高齢者・外国人・LGBTQなどへの根強い入居差別に挑む三好不動産(福岡)、全国から注目される理由とは
日々の生活を送る上で、安心して暮らせる場所があることは重要です。しかし、高齢者や低所得者層、外国人など、住まいを探してもさまざまな事情により入居先を確保することが困難な人たちの問題が今も存在します。
福岡県を中心に活動している三好不動産は、持続可能な社会の実現に向けて、「すべての人に快適な住環境の提供を」のマインドを常に持ち続けています。三好不動産の川口恵子さんと原麻衣さんに取り組みや、その思いについて、話を聞きました。
「お客様が希望する住環境を提供できない」不動産賃貸業界における問題
福岡のまちには、企業や大学が多く存在します。また、地の利も良いことから、海外からの留学生や移住者、日本で仕事をする人も増え、投資の対象としても注目されてきました。
下図は福岡市が民間賃貸住宅事業者に対して行ったアンケート結果(「福岡市住宅確保要配慮者賃貸住宅供給促進計画(2019年3月)」より抜粋)です。2016年時点で実に67.5%の民間の不動産会社が「入居を断ることがある」と答えており、その対象として「外国人」「ホームレス」「高齢者世帯」では3割以上の会社で入居を制限しているという実態がありました。
家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)
「当社は『すべての人に快適な住環境の提供をしたい』という基本姿勢のもと、かねてより高齢者や外国人、DV被害者、災害時の住宅提供など、さまざまなニーズにいち早くお応えしてきました。住まい探しに困っている方がいるのであれば、なんとか力になりたいといった社風があります。どのような方がお部屋探しにいらっしゃっても、基本的にお断りすることはありません」(原さん)
すべての人に快適な住環境の提供を!三好不動産が舵を切った分岐点
三好不動産はもともと多様性には理解のある社風でしたが、中でも社員の意識が大きく変わったきっかけがあったといいます。それは、2008年にプロジェクトを立ち上げ、外国人の入居希望者を積極的に受け入れるようになったこと。原さんは、当時のことを「“ありとあらゆる人たちに住環境を提供するのだ”と、社員全員がはっきりと意識する分岐点になった」と感じているそうです。
外国人の従業員も採用するようになり、現在は中国、ベトナム、ネパール、韓国出身の13名が三好不動産で働いており、このうち9名が宅地建物取引士の資格を取得しています。
「2008年当時、福岡で外国人に物件を紹介していた不動産会社は、三好不動産だけだったような気がします。他社よりも外国人への理解はそれなりにあると思っていたのですが、新たに外国人スタッフが加わったことで、今まで当たり前と思っていたことに対して『私の国ではこうです』と指摘され、文化の違いを知ることもあり、お互いの凝り固まった見方とはまた違った考え方や“世界から見た日本”の視点に気付かされることが、たくさんありました」(原さん)
現在、三好不動産が支援する住宅確保に配慮が必要な人たちは、多岐にわたります。外国人や高齢者、LGBTQ、DV被害者、被災者など、抱える問題や事情に違いはあれど、対応していこうとする姿勢に変わりはありません。
「身寄りがないなどの理由で賃貸住宅を借りることが困難な高齢者など、通常の契約が難しいケースでは、自社で設立したNPO法人が、オーナーと借主の間に入って住宅を提供しています。身寄りのない方とも面談をして、一人で生活するのに支障がないことを確認した上でお部屋を紹介することが可能です」(川口さん)
三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)
「問題の根本は何なのか」「足りない点は何なのか」を勉強することから始めたLGBTQの居住支援
LGBTQの人たちも、不動産会社側の偏見や理解不足、知識不足から、部屋探しにはさまざまな壁があるようです。LGBTQの居住支援の担当者となった原さんと広報の川口さんは、まずLGBTQの人たちが抱える悩みごとや問題点は何なのか、勉強するところからスタートしました。
「LGBTQ専用のサービスの必要性や所得が低いために生じる問題はほとんどなく、多くは理解のないことや知識不足に起因します。知識と相互理解によって、齟齬のないようにしていくことが大事です」と話す原さん。よくある事例としては、パートナーと一緒に入居を希望した場合に、カミングアウトしていないため、親族に保証人を頼めないケースや、同性パートナーとの同居を、その関係性を打ち明けられず一人入居と偽って契約してしまうといったケースなどが挙げられます。
