地域の断熱意識アップには地元工務店の協力が不可欠! 学校断熱ワークショップを通じて変化促す 森田材木・千葉県流山市

地域の断熱意識アップには地元工務店の協力が不可欠! 学校断熱ワークショップを通じて変化促す 森田材木・千葉県流山市

全国で広まりつつある学校断熱ワークショップ。ほぼ無断熱で夏は暑すぎ・冬は寒すぎる古い校舎を断熱改修することで、子どもたちの健康や学習環境を改善しようという試みです。参加する児童や生徒が安全にスムーズに作業を進めるためには、材料の調達から工具の準備、使い方や作業指導まで、地元の工務店の協力が必要不可欠。なかには工務店が主導して学校断熱ワークショップを進めた事例もあります。地域の断熱意識改革に欠かせない、地元工務店の取り組みを見ていきましょう。

お客さんの声で断熱のすごさに気づいた

「ゼロカーボンシティ」を目指す千葉県流山市の小学校で、2023年8月、学校断熱ワークショップが開催されました。このワークショップの監修を務めたエネルギーまちづくり社の竹内昌義さんによると、地元工務店の動きが地域の断熱化を促す鍵になっているとのこと。断熱ワークショップを通じて工務店の断熱に対する知見が深まると、高断熱住宅の提案や中古住宅の断熱リノベーションに尽力する機会が増え、その結果、地域の断熱意識を引き上げることになるというのです。

学校断熱ワークショップ開催時の様子(写真提供/森田材木)

学校断熱ワークショップ開催時の様子(写真提供/森田材木)

そこで、今回の学校断熱ワークショップを牽引した地元工務店、森田材木の森田剛社長にお話を聞きました。

森田材木は1980年に材木店として創業、現在は千葉県流山市を中心に、東京、埼玉、茨城の一部でも建物の施工を手掛ける建築会社です。
今や「ZEH水準」の断熱性能と同等の断熱等級5の住宅を最低ラインとする同社ですが、「実は、以前は断熱にまったく興味がなかった」と森田さん。「数年前、北海道から移住してきたご家族の要望で、初めて当時の最高等級であった断熱等級4の長期優良住宅を建築しました。その家を引き渡したところ、『冷暖房の効きがよくてとても快適だ』と言われまして。それまでは正直、もともと木造建築は断熱性能・調湿性能に優れているし、断熱してそんなに変わるのかと半信半疑だったのですが、高断熱の家はしっかり効果があるんだなと気付かされました」

住宅性能表示制度の省エネ等級

(画像/SUUMO編集部)

「これまで保育園や店舗などの新築も数多く手掛けてきましたが、非住宅の建物は、住宅ほど断熱性能は求められていませんでした。引き渡し後に点検などで訪問することがあるのですが、同じ日に非住宅の建物と断熱等級4や5の住宅に行くと、明らかに体感温度が違うんですよね。もちろん日当たりなどの条件は異なるので一概には比較できませんが、同じ会社が、同じ木材を使ってつくっているのに、と驚きました」

そうした経験から、新築住宅の断熱性に関しては、まず等級5をスタートラインに提案するのが森田材木の標準仕様になったと話します。

小学校の断熱改修ワークショップを主導

千葉県で初めて行われた学校断熱ワークショップは、流山北小学校でした。開催のきっかけは、「今、全国各地の学校で断熱ワークショップというものが行われているらしい」と森田さんが耳にしたことからでした。
2050年の二酸化炭素排出量実質ゼロに向けて「ゼロカーボンシティ」を表明している流山市役所の担当者も学校断熱に興味を示したことから、住宅断熱の知識と経験を持つ森田さんは、ワークショップ形式での学校断熱改修を提案。「エネルギーを使わずに温暖化を防ぐためには建物の断熱化が不可欠。夏は特に暑さが厳しい学校の教室を断熱化することで、子どもたちに断熱効果を実感してもらい、また市民にも断熱の重要性をアピールできたら」と考えたのです。

断熱ワークショップの資金を募るクラウドファンディングのページ(クラウドファンディングのページより)

断熱ワークショップの資金を募るクラウドファンディングのページ(クラウドファンディングのページより)

断熱ワークショップには、森田材木に加え、市内の工務店2社も参画。資金はクラウドファンディングで調達したところ、当初の目標金額130万円を大きく超える190万円以上が日本全国から集まったといいます。断熱化で学校の暑さ寒さをなんとかしたい、という関心の高さがうかがえる結果となりました。

今回のワークショップは1日限り。「監修をお願いした竹内昌義さんにご指導いただきながら、1日で終われるよう、3社で事前準備をして臨みました」と森田さん。
当日は、学区を超えて、流山市全域から小学校の児童と保護者など計36人が参加。4つのグループに分かれ、最上階の教室の天井と南側の壁に断熱材を入れ、内窓を設置しました。

児童もがんばった(写真提供/森田材木)

児童もがんばった(写真提供/森田材木)

