実在するスペシャリストの物語『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』米倉涼子・松本穂香インタビュー「“死”をきっかけにした“生”の物語」
Amazon Originalドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』が3月17日(金)より168の国や地域で世界同時配信となりました。
本作は、第10回開高健ノンフィクション賞を受賞した佐々涼子さんの『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』が原作。国境を越えて遺体を遺族の元へ送り届ける“国際霊柩送還士”の姿を描いた一話完結のヒューマンドラマです。
今回は、主人公・伊沢那美役の米倉涼子さん、新入社員・高木凛子役の松本穂香さんに見どころや役についてお話を伺いました。
未知の職業「国際霊柩送還士」
──作品のオファーをいただき、興味を持たれたポイントを教えていただけますか
米倉涼子さん:原作がある作品が好きなんです。中でも、本当にあった話を映画やドラマにしてある作品が特に好きですね。『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』は原作を以前にたまたま読んだことがあったんですが、勇気のある女性の衝撃的なお話だったなっていう思いがあって、今回やらせていただきました。
松本穂香さん:私はこの「国際霊柩送還士」というお仕事を知らなかったんです。全くの未知の領域でした。今までお医者さんの役はあったのですが、ここまで「死と向き合う」ような役はなかったので、とても興味がありました。
「国際霊柩送還士」は実在する職業。海外などで不慮の死を遂げた遺体を、国境を越えて遺族の元へ送り届ける仕事です。ただ送り届けるだけではなく、遺族の心情に「配慮」した送還も役割のひとつです。
この物語は、国際霊柩送還を行う会社「エンジェルハース」の社長を務める伊沢那美(米倉涼子)、そしてエンジェルハースの新入社員の高木凛子(松本穂香)たちが国際霊柩送還士という仕事を通して様々な人間模様に触れていく様子を、繊細に描き出していきます。
──職業としても、異例中の異例といった印象ですね
松本:そうですね、
──米倉さんも原作を読まれる前はそういう職業があるとかを意識したことはなかったんですよね
米倉:そうですね。例えば病院で亡くなった方に対して、ご遺体を洗うお仕事があったりとか、『おくりびと』のように、葬儀屋さんの中でも身支度を整えたりされる方ですとか、そういう職業があるっていうこと自体は知っていました。けれど国際霊柩送還士のように、海外でのどういう事故だったのか、どういう災難だったのかわからない、死と向き合ってる人たちのことは知りませんでしたし、なかなか世間から評価されづらい職業のように感じました。すごい仕事だと思いますね。
本気で向き合ったら“無理”かもしれないけど「受け入れる」
──米倉さんの役(エンジェルハースの社長・伊沢那美)は、その「死」と真っ向から向き合う人です。その覚悟を、役作りの中で重ねていく必要がありましたか
米倉:演じるにあたり、実際にお話を聞いたり、外国のご遺体処置の教材映像を見せていただいたりしました。本当にその人の死と向き合っちゃったら「無理……」ってなってしまうかもしれないですけど、そういうことを言っていたら、演じるのは難しいだろう、と。逆に「受け入れなきゃ」と思いました。
あと私の場合、たまたまお医者さんの役を長く演じてきたので(笑)、昔は練習のために内臓とか体の中の映像資料をけっこう見せていただいてました。そういった経験があったので、意外と平気だったと思いますし、もともと「体」や「生命」に興味があるっていう意味でも今回受け入れられることが出来たかな、っていうのがあります。
──これまでの経験も生かされたし、覚悟のひとつになっていたということですね
米倉:彼女(伊沢那美)は、どんな事態が起きて、どんなご遺体が来るか、ってことについて覚悟していなきゃいけないんです。開けるまでご遺体の状態が本当にわからない、そのままではご遺族とお別れをしてもらえないかもしれない。そういう緊張感が常に彼女にはあるんだと思います。
──松本さんは新入社員・高木凛子という役柄を通して、この職業を疑似体験されたと思うのですがいかがでしたか?
