独居高齢者の割合が全国1位の豊島区、4割が暮らす賃貸の受け入れ問題。居住支援の”パイオニア9人”が解決策を提案する最前線をレポート
2023年11月13日、豊島区居住支援協議会(東京都)で高齢者の居住支援をテーマにしたセミナーが開催されました。区内のオーナーや不動産会社、行政職員のほか「誰でも」参加が可能なこのセミナーに登壇したのは、住宅関係団体や住宅部門、福祉部門の行政職員、民生委員など多彩な9人。
セミナーでは、高齢者の入居についてオーナーや管理会社が抱える不安と、それを具体的な解決に繋げる先進的なサービスの数々を紹介! さらに高齢者の居住支援において豊島区の各団体が抱える“本音”や“悩み”が共有されました。
当日の詳しい内容と、セミナー開催を居住支援協議会に提案した、日本賃貸住宅管理協会あんしん居住研究会所属の伊部尚子さん(ハウスメイトマネジメントソリューション事業本部)のお話を紹介します。
「ここまでのメンバーがそろうセミナーは他にない」渾身の時間
冒頭、「ここまでのメンバーがそろうセミナーは他に見たことがない」という伊部さんの挨拶で始まった会。第一部は伊部さんによるセミナーで高齢者の居住支援における「豊島区での課題と解決策」について、第二部はコーディネーターの豊島区居住支援協議会副会長の露木尚文さんも含め総勢9人の関係団体代表者たちによるパネルディスカッションというプログラムです。
第一部は伊部さんのセミナー、第二部は高齢者の居住支援に関わる団体の代表者たちによるパネルディスカッション(撮影/唐松奈津子)
伊部さんは、都内他区で居住支援協議会のセミナーに講師として呼ばれた際に「区民であり、勤務する不動産会社、ハウスメイトの本社がある豊島区でこそ、こんなセミナーを開催したい」とこのプログラムを提案し、半年をかけて準備したそうです。
豊島区居住支援セミナーは、今回の開催を提案した伊部さんのセミナーから始まった(撮影/唐松奈津子)
豊島区と受け入れ側のオーナー、管理会社が抱える「4つの不安」
自治体である豊島区、受け入れ側のオーナーや管理会社、それぞれが高齢者の受け入れに課題や不安を抱えていると言う(画像/PIXTA)
第一部のセミナーでは、豊島区、そして高齢者を賃貸住宅に受け入れる側となるオーナーさんや管理会社が抱える課題や不安、そしてその解決策が提示されました。豊島区は65歳以上の人口のうち、単身世帯が占める割合が全国1位。その単身高齢者世帯の約4割、また要介護認定者の約1割が民間の賃貸住宅に住んでいることがわかっています。
豊島区は65歳以上の人口に占める単身世帯の割合が全国1位。そのうち約4割が民間賃貸住宅に住んでいる(データ提供/豊島区居住支援協議会)
これだけ多くの高齢者が民間の賃貸住宅を必要としている実態があり、豊島区はその受け皿となる住宅の確保を課題としてセーフティネット住宅制度や空き家の活用などに取り組んでいます。一方、伊部さんは受け入れ側となるオーナーさんや管理会社は次の4つの不安を抱えていると言います。
「(1)滞納が発生したら?
(2)入居者死亡後、契約解除できる?残った荷物は?
(3)孤独死があったらリフォームや次の募集は?
