“きっとあなたは目を疑う…” デタラメ社会の嘘を見抜くヒントを記した1冊

“きっとあなたは目を疑う…” デタラメ社会の嘘を見抜くヒントを記した1冊

 世の中には多くの情報が溢れており、私たちはその情報を取捨選択しながら生活している。しかし目の前の情報が真実かデタラメかをどのように判断しているかというと、明確な線引きができている人は少ないのかもしれない。

 今回ご紹介する『デタラメ データ社会の嘘を見抜く』(日本経済新聞出版)には、世の中にはどれほど多くのデタラメが転がっているのかを知り、どうやってそれを見破るのかを知る手がかりが記されている。著者は進化生物学者でワシントン大学生物学部教授のカール・T・バーグストロームと、同じくワシントン大学情報学大学院准教授のジェヴィン・D・ウエスト。

「デタラメは人を感心させたり納得させたりすることを目的とし、中身が本当かどうかは考慮されない」(同書より)

 著者はデタラメの概念について、哲学者ハリー・フランクファートの論文の冒頭を引用してこのように要約している。

 まさにわかりやすい例として、インターネット記事の見出しに関する話題だ。2017年に発表された記事1億本を調べた起業家が、広くシェアされた記事の見出しに共通するフレーズを突き止めた。

 最も効果的な見出しは事実を一切含んでおらず、感情が揺さぶられると予告していたというのだ。見出しだけ読んで思わずクリックしてみたものの、あまりにも見出しとかけ離れた内容に愕然とした経験のある人もいるのではないだろうか。

「フェイスブックで人気の投稿に共通していたのは、第2位に約2倍の差をつけて、『きっとあなたは……』という表現で、その後は『胸を締めつけられる』、『夢中になる』、『目を疑う』、『驚愕する』などの言葉が続く。

現実に起きていることそのものよりも、自分たちの反応の方が興味をひく」(同書より)

 著者は事実ではない情報は人々の判断を狂わせると言葉にしており、そんな世界に歯止めをかけたいと語る。

「デタラメを暴くのに必要なエネルギーは、デタラメをつくり出すエネルギーに比して桁違いに大きい」(同書より)

 これはイタリアのソフトウェア・エンジニア、アルベルト・ブランドリーニの「ブランドリーニの法則」だ。デタラメをひねりだし一気に広めるのは簡単でも、それを回収するのは並大抵の苦労ではないという。陰謀論を説く投稿はそれ以外の話題に比べると広く拡散することがわかっており、デタラメ退治はデタラメをばら撒くよりも難しいそうだ。

 著者が2人とも科学を専門としていることから、同書では科学と医学の研究の例が多く取り上げられている。なかでも興味を引いたのは、定量的な議論が根拠となる科学の分野にもデタラメが存在することだった。

「科学の領域ではあらゆる主張に対し、事実、モデル、エビデンスをつきつけて異議を訴え、覆すことができる。こうした自己修正の仕組みが、科学がうまく機能する理由の1つと言える。こんなふうに懐疑的な態度が徹底しているのならデタラメの出番などなさそうだが、必ずしもそうではない。科学にはデタラメが絶えない。たまたま、という場合もあれば意図的なものもある」(同書より)

 例えば12種類の抗うつ剤の効果を査定する目的でおこなわれた臨床試験がある。その臨床試験では51%で「薬効あり」だったものが、学術誌掲載の論文では94%で「薬効あり」とされた。なぜこんなことになるのだろうか。肯定的な結果のほぼすべては掲載され、疑わしい結果と否定的な結果は半分も掲載されなかったことが理由の1つだという。そして疑わしい結果あるいは否定的な結果だったものまで、肯定的な結果として掲載されていた。

「測定値が目標になると、測定そのものに意味がなくなる」

 これは同書でもたびたび出てくる「グッドハートの法則」だ(上記の言葉は、人類学者マリリン・ストラザーンの定義)。驚くべきことに科学の学術誌の分野では、かなりこの考え方が当てはまるようになっている。

 論文の掲載数が科学者の評価に結びつくようになり、信頼できない論文だらけの学術誌の市場が生まれた。測定する数値が自分の利益に結びつくなら、数値をよくする方法を編み出そうとするというのだ。

 しかしながら多くの問題点の指摘が、科学の価値を貶めようとするものではないと著者ははっきりと述べている。あくまでも情報を鵜呑みにすることなく、何が真実で嘘なのかを見分けるのに同書を役立ててほしいという著者の思いを受けとめたい。

 また同書では最後に、具体的なデタラメを見破るポイントと、その上でデタラメを指摘する必要性にまで触れられている。指摘すべきデタラメが減れば間違いなくいい世の中になるという。科学や医学に馴染みがない人にもわかりやすく説明されているので、興味深く読み進められるだろう。同書を読めば目の前の情報に翻弄されることなく、デタラメを見破る技を身につける新たなヒントが見つかるかもしれない。

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