毒グモパニックホラー『スパイダー/増殖』ヴァニセック監督インタビュー「限られた予算の中で『エイリアン』の恐怖演出を参考にしたんだ」
過去20年間のフランス・ホラー映画で初登場第1位を記録し、スティーヴン・キング、サム・ライミ監督大絶賛の、新鋭セヴァスチャン・ヴァニセック監督による毒グモパニックホラー『スパイダー/増殖』(原題:Vermines)が、本日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国中です。
本作は、主人公カレブが毒グモを手に入れ、そのクモが脱走。カレブたちが住むアパ―トで繁殖・増大し、次々と住民たちに襲い掛かる姿を描いた絶叫必須&スリリングなパニック・ホラー。監督は、1989年生まれの新鋭、セヴァスチャン・ヴァニセック。衝撃のデビューを果たした本作は、過去20年間のフランスでのホラー映画で初登場第1位を記録。約27万人を動員する大ヒットとなり、第49回セザール賞最優秀新人監督賞と最優秀視覚効果賞にノミネート、第56回シッチェス・ファンタスティック映画祭 審査員賞を受賞しています。
また、ロッテントマトでも 95%フレッシュをたたき出し、ホラーの帝王スティーヴン・キングは「恐ろしく、気持ち悪く、よくできている」と大絶賛。さらに、サム・ライミ監督から『死霊のはらわた』シリーズのスピンオフ作品の共同脚本兼監督のオファーを受け製作が決定するなど、ヴァニセック監督の活躍の勢いは止まりません。今年の3月『横浜フランス映画祭 2024』のために来日したヴァニセック監督にお話しを伺いました!
――フランスでの大ヒット、大反響についてどう思われていますか?
とても嬉しくて満足しています。僕は多くの人々が映画館に足を運んでくれる映画を作りたいと思っていました。観客のための映画を作りたいと思っています。もちろん色々なフェスティバルに参加したり、映画賞にノミネートされたら嬉しいですけれどこれは第二次的なもので観客が楽しんでくれることが何よりも大切なのです。
フランスのみなさんにとって、ジャンル映画とかホラー映画にお金を出すことはハードルが高いので、今回多くの人に良い評価をいただいて、このジャンルの可能性について理解していただけたってことはとても嬉しく思っています。
――本作はホラー作品でありながらも主人公の成長物語など、ドラマ的な要素が面白いですよね。
私はホラー映画が大好きなんですけれども、本当に大ファンというわけではないんですね。「映画」というジャンルでいうとリドリー・スコットの影響を大きく受けています。特に『グラディエーター』は本当に完璧な作品で、大規模なエンターテイメントでありながら人生の目的を語る様な傑作ですよね。
ホラー作品でいうと『グリーンルーム』という作品が好きで、コンサートホールの中でサバイバルが繰り広げられるのですが演出も素晴らしく緊張感を感じられながらとてもリアリストで刺激を受けました。人間関係がしっかり描かれているものが好きなのです。
――「クモ」をモチーフにした理由はどんなことですか?
何も理由が無く人を襲うクモっていないんですね。クモ自体が自分を守るのに他に方法がない場合に、アグレッシブに攻撃してくる。そういった意味ではこれまで公開されてきた様なクモ映画とは違う視点で撮っています。
この映画の中で描きたかったのは、例えばフランス国内で「外国人嫌い」という考えがあるんですけれども、悪い事件が起きた時に「きっと外国人だ」と決めつけてしまう様なものへのメタファーなのです。危ないことがあって、自分の身に危険が迫った時に人を襲う、そしてそれは外見だけで判断されてしまうようなものもある。そういったところをクモに表現してもらっています。
――おっしゃるとおりクモって不思議ですよね。特段悪いこともしていないのに“フォビア(恐怖症)”の中では最高峰だと思います。
おそらくクモというのは猫と一緒だと思うんですね。猫も何か危険を感じた時に攻撃をするっていうところがありますから。逆にクモって家にいると安全というかポジティブなイメージですね。暖かくて快適な場所である証拠ですから。どうしてみんながこんなにクモを怖がるのかなっていうことも改めて自問してみました。クモはネアンネアンデルタール人の時代からもう存在してるんですけれども、最近になって人を襲うことも出てきてしまった様ですね。それでアレルギーとかショック反応とか、怖い印象がついたのかもしれません。
――本作は音の効果も凄いと思います。クモが歩いている音は恐怖心を増殖させていました。
クモのカサカサ音は自然界にある音を撮ってネットで発表しているライブラリーからダウンロードしました。クモの姿が見えないので暗闇で音だけ聞こえるというのは、ある意味パラノイア(不安や恐怖の影響を強く受けており、他人が常に自分を批判しているという妄想を抱くものを指す)だと思うのですが、それを効果的に使いたいと思いました。
本作の準備をしている時に、もちろんシナリオも書いていましたが、それに付随するデッサンを150ページくらい作って、ヴィジュアル面から映画を構築していきました。私のイメージした作品に俳優の皆さん、そして音響をはじめとするスタッフの皆さんが尽力してくれて完成しているのです。
初の長編作品ということもあって、予算も限られていました。なので特殊効果も潤沢に使えたわけではなく、この点については、リドリー・スコットが『エイリアン』で使用していた手法を参考にしています。暗闇の中でクモの気配は感じるが姿は見えない、けれど着実に近づいていて…。ということですね。
――確かにあのジワジワ感がとても恐ろしい作品でした…!今日は素敵なお話をありがとうございました!
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