輝かしさと残酷さが同居する時代を演じる〜金子玲介『死んだ木村を上演』
注目の新人作家・金子玲介氏が『死んだ山田と教室』(講談社)、『死んだ石井の大群』(講談社)に続き刊行した長編である。デビューからまだ1年経っていないというのに、もう3作目か! 異例なスピードにも驚くが、それよりも感心するのは、読者の予想を想定外の方向に超えてくる力量である。特に芝居が好きな人には、ぜひ読んでほしい小説だ。
今回死んだのは、大学の演劇研究会に所属していた木村である。卒業公演の合宿中、川の中で溺死しているところを他の学生に発見されたのだ。状況から、警察は自殺と断定した。自身が作・演出をする公演に熱心に取り組んでおり、夢に向かって誰よりも努力していたはずの木村に、いったい何があったのか。
「八年前の真実を知りたければ、2024年1月9日14時、雛月温泉の宿・極楽へ来い」
差出人不名の脅迫状のようなDMに呼び寄せられ、当時の4年生で合宿に参加していた4人が集まってくる。庭田は、俳優として舞台に立ち続けている。咲本は、タレントになりしょっちゅうテレビに出ている。羽鳥は、立ち上げた劇団を成功させ、岸田戯曲賞を受賞した。井波は、演劇から離れて会社員になり家族を持った。謙遜しつつも、それぞれが自分の選んだ道で充実した時間を過ごしてきたようである。
誰も木村を殺したりはしていないし、自殺の原因として思い当たることもないと主張するが、脅迫者は納得しない。真実に辿り着くため、4人は合宿中にあった出来事を、過去の自分自身を演じることによって「上演」する。隠されていた出来事が徐々に明かされていき、誰にも言えなかった感情が吐露されていくのだが……。
現在の場面、八年前にあった出来事を演じている場面、卒業公演の戯曲を役としてそれぞれが演じてみせる稽古の再現場面の3つが、混ざり合いながら時間が進んでいく構成が面白い。輝かしさと残酷さが同居する時代を、もがきながら懸命に生きる登場人物たちの姿に、青春がはるか遠くなった私も、時折心がチクッとしてしまう。小劇場演劇を観ているときのように、役者たちの挙動や心の揺れを、ひとつも見逃したくないという気持ちにさせられた。
読者がそれまで見てきた場面が、鮮やかに転換するラストが見事だ。2025年にはどのような飛躍を金子氏は見せてくれるのだろう。今から楽しみである。
(高頭佐和子)
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