松本:「突然の死」みたいなものが描かれているので、何の心構えもないご遺族の後悔であったり、さまざまな想いが残ったままお別れをしていく場面が多いんですけど、実はそれってドラマの中だけの話じゃなくて実際にもたくさん起こっていることだと思うんです。私自身も親や家族がいて「後悔の無いように」というのは、どこかで思ってはいるけれど、なかなかできていないかもしれないなと思いました。
すごく当たり前のことなんですけど、このドラマに携わって、改めて「大事に日々を生きないといけないな」と思います。「死」から学ぶことというか、「生きることの尊さ」というか。
米倉:生きてることの大切さとかもそうなんですけど、彼女が国際霊柩送還士として携わるお仕事に対していかに誇りを持って、悔いのないようにやり遂げるかということが、彼女にとっての生きる意義や意味になっていると思います。
第一話で「自分の居場所なんてどこにもないんだ」という那美のセリフがあるんですけど、一生懸命やり続けることで世間から認めてもらい、そこでやっと存在意義を確かめられるのかな、とか思ったりもしますよね。
米倉「これが若者なのかな」松本「熱量の高い人」
──あのお二人のコンビもすごく絶妙な感じだったんですが、お互い共演されてみて、今回の役柄の印象はいかがでしたか?
米倉:ちぐはぐしててちょうど良かった?(笑)なんか(松本さん演じる)高木凛子って、こうほわっとしてそうだし、あんまり自己主張しないけど、ちゃんと言うところは言うんだなっていう。(一同笑い)
松本:結構初めから主張していきますよね。
米倉:(高木凛子のセリフで)「パワハラです」とか、そういうところはちゃんと言うのね、みたいな。「これが若者なのかな」という私達世代からの目線からすると、そういう自己主張があるところと無いところの差や、キャラクター描写のかけ合わせが面白いですね。
松本:おそらく今まで凛子が生きてきた中では、社長のようにこんなに熱量が高く、何事に対しても一生懸命な人と触れ合うことがなかっただろうから、とても影響を受けたんじゃないかなと思います。
──松本さんから見た“俳優・米倉涼子”はどうでしたか?
米倉:(恥ずかしいから)やめてもらっていいですか?(笑)
松本:何言っても、なんだか偉そうな感じになっちゃうかもしれないのですが……。この役があって、台本や決められたセリフがある中で、でもそこにちゃんとご自身の色が、ちゃんと米倉さんという説得力があるのは、さすがだなと、本当に思いました。
米倉:ありがとうございます。(笑)
松本:すみません。(笑)
米倉:恥ずかしいですね。ドキドキしちゃう。
演じるうえで不要な“空気”とは
──第一話を拝見させていただいたんですが、米倉さんの演技は、遺体というものを通して、実は残された人たちの心に直接、素手で触れているようだと感じました。一方で松本さんの演技は、僕らの目線を代わりに現地まで運んでくれるっていうような感じの寄り添い方をしてくださっている。今回、お二人が特殊な職業を演じるうえで、特に気を付けた部分を教えてください
米倉:今回、素晴らしい台本が最初からしっかり出来上がっていたので、演じることに集中出来ました。“演技をする”ということに関しては、あまり考える必要がなかったんです。その中で気を付けたのは、自分がご遺体に対してお化粧したり色んなことを処置する過程で「いかに自然に流れるようにやれるか」っていうところですね。撮影現場で「こうやって下さい」と言われて、ただその通りにやるっていうのでは、納得いかないじゃないですか。
──はい
米倉:本職の方が醸し出す雰囲気そのままに映れたらいいな、と思いますね。だから練習が必要なものに関しては一生懸命やります。
──現場のプロとして動けてるかどうかっていうところ
米倉:「この人、本当にその職業なの?」っていう風に思われてしまっては、もう違うんじゃないかなぁと思うんですね。なるべく違和感を与えないようにするっていうことが私たちの仕事であるかなと。
──松本さんはいかがですか?
