まいに困窮する高齢者が増加
静岡県の県庁所在地である静岡市。三保の松原(みほのまつばら)や富士山などの観光地も知られています。一方で、同市における高齢化率は、2020年時点で30.2%。今後も高齢化率は高くなり続ける見込みで、市内の人口減少のなかで進む高齢化は、喫緊の対応を要する課題です。
静岡市の2020年時点の高齢化率30.2%で、今後も高くなり続ける見込み(資料/静岡市「静岡市健康長寿・誰もが活躍のまちづくり計画(2023~2030)」、出典/2020年(令和2年)までは総務省「国勢調査」、推計は国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年3月推計)」)
静岡市の葵区・駿河地区を中心に介護事業を展開している静和会の成岡さんは、2020年当時の状況を振り返って、次のように話します。
「コロナ禍で企業が雇用を控えたり、出歩くこともはばかられるようになったりして、それまでなんとか家で暮らしていた高齢者の体力の衰えが進み、介護をする家族が職を失うことも多くありました。収入が少なく健康に不安のある高齢者は、不動産会社に住まいの相談をしても『なかなか貸してもらえない』という話をよく聞くようになったのもこのころです」(成岡さん)
住所が定まらなければ、職に就くことや、自治体からの生活支援を受けることもままなりません。静和会は地域の高齢者と関わるなかで、生活の基盤となる住まい探しをサポートする「居住支援」の必要性を、強く感じるようになりました。
介護福祉の枠を飛び出して、ひとり親や低所得者にも支援の手を
静和会が居住支援法人を設立するきっかけは、2015年に社会福祉法が改正されたこと。これを機に静和会は、地域とより深く関わっていくために地区の社会福祉協議会(以下、地区社協)が主催する「地域福祉懇談会」に参加し、自分たちで地域の聞き取り調査を行ったり「買い物支援」「認知症カフェ」「地域交流スペースを活用した児童クラブ」などへ活動を広げました。成岡さんと、当時、静岡市の社協で生活支援コーディネーターをしていた柴田さんが出会ったことで、2021年6月に居住支援法人パラレルを設立するに至ったのです。
パラレルの専従スタッフの柴田さん。市社協で生活支援コーディネーターをしていたこともある(画像提供/パラレル)
パラレルでは、高齢者やひとり親、低所得者など、住まい探しに困っている人たちが安心して住める場所を探す入居サポートを行っています。その支援の流れは、次のとおり。
1. 相談を受ける
2. 相談に来た人に、どのような状況で住まいに困っているのか、どのような住まいを探しているのか、家賃として支払える金額などをヒアリングする
3. 不動産会社に希望条件などを共有し、入居可能な物件を提案してもらう
4. 相談者本人に入居の意思を確認
5. 内見に同行し、入居可能かどうかを確認する
6. 契約締結に同行
一見すると上記のような住まい探しの流れは、不動産会社とのやりとりで完結しそうに思うでしょう。しかし、入居を希望する方のなかには、ご自身の状況を整理して物件の条件に落とし込んだり、入居の段取りまでサポートが必要な人もいたり、オーナーや管理会社側には、家賃を支払い続けられるかといった懸念から、初めから断ってしまうケースも現実には多いのです。
こういった相談はパラレルに直接来ることもあれば、静岡市から入居先が決まらずに困っている人を紹介され、支援することもあるそうです。
居住支援法人パラレルは介護事業をメインとする静和会が立ち上げた居住支援法人。行政や不動産会社、他の福祉支援団体と連携を取りつつ居住支援を行う(画像提供/パラレル)
※居住支援法人:さまざまな事情から住まい探しに困っている人たちを支援する法人として、各都道府県に指定された団体
住まい探しだけで終わらない。引越しや入居後の支援
これまでにサポートしてきた相談者の年齢や事情はさまざま。
古くなった建物の取り壊しで住む場所を追われた90代の独居男性や、DV被害を受けて逃げてきたひとり親家庭の住まい探しなども支援してきました。
連帯保証人がいないケースのほか、高齢者の場合は孤独死や認知症など、何かトラブルが発生するのではないかと懸念する管理会社やオーナーから入居を断られることも多いそうです。場合によっては家賃保証会社の利用ができずにパラレルが緊急連絡先になることもあるのだとか。
さらには住まい探し以外の支援が必要なことも。例えば、「(行政や金融機関の)窓口に相談に行くのが怖い」と、手続きや問い合わせに行くことを躊躇(ちゅうちょ)する人に柴田さんが窓口に同行することもあるそうです。
