42年ぶりの嬉しい再会〜黒柳徹子『続 窓ぎわのトットちゃん』
黒柳徹子さんの『続 窓ぎわのトットちゃん』(講談社)が売れている。世代を超えたベストセラーの続編だし、もちろん相当売れるだろうとは思っていたが、気がつくと売場がスカスカになるほどの勢いなのである。
1981年に『窓ぎわのトットちゃん』が発売された当時、私は小学生だった。学校を休んだ時に読む定番の一冊だったので、病弱だった私にとってトットちゃんは仲の良い友達のようなものだった。自由で元気で、叱られるようなことも人から変だと思われそうなことも、普通に実行してしまうトットちゃんが好きだった。電車を教室にしている珍しい小学校・トモエ学園のことも好きだった。校舎が空襲で焼けてしまった後、トットちゃんはどうしたのだろう。その後の物語が読みたいと、ずっと思っていた。本が売れていくのを見ると、同じ気持ちの人がたくさんいたんだなあと、なんだか嬉しい気持ちになる。
続編は、トットちゃんが疎開してから芸能界で活躍するまでの物語である。ユニークなエピソードが積み重ねられていき、読者を飽きさせないのは正編と同じだ。
豊かな暮らしをしていたトットちゃん一家だが、戦争が長引くにつれて食べ物は不足する。白いご飯は手に入らなくなり、1日の食べ物が15粒の大豆だけという日もある。音楽家のパパは出征し、空襲では多数の犠牲者が出る。ママは、旅先で知り合った農家のおじさんを頼って、青森へ疎開することに決める。
トットちゃんママのたくましさは、この本の読みどころの一つだ。作業小屋を自力でおしゃれにリフォームし、外で働いた経験がないのに速攻仕事を見つけて働き始める。家庭菜園を作り、港に出かけて行き、野菜との物々交換で魚を手に入れてくる。戦争が終わると、空襲で焼けた家を建て直すために定食屋と行商でガンガン稼ぐ。夫はシベリアに抑留されたままなかなか帰ってこず、内心は不安でいっぱいだろうに、子どもの前では決して不安を口にしない。カッコよすぎである。
その後、トットちゃんは東京に戻り女学校に進学する。音楽学校で声楽を勉強して、NHK専属女優となり、テレビの世界で大活躍することは多くの人が知っている通りだ。
ユニークなエピソードや華やかな人々が次々に登場するので、何もかもがトントン拍子に進んでいるように感じてしまうが、決して全ての人や状況がトットちゃんに味方していたわけではない。戦争中は寒さと空腹に泣いているだけで兵隊さんに叱られ、NHKでその他大勢の役をやっていた時には、目立ちすぎるという理由で自分だけ降ろされてしまう。先輩に理不尽なことを言われ、悔しくて泣いたこともある。
そういうことがあると、空気を読んで周囲から浮かないように気をつける「大人」になっていくのが通常のルートなわけだが、トットちゃんは、誰が相手であっても子どもの頃と変わらず思ったことを口にして、周囲の人を驚かせたり、読んでいる私を楽しい気持ちにさせてくれる(面接官との会話や、渥美清氏とのやりとりはかなり笑えるので必読)。そのままでいられたのは、ママがやりたいことをやらせてくれたこと、「ちゃんと見て、気にかけてくれる人」や個性を認めてくれる大人が周囲にいたこと、そして、正編に登場するトモエ学園の校長先生が言ってくれた「君は、本当は、いい子なんだよ」という言葉を忘れなかったからなのだろう。
トットちゃんが大好きだったはずの私自身は、身近な誰かを「ちゃんと見て、気にかけて」あげられる大人になれたのだろうか。トットちゃんを好きな人がたくさんいるはずのこの国で、子どもたちの個性は大切にされているのだろうか。そんなことを考えてちょっぴり胸が痛くなったり恥ずかしくなったりしながら、やっぱり今も、トットちゃんのことが大好きで、いつまでも友達でいたいなあと、小学生の時と同じように思った。
(高頭佐和子)
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