廃棄寸前の食品を大幅割引で販売、フードロスを防ぐインドネシアの販売プラットフォーム「Surplus」
アグリテックの分野には農業用ロボットや精密農業など、生産者を支援するスタートアップの活躍が目立つ。しかし、この記事で解説するインドネシアのアプリ「Surplus」を運営するSurplus Indonesiaのような、小売店舗側に立った企業も存在する。
世界規模の議題となっているフードロスだが、Surplus Indonesia社によるとインドネシアは世界有数のフードロス大国だという。それを解決するため、同社は賞味・消費期限が迫っている食品を販売するマーケットプレイスを開発したのだ。
賞味期限間近の食品を5割引きで販売
Surplus Indonesia公式サイトの情報によると、2000年から2019年にかけてのインドネシアでの食料廃棄量は年間2300万~4800万トン。これは国民1人あたりに換算すると115~184kgになるという。このデータは「食料エネルギー損失」という表現にも置き換えられる。上記の期間に、インドネシア人口の29~47%の食糧エネルギーをゴミ箱に捨ててしまっているという計算だ。
食品の廃棄は、小売店舗や宿泊施設にとっても経済的損失になってしまう。時が経てば腐敗してしまう食品の余剰在庫を抱えて廃棄するくらいなら、大幅割引で販売したほうが得策である。
そこでSurplusの出番というわけだ。食料品店やホテルで発生した賞味・消費期限間近の商品を、50%割引で販売する仕組みを整えている。プラットフォームはスマホアプリで、支払いは現地の主要キャッシュレス決済手段(GoPay、OVO、DANAなど)に対応。配達はバイクタクシー配車サービスGojekやGrabを活用する。
このSurplusの登場以来、すでに10万トンの食料の再販、22億ルピア(約2200万円)の損失回避を実現しているという。
また、Surplus Indonesiaはプラスチックの削減にも取り組んでいる。プラスチック包装を使わないオプションにより、追加の割引が発生する仕組みだ。それが奏功し、Surplusユーザーの約10%は自前の容器で商品を受け取っている。
世界有数のフードロス大国インドネシアでの取り組み
インドネシアでは、経済成長に伴いフードロス問題が取り沙汰されるようになった。
たとえば、地元大手メディアKompas.comが2021年10月に公開した記事は、かなり衝撃的なタイトルとなっている。「食料を捨てるのが好きなインドネシア国民、その経済的損失は551兆ルピア(約5兆5000億円)」である。これは2000年から2019年までの損失を合算した数字だ。
2022年から始まったロシアのウクライナ侵攻は、その関心にさらなる油を注いだ。戦争によって食料価格が高騰したからである。インドネシア産のパーム油の高騰は日本でも大きく報道された。2023年からは、イスラエル軍のガザ地区侵攻に端を発する中東情勢の悪化がインドネシア人の食卓にも暗い影を落としている。
その中で、「食料を捨てている余裕などない」と市民が考え、Surplusのようなアプリが登場するのも自然な流れと言えるだろう。
SDGsのゴールでもあるフードロス削減を目指して
Tech in Asiaの報道によると、Surplus Indonesiaは2023年1月に地元企業のSalam Pacific India Lines Venturesからシードラウンドで資金調達を行っている。調達額は非公開だが、Surplusの展開する事業の社会的意義が認められた証だろう。Tech in Asiaによると、この資金調達の時点でSurplusは10万人のアクティブユーザーを抱えている。
また、2024年4月23日にはマニラで開催された「The One ASEAN Startup Award 2024」初となるプレイベントに出席。CEOのMuhammad Agung Saputra氏が同社のビジョンおよびインドネシアにおけるフードロス問題の取り組みについてスピーチを行った。
もちろん、フードロス問題はインドネシアだけでなく世界各国の市民にとって身近な関心事である。世界中で浸透したSDGsのうちフードロス削減は12の「つくる責任 つかう責任」に該当するが、Surplus Indonesiaのロゴはゴール12で表示される図形そのものだ。フードロス問題を解消し得るツールとして、Surplusは国際的にも注目されるアプリに成長するだろう。
(文・澤田 真一)
ウェブサイト: https://techable.jp/
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