(4)認知症になったら
……という不安です。このうち(1)や(3)は活用できる家賃債務保証会社や民間の見守りサービスが増えてきました」
オーナーや管理会社が抱える、高齢者受け入れの4つの悩み。伊部さんは「このうち3つはお金の問題」だと語る(資料提供/伊部さん)
増えてきた支援サービスとこれまでの取り組み
(1)の滞納については、緊急連絡先が家族でなく友人・知人でも入居審査を可とする家賃保証会社が増え、全日ラビー保証や宅建ハトさん保証など、不動産業界団体でもオリジナルの保証サービスを提供しています。
また(3)の孤独死については「クロネコ見守りサービス」のように、専用の電球を設置して点灯情報を家族に送る「見守り電球」の設置と運送スタッフの訪問を組み合わせた便利なサービスが出てきました。入居中に高齢になっていた入居者には、契約途中からでも審査が通りやすく、福祉系の業務提携先が入居中の支援を行う「ナップ賃貸保証」が注目をされています。さらに不動産関係団体などが提供する少額短期保険であれば、審査なしで加入でき、万一の際には孤独死に関連する原状回復費用や荷物処分費用をオーナーが直接請求できます。
第一部のセミナーでは、実際に活用できるサービスについても紹介。例えばナップ賃貸保証は、単身高齢者が契約の途中からでも利用しやすいという(資料提供/伊部さん)
「いま特に難しいと感じるのは(2)解約と残置物の問題、(4)認知症の問題です。(2)は法整備が進んだものの、使い勝手が悪く利用が進んでいないため、不動産団体や不動産関係者などから声が上がり、より使いやすくするための議論が始まっています。(4)の認知症の問題は不動産会社では手が出せない領域なので『いかに福祉とつながるか』が大切になります」
住民の気づきが誰かを救う、豊島区独自の制度「地域福祉サポーター」
この福祉とつながるきっかけとなる、豊島区独自の制度が「地域福祉サポーター」制度です。豊島区在住・在勤・在学の18歳以上の一般の人が登録し、高齢者など、地域において配慮が必要な人たちを見守り。たとえば「近所の人をしばらく見かけないが大丈夫だろうか」「毎晩、怒鳴り声が聞こえる家庭があって気になる」など、住民だからこそ気づける異変を「小さなアンテナ」として察知し、行政につなぎます。登録するためのスタート研修のほか、年3回程度、講師を招いて地域での気づきの視点を養う「学習会」や公開講座、交流会などを開催しているそう。
豊島区には区民が「地域福祉サポーター」となって生活に課題を抱える人たちを支援につなげる仕組みがある(画像/豊島区民社会福祉協議会)
さらに豊島区内8カ所の区民ひろばに「コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」と呼ばれる人たちが2名ずつ計16名常駐しています。豊島区民社会福祉協議会に属するコミュニティソーシャルワーカーは、地域福祉サポーターから寄せられた地域の異変や困りごとを関係機関と協力して解決につなげる役割を担っています。
豊島区のコミュニティソーシャルワーカーの活動例。「個別相談・支援」「地域支援活動」「地域の実態把握」「住民の福祉意識の醸成」「地域のネットワークづくり」の5つの役割を担い、さまざまな活動を行っている(画像/豊島区民社会福祉協議会)
「ほかにも民生委員さんなどが中心となって熱中症予防のための戸別訪問や高齢者実態調査をしたり、シルバー人材センターの訪問員が声かけをしたり、豊島区が行っているさまざまな見守り事業があり、ケアを必要とする人をサポートしています。ところが、これら福祉の体制があることを不動産会社は知りません。逆に福祉関係者はその人が住む部屋の大家さんが誰か、管理する不動産会社がどこかを知らないのです」
本来は福祉と住宅をつなぐために豊島区居住支援協議会が設けられているはずですが、今はまだ問題点を洗い出す段階で、具体的な情報共有までは進んでいないようです。
「もうちょっと情報共有すれば解決できることも」これからの可能性
この福祉関係者と不動産関係者の情報共有が不足しているという指摘は、第二部のパネルディスカッションでも福祉、不動産双方の登壇者から指摘がありました。モデレーターを務めた豊島区居住支援協議会副会長の露木さんは「見守りが住まいの問題とつながっているか」「情報をどうやって共有するか」「入居に懸念のある人からの相談のときに、誰につなぐといいか」と具体的な取り組みについて登壇者に投げかけます。
