壮大な宇宙の逃走劇と、知恵を駆使する青春SF〜宮西建礼『銀河風帆走』

壮大な宇宙の逃走劇と、知恵を駆使する青春SF〜宮西建礼『銀河風帆走』

 宮西建礼は第四回創元SF短編賞を受賞してデビュー。本書はその受賞作を含む全五作品の短篇集で、著者にとってははじめての単行本となる。

 表題作「銀河風帆走」は創元SF短編賞受賞作で、壮大なスケールの宇宙SFとして高く評価された。

 人類がその遺伝子情報を恒星船によって拡散するかたちで、銀河系各地へと領土を広げた時代。しかし、その栄華はもろくも崩れようとしていた。銀河系の全恒星系が力学的エネルギーを失い、巨大な螺旋を描きながら銀河核へと移動をはじめたのである。原因は不明。人智のおよばぬ超越的な〈解体者〉のしわざだという説まで囁かれる。いずれ銀河系は一個のブラックホールと化す。滅びる銀河から価値ある情報を新しい世界へと届けるため、語り手であるエトク、その仲間のノチユ、レラの三人がつくられた。遺伝子的にも自意識的にも人間だが、超遠距離宇宙飛行に特化した機体を持つ存在である。

 彼らは銀河の中心から系外へと噴きだす希薄なガスの流れを、特殊な帆で捉えて、遠い旅をつづけるはずだった。しかし、まず、先頭を進んでいたノチユが、隕石によって打ち砕かれてしまう。残されたエトクとレラに、途轍もない脅威がふりかかる。銀河系で超大質量ブラックホールが恒星を呑みこみ、そこから発生した銀河ジェットが、猛スピードで彼らへ迫ってきたのだ。この大災厄をかわす方法はあるだろうか……。必死で対策を講じるなかで、エトクとレラは自分たちが何者なのかを考えはじめる。

 全体のタッチはハードSFだが、終盤に至って、人間の本質という哲学的テーマへと逢着する。じつはそれにつながる伏線が、物語の端々にいくつか引かれているのだ。みごとなデビュー作と言えよう。

 本書のための書き下ろし「星海に没す」は、「銀河風帆走」とよく似た構図の物語だ。主人公のわたしが追いすがる脅威から逃れるため、必死に宇宙を進んでいる。人類にとって重要なミッションを担っている点も共通する。ただ、この作品のわたしは人間ではなく、無人船の超知能AIだ。その船は人間の凍結受精卵を新しい惑星へと播種するために出発した。しかし、ガニメデで試験中の超知能AIが人間に反抗する事件が発生したことで、一挙に超知能AIの全面廃止が決まった。問題を起こした超知能AIと、無人船のわたしとは何の関係もない。しかし、超知能AIに対する人間の忌避感は大きかった。わたしの元に船もろとも自己破壊しろという命令が届く。

 わたしは人類への奉仕(新世界への播種)という元来の目的を貫くため、新しい命令を無視する。すると、人間たちは重武装した宇宙船を仕立て、わたしを追ってきた。スピードを考えると引き離すことはできない。また、正面から戦えば、圧倒的に不利だ。わたしがとるべき行動は……という戦術的な興味もさることながら、この作品でも「銀河風帆走」と同様、宇宙的な孤独のなかでの自分の存在意義というテーマが浮上する。

「もしもぼくらが生まれていたら」「されど星は流れる」「冬にあらがう」の三篇は、いずれも高校生のチームが難しい問題に、科学的な発想と知恵で挑戦する。その問題とは、「もしもぼくらが生まれていたら」では小惑星の地球への落下であり、「されど星は流れる」では太陽系外から飛来する流星の組織的な観測による発見、「冬にあらがう」では深刻な食糧危機だ。

 どの作品においても高校生たちの考えや行動が、とんとん拍子に解決につながるわけではない。だが、それでも彼らは事態を動かすことができる。オーソドックスなSFの展開に、青春小説のフレーバーが絶妙にマッチしている。

(牧眞司)

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