【ライヴレポ】adieu(上白石萌歌)の歌声が彩る、穏やかなひととき──〈adieu LIVE 2024 mare -冬のあまやどり-〉
2024年12月22日。
役者としても大きな活躍を見せている、上白石萌歌のクリエイティブコンソーシアム、adieu(アデュー)。2024年11月27日にリリースした、約2年ぶりのアルバム『adieu 4』は、その作品としての完成度の高さから、音楽ファンからも高い評価を受けている。本公演は、そのアルバムの世界観を表現したワンマンライヴ。昨年2023年に渋谷WWW Xにて開催された〈adieu coucou-夏のつどい-〉から、およそ1年半ぶりの開催となる。港町横浜に冷たい風が吹き荒ぶなか、会場であるKT Zepp Yokohamaはクリスマスムードの街の様子と相まって、期待と高揚感に包まれていた。
ライヴは、adieuのはじまりの楽曲でもあり、野田洋次郎(RADWIMPS)が作詞・作曲を手掛けたファースト・シングル“ナラタージュ”でスタート。透明感のある彼女の歌声とバンド陣のアンサンブルが、温かな世界へと観客を誘っていく。そしてそのまま、Yaffle作曲、PORIN(Awesome City Club)作詞の“背中”、柳瀬二郎(betcover!!)が作詞・作曲を手がけたファンク・ナンバー“ソウルメイト”、塩入冬湖(FINLANDS)のドリーミーな詞と曲が特徴的な“わたしはまやかし”、という最新アルバム『adieu 4』収録楽曲を立て続けに披露。言葉ひとつひとつを丁寧に紡ぐその姿に、会場一体が穏やかな空気に包まれていた。
今回のライヴタイトル「mare」とは、フランス語で「水たまり」を意味するとのこと。ライヴ全体も、雨や水をモチーフにしており、ステージ上には雨粒をイメージしたような鏡が設置されていたり、照明も青色のものが多かったように思う。また「冬のあまやどり」には、日々の生活のなかで感じる不安など感情から、「心のあまやどり」をしてほしいという気持ちから名付けられたという。
続いてのブロックでは、“花は揺れる”、“春の羅針”、“強がり”、“灯台より”と、adieuの作品のなかでも比較的ゆったりとした楽曲を披露。まるでマイナスイオンが出ているかのごとく透明感のある声で、聴く者の心を落ち着かせる。adieuの歌い方は、とにかく自然体だ。声を張り上げて叫んだり、高いキーを無理矢理に出したりすることはない。それでいて、心にまっすぐ届くような確かな芯がある。だからこそ、その歌声を聞いているとリラックスした気持ちでいられるし、安心した気持ちで「心のあまやどり」ができるのだと思う。もちろんそれは、必死さを感じさせない技術の高さや普段の努力の賜物であることは、間違いない。
ライヴはさらにここからBPMを上げ、グルーヴィなサウンドが印象な“旅立ち”、“泡吹”へと繋げる。スキップでも興じているかのような軽やかな歌唱に、自然と心が踊りだす。様々な制作陣が楽曲提供をしていることでも話題を集めるadieuだが、そのどれもが「adieuの色」として仕上がっている。これはアレンジメントを務めるYaffle, 小袋成彬の手腕や、adieuチームのプロデュース力はもちろん、彼女のヴォーカリストとしての表現力の高さによるものだろうと推察する。
次のブロックでは、アコースティック・ギターのみの編成で、“心を探している”、“夏の限り”をパフォーマンス。音数も少なく、いろんなものを削ぎ落としているからこそ、「うた」の力をダイレクトに感じることができる構成に観客もグッと聴き入っていた。ライヴはここから終盤へ。バンド・メンバーが再び戻ってくると、今度は“ダリア”、“景色 / 欄干”、“ワイン”をメロウに歌い、会場の温度をほんのりと上げる。本編最後に披露されたのは、“ひかりのはなし”。「守ってあげるから あなたの悲しみは ぜんぶ ぜんぶ 私にください」からはじまるこの歌は、「なぜadieuとして歌を届けるのか」という問いに対する答えのように心に響いた。
アンコールの拍手が鳴り響くなか、adieuは、グッズのTシャツとジーンズ姿で再びステージへ。彼女は登場するや否や、ステージ上から客席を自前のカメラで「ハイチーズ」と撮影。これまでの雰囲気をガラッと変え、ラフなスタイルで天真爛漫な表情を見せていた。バンドメンバーの紹介を挟んで、アンコールはラヴァーズ・ロック調のアレンジが施された“Roulette”、5年前にリリースされた最初のEP「adieu 1」収録の“よるのあと”を披露。そして、崎山蒼志楽曲提供による“ほしくず”を大切に大切に歌い上げ、この日のライヴを締め括った。
adieuは最後にステージの端から端まで歩いて、集まった観客に感謝を伝える。さまざまな不安が誰しもの心に潜む現代において、adieuの歌声は救いの音楽になりうる。辛いことがあっても、またadieuの楽曲を聴いて、ライヴに来て、「心のあまやどり」をすればいい。adieuの音楽はきっと大きな包容力をもって、寄り添ってくれるはずだ。
取材&文:ニシダケン
Photo by Kodai Kobayashi
▼「adieu LIVE 2024 mare -冬のあまやどり-」セットリスト
ナラタージュ
背中
ソウルメイト
わたしはまやかし
花は揺れる
春の羅針
強がり
灯台より
旅立ち
泡吹
心を探している
夏の限り
ダリア
景色 / 欄干
ワイン
ひかりのはなし
Roulette
よるのあと
ほしくず
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