第二部のパネルディスカッションのモデレーターを勤めるのは豊島区居住福祉協議会副会長の露木さん(撮影/唐松奈津子)
「『お元気かな』と高齢のかたの様子を見にいくと孤独死が見つかったり、『ぎりぎりのとき』もある。緊急事態なのに連絡先につながらず、民生委員にはそれ以上の情報がありません。周辺とのつながりや連携を取らないと対応ができないんです」(民生委員・児童委員の竹村さん)
「私たちも安否確認をして、情報がないときに民生委員さんや地域のかたに聞く時もあります。オーナーさんが代替わりされているなどで情報を追えないことも。賃貸物件の担当をされる管理会社とも連携が取れれば、万一のときにも早期発見できるのは」(豊島区社会福祉協議会の宮坂さん)
「もうちょっと情報共有すれば解決できるものもあるのではと感じた。連携できる仕組みづくりを進められれば」(豊島区高齢者福祉課高齢者事業グループの大曽根さん)
パネルディスカッションの様子。左から豊島区の宮坂さん、児童委員・民生委員の竹村さん、不動産業界団体に所属する鎌田さん、深山さん(撮影/唐松奈津子)
「対応に困った大家さんや管理会社から入居者のかたについて『情報を教えてくれ』という相談は少なくない。行政として対応が難しいこともあるが、そこで終わらないようにしている。行政から家族や友人に連絡をとって『不動産会社が困っているから連絡してほしい』と伝えたり。連携によってコミュニケーションが取れていくはず」(豊島区中央高齢者総合相談センターの澤口さん)
「行政は個人情報において壁があり、難しいことも多いと確かに思う。一方で相談があった時点でその方の家族情報、近隣関係、病気もいろんな話を聞いて情報管理をしている。病院からの連絡や命に関わることについては個人情報の壁を突破できることも。関係者がそのかたにとって最も良い方法を考えながら検討できるといい」(豊島区高齢者福祉課基幹型センターグループの前場さん)
左から伊部さん、豊島区の高齢者福祉課の大曽根さん、中央高齢者総合相談センターの澤口さん、高齢者福祉課基幹型センターグループの前場さん(撮影/唐松奈津子)
「民生委員さんなども含め、60歳で若手と言われるような制度・体制は限界がきている。もっと関係各者が一緒にやればいいじゃないと思う。各関係団体から数人が携わるチームを作ることなどが必要」(全日本不動産協会の鎌田さん)
「昔の不動産屋や大家さんは家賃を現金で受け取りに行ってそれが安否確認になっていたり、御用聞きをしたりしていた。現在はそういう風習がなくなったからこそ、プラットフォームをつくって情報共有して一元管理することが重要。ここにアクセスすればなんとかなる、という仕組みづくりが大事」(東京都宅地建物取引業協会の深山さん)
パネルディスカッションは、パネリストのひとりとして第二部でも登壇した伊部さんの「今日このメンバーの顔がお互いにわかった、ということだけでも意味がある。日ごろからやり取りをすれば『こういうこと困ってて』という相談や『個人情報の壁があるけどどうにか一緒に考えよう』という声かけができる。これをきっかけに新しい豊島区の仕組みをつくっていければ」という言葉で締めくくられました。
セミナー終了後には多くの質問が寄せられ、その中の15の質問について一つひとつ回答したものが豊島区居住支援協議会のホームページには掲載されています。とくに「行政と民間の連携体制」「情報を共有するための仕組み」には多くの参加者が課題を感じた様子。ひとつのセミナーをきっかけに居住支援の取り組みが推進されていく、その萌芽を垣間見ました。これからの豊島区の居住支援の動きにも注目です。
●取材協力
・豊島区居住支援協議会
・株式会社ハウスメイトマネジメント
・露木 尚文さん(豊島区居住支援協議会副会長)
・深山 大介さん(東京都宅地建物取引業協会第四ブロック豊島区支部 社会貢献委員長)
・鎌田 隆さん(全日本不動産協会東京都本部豊島・文京支部 副支部長)
・竹村 敏さん(民生委員・児童委員)
・大曽根 誠さん(豊島区保健福祉部 高齢者福祉課高齢者事業グループ)
・前場 徳世さん(豊島区保健福祉部 高齢者福祉課基幹型センターグループ)
・澤口 清明さん(豊島区保健福祉部 中央高齢者総合相談センター)
・宮坂 誠さん(豊島区社会福祉協議会 共生社会課)
・伊部 尚子さん(日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会)
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