松本:今回の役に関しては、新人ということもあって、ご遺体の水分を拭き取ったり、お化粧するシーンなどはあるんですけど、ご遺体の修復みたいな作業は私はやっていないんです。役に関しては台本から読み取ったり想像するといった、基本的なことではありますが──そういったところをすごくしっかりとやらせていただきました。
人によって全て違う「死」との向き合い方
──『エンジェルフライト』は、ご遺体を通して「残された人たち」が描かれていると感じました。残された人たちが生きることに対して、お二人が演じるキャラがそこに接するときの様子がすごく繊細でした
米倉:なんか「あんまり首を突っ込むな」って言いながら、結構、心をわしづかみにしてるような役柄ですよね。
大切な人を突然亡くして悲しむご遺族の元に、ご遺体が傷ついた状態のまま届けられたら、ご遺族はその「死」を受けとめるだけでも大変な状況なのに、ご遺体の凄惨な状況を脳裏にとどめてしまうことで、その以前の幸せな思い出も失くしてしまうことになる。そうならないようにしてあげる役割なのかなあ、と。これは私の見解なんですが、良い思い出だけを憶えていられればいいって思うんです。
人によって思い出の作り方とか、死との向き合い方って全部違うと思うんですね。
第一話だと「やっぱり帰ってきてくれてありがとう」って思えるようになるためには、彼女たちやエンジェルハース(作中・国際霊柩送還士の会社)のみんなのあの力が必要なんですよね。故人が生まれてきた証っていうのをご遺族に残してあげるっていうのをすごく大切にして、誇りに思って働いているのかなと思います。
『エンジェルフライト』は「死」を扱っているけど「死が生になる」っていうか……。「死」はきっかけなんだけど、その亡くなった方々の「生」を物語にしてるなっていう感じが私はします。
『エンジェルフライト』は生きる可能性を表現してる作品
──松本さんはいかがですか?
松本:いろんな死の現実があって色んな故人とご遺族の関係性がある中で、絶対に乗り越えなきゃいけない必要もないな、と私は思うんです。ただ、悲しみを抱えていても、もし彼女たちのような存在がいたら、どこか前向きになれるとも思います。
米倉さんがおっしゃったように、故人の最後の姿はその人を思い出すときに印象に残ってしまうような気もするんです。私の場合「おばあちゃんガリガリになっちゃってたな…」とか、そういうイメージがポンっと思い浮かんじゃったり。だからこそ本作では「最後の姿は綺麗にしてあげたい」という彼女たちの思いもあって、最後にちゃんとお別れができるのかなと思います。
米倉:今思いついたんですけど、エンジェルハースの社員たちって、世間から見ると“はみ出しもの”だと思うんですよね。
でも、亡くなった人やご遺族を通して、彼らが生きている存在意義を作れている。彼らを通してひとりぼっちの人たち同士が繋がっているんですよね。「ああ、じゃあこうしてあげようか」「こうした方がいいよ」といった気遣いで、またそこで社会が出来上がっていく。素敵なことだな、と。那美は「居場所なんてどこにもない」って言ってるけど、実はどこにでもあるんじゃないかな。『エンジェルフライト』は生きる可能性を表現してる作品でもあるかなぁって思います。
──ありがとうございます
『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』
<ストーリー>
物語の舞台は、主人公・伊沢那美率いる国際霊柩送還士が働く“エンジェルハース”という小さな会社。伊沢那美(米倉涼子)を筆頭に、高木凛子(松本穂香)、マニアックな遺体処置のスペシャリスト・柊秀介(城田優)、元ヤンの若手社員・矢野雄也(矢本悠馬)、噂好きな手続担当・松山みのり(野呂佳代)、温厚だが得体のしれない運転手・田ノ下貢(徳井優)、金勘定にうるさい強面の会長・柏木史郎(遠藤憲一)ら個性豊かな国際霊柩送還士たちは、大切な人を失った遺族に最期のお別れをする機会を設けて、前を向いて今後の人生を歩んでもらえるよう、様々な困難に立ち向かっていく。配信日:Prime Video にて独占配信中
話数:全6話
キャスト:米倉涼子、松本穂香
城田優、矢本悠馬、野呂佳代、織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.)、鎌田英怜奈
徳井優、草刈民代、向井理、遠藤憲一ほか
脚本:古沢良太、香坂隆史
原作:佐々涼子「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(集英社文庫刊)
監督:堀切園健太郎
制作:NHK エンタープライズ
作品ページ:https://www.amazon.co.jp/dp/B0B66GL9PH
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。