木製サッシの内窓と杉の羽目板で教室の雰囲気も一変

当初、内窓は樹脂のサッシを予定していましたが、発注から開催日までの2カ月で納品が間に合わないことが判明し、森田材木が木材を用意。木製の窓枠を組み立て、そこにポリカーボネート板をはめ込むという作業を、当日参加者と一緒に行ったそうです。

樹脂サッシよりも断熱性能のいい木製サッシを組み立て、内窓に(写真提供/森田材木)

樹脂サッシよりも断熱性能のいい木製サッシを組み立て、内窓に(写真提供/森田材木)

「金槌などの工具を小学生に持たせるのは注意が必要でしたが、けががないようしっかり気をつけて作業を行いました。子どもたちにとっては初めての工程ばかりだったと思いますが、積極的に取り組んでくれて、最後は楽しかったという声が多くてうれしかったですね。一方、親御さんたちからは、天井の中ってこうなってるんだ、というような構造面に着目した声も聞かれました」と森田さん。
参加者にとって、DIYで自分たちの手でも断熱化できるんだ、と実感できる貴重な体験になったことでしょう。

作業開始前には、講師の竹内さんによる気候変動に関するセミナーも行われ、こちらも大盛況。これから実際に行う学校断熱の作業が、地球環境にどうつながっているのかを学ぶいい機会になったといいます。

断熱に関心を持つお客さんが増えてきたと実感

森田さんによると、近年、家を新築したい人から「断熱」というワードはほぼ100%出てくると言います。
「『断熱等級いくつですか?』とか、『充填断熱なのか吹き付け断熱なのか?』と質問されるなど、みなさんかなり勉強されているなと感じます。こうした傾向は2年くらい前からでしょうか。コロナ禍で家で過ごす時間が増えて、住まいの快適性を求める人が増えたことや、省エネ住宅が補助金の対象であることが理由かもしれません」

現在、長期優良住宅の認証を受けるには断熱等級5(「ZEH水準」の断熱性能と同等)が必要。森田材木では最低ラインとして断熱等級5を基準に提案していますが、サッシを断熱性能の高い樹脂製にするだけで等級6が実現できるといいます。ただ、最高レベルの等級7まで上げるにはまだ建材が追いついておらず、ハードルの高さを感じているそうです。

森田材木が施工した高断熱住宅の事例(写真提供/森田材木)

森田材木が施工した高断熱住宅の事例(写真提供/森田材木)

(写真提供/森田材木)

(写真提供/森田材木)

昨年の学校断熱ワークショップを経て、森田さんが大切にしているのは、お客さんに「どうして断熱が必要なのか」を掘り下げて話すようにしたこと。断熱等級5にしたい、6にしたいと言われればつくれるけれど、その家での暮らしやエネルギーのこと、地球環境まで、もっと想像してもらうことが大事だと感じるように。
「実際に高断熱の家を建てて住んでいるお客さんの話、たとえば窓際に温度計を置いておいたら冬場1回も19度を下回らず暖かかったとか、職場は寒いのに家にいるとすごく快適だとか、そういったことを交えて話すとイメージしやすい。単に数字で見るだけでなく、断熱についてきちんと理解した上で、じゃあ等級はこれくらいにしたいなど、お客さんの意識も変わってきたように思います」

それだけ断熱に注目が集まってきているなか、課題もあると森田さん。
「断熱専門の業者ではなく、大工さんが充填断熱をしたり石膏ボードを張ったりするようなケースでは、専門的な施工レベルがまだ追いついていない現状があります。当社は工事管理だけでなく材料の搬送から建築現場での廃材の処理までを自社で行っているため、現場に行く回数が多いのですが、一般的な工務店では現場監督が複数の現場を掛け持ちしているから毎日現場を見るわけじゃない。断熱のように見えない部分がないがしろになっているケースも実際あります。断熱に注力しているとしっかり謳っている会社を選ぶことが大切なのではないでしょうか」

自社で施工した建物で、断熱化による快適さを体感してもらいたい

近年は、断熱リフォームをしたいという人も多いでしょうか?
「コンスタントにいらっしゃいますね。先ほど言った補助金が出るということも大きいと思います。樹脂のインナーサッシを付けるだけでも断熱効果は高まりますから。最近では、高齢の親御さんが省エネで快適に過ごせるよう、実家をリフォームしたいという方も増えています。ただ、家全体の断熱をやり直すとなると工期も費用もかなりかかるので、場合によっては高断熱の家に建て替えることもおすすめしています」

今後は断熱効果を肌で感じてもらえるような体感型のショールームをつくりたい、と森田さんは言います。「暑い日や寒い日に、断熱していない部屋と断熱した部屋を比べられれば、効果をより体感してもらえるのではと考えています」

断熱はランニングコストをかけずに効果を発揮できるもの。やらない手はないと思う、と森田さん。断熱意識の高い地元工務店が増えれば、地域全体の断熱化につながるはず。学校断熱ワークショップで市民が断熱を考える機運が高まったことや、高断熱な住まいを求める人が増えてきたことを追い風に、ゆくゆくは住宅だけでなく公共施設や商業施設など、地域のあらゆる建物の断熱化が進むことを期待しています。

●取材協力
森田材木/リファイン南流山

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