「60代の母と30代の過食症の娘の二人暮らしの住まい探しのケースでは、低所得世帯であるにもかかわらず、食費がかさみ、布団やエアコンなど生活に必要なものすら買えない状況でした。そこで入居後も、市の生活保護の窓口や関係する支援団体に相談し、リサイクルを行う団体などにも問い合わせて一緒に生活に必要な物品を集めました」(柴田さん)
住まいの支援を必要としている人は、住居以外にも複合的な問題を抱えていることが多いため、入居後も支援を必要とする人に適度な距離で寄り添いつつ、伴走していく継続的な支援を行っているそうです。
パラレルの居住支援は入居先を探したら終わりではない。入居先のドアを一緒に修理するなど、自立のサポートを軸に支援を行う(画像提供/パラレル)
相談数・入居数は年々増加。地域活動を通じてネットワークが広がる
パラレルは、2021年度の相談受付数が71件、うち入居まで至ったケースは17件。2023年度には相談受付数138件、入居数が42件と、相談受付数と入居数のどちらも増加し、2024年度もそれを上回るペースで推移しています。
「市の生活支援課や住宅政策課とは、日ごろから密に連絡を取っており、住まいに困る方がいれば紹介したいと相談の連絡があります。現在は、市内で住まいの支援を行う企業や団体が集まって情報を共有し、円滑に支援を行うための「居住支援協議会」を静岡市独自で設立しようと準備を進めているところです。
また、相談に来た人が借りられそうな物件を紹介してくださる不動産会社とも、日ごろの情報共有の積み重ねによって関係を築いてきました。もともと静和会と繋がりのあった他の福祉団体とも連携して支援の幅を広げています」(柴田さん)
このネットワークを広げるため、柴田さんたちは年に1回、居住支援セミナーを開催したり、ひとり親支援団体と食糧支援やイベントを実施したり、精神科病院にいる人たちを積極的に地域で暮らせるように話し合う会議などに参加しています。さらに、静和会独自の「地域福祉活動助成金」を設置してNPO法人や任意団体の活動資金の援助をしたり、学生ボランティア団体に活動場所を提供したりといった地域への啓発、貢献活動も行っているそう。
セミナーの実施や地域の会議への積極的な参加など、支援の輪を広げていく活動も(画像提供/パラレル)
一方で課題も見えてきました。現在、専従しているスタッフは柴田さん一人です。支援を拡充し継続していくにはマンパワーも必要でしょう。
「入居ができたら支援が終わりではなく、他に問題を抱えている人もたくさんいます。入居後も生活を維持できるよう、継続して見守っていかなくてはなりません。しかし、私一人だと、月に3~4世帯に関わるのが精一杯といったところ。支援を充実させていくには人の手も必要です」(柴田さん)
そのため「興味を持ってくれる職員や基盤となる地域そのものを育てていくことも重要」だと成岡さんは話します。
「求められている事業ですし、とてもやりがいのある仕事だとも思います。静和会のなかでもパラレルの居住支援に興味を持つ職員が増えてきているので、スタッフが増えて『柴田さんでないと』ではない支援の体制をつくれたらと考えています」(成岡さん)
コロナ禍で明日立ち退きという相談者の引っ越しを手伝う静和会の介護職員(画像提供/パラレル)
今後の展望について二人に聞くと、次のような答えが返ってきました。
「『住まいに困っている人がいる』というメッセージを地域に普及していく活動などのモデルケースとして収益性は別にして、自分たちで物件をサブリースしてひとり親世帯向けや高齢者向けのシェアハウスなどを運営できたら」(柴田さん)
「高齢になっても『自分の街で暮らしたい』という希望をかなえるために、『介護が必要になったら即入居施設』ではなく、もっと地域で支えていけるような、一般住宅と施設の間の暮らし方を選択できる社会をみんなでつくっていきたいと思っています」(成岡さん)
介護福祉の枠を飛び出して「地域福祉」という視点からの居住支援は、住宅・不動産に関わる人とは異なる支援の形を提案できる可能性を感じます。静岡市で居住支援協議会が設立され、福祉団体だけではなく、不動産会社や他の居住支援法人との連携がさらに強化・拡大すれば、シェアハウスなどの運営も実現に向かっていくのではないでしょうか。今後のパラレルの活動と進化が楽しみです。
●取材協力
・社会福祉法人静和会
・居住支援法人パラレル
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