原さんたちは、まずは店舗にレインボーマークを掲げるなどLGBTQの方が相談しに来やすい環境づくりからはじめ、最近ではYouTubeチャンネルで情報を発信するなど、活動を広げていきました。そして、今では、どの店舗でもLGBTQの人の部屋探しに対応できるまでに。2016年10月~2022年10月の間の賃貸契約数は約120組、相談件数においては常時100件以上にのぼります。
社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)
店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)
行政や異業種とのタッグも!取り組みがもたらした変化
三好不動産では、住まいの確保に困難を感じている人たちと、オーナーさんが貸し出すことを承諾した管理物件とをつないで、契約を結んでいます。行政から相談を受けたり、調査や講演などへの協力を要請されたりすることも少なくないそう。
「LGBTQ支援をはじめ、さまざまな活動を通して、不動産業界以外の企業や団体から『三好不動産のLGBTQの取り組みを話してほしい』などの依頼をいただくこともあります。福岡市パートナーシップ宣誓制度の導入を受け、福岡市に後援いただいて当社が主催したセミナーも4回にわたりました」(原さん)
活動を通じて、同じ方向を見ている企業や行政とは、業種を超えて新たな取り組みにつながっていく、良い循環ができているようです。
福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)
他社でできないことが三好不動産ならできる、その理由は?
三好不動産で行っている、住まい探しに配慮が必要な人たちに寄り添う取り組みについては「取り組みを始めたけどなかなかうまくいかない」と話す会社も多いそうです。それはどうしてなのか、という疑問を原さんにぶつけてみました。
「何のためにやるのか、そもそもの方向性が違うのだと思います。住まいを求めるお客さまの目線から入っていくことに従業員一人ひとりの発見があるのです。世の中から評価されるために、例えば『SDGsが世の中で評価されているからやる』という視点で見てしまうと、見えるべきものも見えなくなるのではないかと感じます」(原さん)
原さんたちは「いつかは取り組まなくてはならないことだから」と、見切り発車でも、まずは動いてきたと言います。まだ先を完全に読みきれない不安もある中、「失敗を恐れて何もしないよりは」と行動することで取り組みを推し進めてきました。
また、三好不動産の各部署では、自主的に研修会や勉強会を企画・開催し、社内だけでなく社外向けに発信する機会も多くもあるそうです。一人ひとりが受け身ではなく、能動的に動くことこそが、他社ではできないことを可能にしているのではないでしょうか。
九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)
原さんは会社全体のプロジェクトとしてLGBTQやDV被害者のお部屋探しの推進を担当していますが、三好不動産ではそれぞれの店舗でも、高齢者や災害被害者、LGBTQといった住宅確保に困難を抱える人の、住まい探しを支援しています。
「お客さまの身になって」「一人ひとりに寄り添って」。言葉で言うのは簡単です。しかし、本当に困っている人たちと向き合うには、知識も必要ですし、多くの人に理解をしてもらうための手間暇を惜しんではいけないのだと改めて感じました。それは、ボトムアップで意見のできる風通しの良い社風、そして、会社の利益だけでなく“お客さまのために何ができるか”で行動できる環境がそろっているからこそできることなのかもしれません。
そして活動の効果を実感するまでには長い年月がかかるといいます。原さんたちが明らかな変化を感じたのが、2016年から参加している、性的少数者をはじめとするすべての人が自分らしく生きていける社会の実現を目指す啓発イベント「九州レインボープライド」にブースを出店したときの来場者の反応だそう。最初はLGBTQなどの当事者、行政、NPOなど、LGBTQの問題に直接的に関わる人や団体の参加が多く、「どうして不動産会社がここにいるの?」と不思議そうな顔をされたそうですが、2022年の開催では、来場者から「応援しています」「三好不動産の活動、知っていますよ」など、激励の言葉をたくさんもらったのだとか。地道な活動が、少しずつ形になり、実を結びつつあるということでしょう。
●取材協力
株式会社三好不動産
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