華やかな人生の裏にあった生きづらさとは。現代医学を通じて偉人たちの「心の病」に迫る
現代人にとっては身近なものとなった「心の病」。しかしそれは広く知られていなかっただけで、今に始まったものではないようです。歴史に名を残すような人物とて、華々しい偉業の裏で、多くの生きづらさを抱え、葛藤していた姿が見られます。
書籍『不安なモンロー、捨てられないウォーホル 「心の病」と生きた12人の偉才たち』は、科学ジャーナリストで「ニューヨークタイムズ」のベストセラー作家でもあるクラウディア・カルブ氏が、世界的な偉人12人の知られざる苦悩に迫った異色の伝記集。現代医学のフィルターを通し、マリリン・モンロー、アンディ・ウォーホル、ダイアナ妃といった人物たちの「心の病」の正体を探っていきます。
たとえば、アメリカの美のシンボルとして愛されたマリリン・モンロー。彼女は数々の華やかなステージの裏側で常に不安を抱えていました。虚無感、アイデンティティの混乱、感情の激しい起伏、不安定な対人関係、薬物乱用……。これらはすべて「境界性パーソナリティー障害」の典型的な症状だといいます。この精神疾患はとても複雑で謎が多いものの、心理療法の発達により現代では高い確率で治療可能なのだそうです。
しかし当時はまだ適切な治療法が確立されておらず、モンローは薬の過剰服用により亡くなってしまいました。三度目の結婚相手であったアーサー・ミラーは彼女のことを「『他人の車に乗せられた単なる乗客』のような人生を歩んでいた」と語りましたが、著者は「ハンドルの握り方さえ誰かに教わっていたら、マリリン・モンローの運命は大きく変わっていたかもしれない」(同書より)と記します。
このほか、不安や不満の解消から食べては吐いてを繰り返したダイアナ妃は「過食症(摂食障害)」、何百個という箱の中にありとあらゆるものを詰め込んだアンディ・ウォーホルは「ためこみ症」、ドアノブにティッシュを何枚も巻かないとドアを開けられなかったハワード・ヒューズは「強迫性障害(OCD)」、子どもの頃は周囲に適応できず、大人になってからも自分が興味を引かれるものにしか目を向けなかったアインシュタインは「自閉スペクトラム症」など、同書では現代医学から見た偉人たちの心の病が取り上げられています。
読んでいて感じるのは、あふれ出る才能や名声を手にしながらも、それが必ずしも本人の幸せにつながるものではないということ。さまざまな生きづらさを抱えて思い悩む姿は自分となんら変わりないと思う人もいるかもしれません。
「本書の中で私が検討した仮説や提起した疑問が、私たち大勢の心を構成して絡み合う複雑な力学のさらなる理解に役立ち、誰しもが直面する困難に対して共感が広がればと願っている」(同書より)
同書は歴史上の人物の一面に触れるとともに、自身や周囲の心の謎について理解を深める一冊として役立つのではないでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]
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