リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022に見るリノベ最前線。実家を2階建てから平屋へダウンサイジングや駅前の再編集など
1年を代表するリノベーション作品を決める「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」。記念すべき10周年となった2022年の授賞式が12月6日に開催されました。260のエントリー作品の中から選び抜かれた総合グランプリをはじめ、各受賞作からリノベーションの今を読み解きました。
【注目point1】住み手の思いとつくり手の工夫が古い家を蘇らせる
暮らしにくく老朽化した建物を今のライフスタイルや住人に合わせて快適な場所に生まれ変わらせるのが、リノベーションの最大の使命であり、原点ともいえます。近年見られた「コロナ禍における魅力あるテレワーク空間」「災害復興リノベでさらなる価値ある場所に」などの事例のように、リノベーション・オブ・ザ・イヤーは基本的に時代性を宿す作品が選ばれる傾向が強いアワードです。しかし、今回はそうしたトピック的な内容ではなく、リノベーションのもつ本質的な力によって住宅性能や居住快適性などを高いレベルで向上させ、魅力ある空間をつくり出した事例が10周年の記念すべき作品となりました。
●総合グランプリ
[総二階だった家(平屋)] 株式会社モリタ装芸
(写真提供/株式会社モリタ装芸)
(写真提供/株式会社モリタ装芸)
外観、内装ともに大きく変えたものの、古い梁や柱を意匠として残すことで愛着のある実家の思い出を留めています(写真提供/株式会社モリタ装芸)
総合グランプリに輝いた[総二階だった家(平屋)]は、リノベの原点回帰を具現化した作品であり、リノベの力をフルに発揮した点が高く評価されました。
まずインスペクションと耐震診断で改修すべき箇所を明確化させ、建て替えとリノベーションの両面で検討。床面積72坪という総二階(1、2階が同面積の家)を、達磨落としのように半分の36坪の平家に減築。減築に加えさらなる軽量化と耐震改修により耐震等級1相当を確保。断熱性能はZEH基準を上回る値を達成。これらの性能向上により長期優良住宅認定の補助金も得ています。間取りを全面的に変えて、開放感ある空間や暮らしやすい生活動線などを実現させました。
近年、新築戸建てで平家の着工件数が年々増加傾向(ここ10年で約2倍に増加。2021年の統計では約13%が平家/国土交通省)にありますが、この作品のように2階建てを平家に変えるリノベーションは今後の一つの流れになる可能性も伺えます。
古い建物を住み継いでいく場合、性能はどの程度向上できるのか、暮らしやすさは得られるのかなど、住む者の誰もが不安に感じるものです。施主の「空き家となっていた築47年の実家を残せるなら残したい。しかし、大きな古い家は地震時に不安。建て替えではなくリノベを選択する場合の安心材料が欲しい」という気持ちに寄り添って話し合いを重ねることで、つくり手側は一つひとつの不安を明確に解消していったそうです。
古い家を建て替えるのではなく、手を入れて住み継いでいくという価値観を改めて示した好事例となりました。
【注目point2】連鎖する「街の再編集」で人と人、人と街をつなぐ
通り過ぎるだけだった無機質な場所を、人々が集いつながる有機的な場所に変える「街の再編集リノベーション」は、今回も注目されました。過去にリノベーションで生み出した、人が集まる場所との連携を図っている点も大きな特徴で、リノベの連鎖がどんどん広がることで、街を変えていく大きな力を感じさせます。
●無差別級部門最優秀賞
[駅前ロータリーを歩行者の手に取り戻せ - 『ざまにわ』] 株式会社ブルースタジオ
(画像提供/株式会社ブルースタジオ)
神奈川県座間市、座間駅東口ロータリーを、人々が集う「庭」として劇的に再編集。駅前にあった駐輪場を移動させて、空いた場所を緑に囲まれた芝生広場に(画像提供/株式会社ブルースタジオ)
[駅前ロータリーを歩行者の手に取り戻せ - 『ざまにわ』]は、駅に隣接し街の人々に開かれた「ホシノタニ団地(神奈川県座間市)」(リノベーション・オブ・ザ・イヤー2015総合グランプリ作品)のコンセプト「子どもたちの駅前ひろば」を踏襲したプロジェクトで、駅前に芝生が広がる心地よい場所を生み出しています。駅前とホシノタニ団地が歩行者のための場所としてつながったことで、さらなる街の活性化の要因ともなっているようです。リノベーションで街の再編集が続いていくことを期待させる点も高く評価されました。
●まちのクリエイティブ・リノベーション賞
[納屋と団地、小さなまちの職住一体のカタチ] 株式会社フロッグハウス
(画像提供/株式会社フロッグハウス)
道路側の壁をガラス張りにしたことで、通りすがりの人が気軽に入れる雰囲気になりました(画像提供/株式会社フロッグハウス)
[納屋と団地、小さなまちの職住一体のカタチ]は、使わなくなった築60年の納屋を人が集えるスペースに変えたリノベ作品。10年前、施主が所有する団地1棟をリノベして職住一体型のクリエイティブ拠点としましたが、そのクリエイターたちの発信場所の第二弾として街に開かれた場所に。花屋、書道教室、菓子販売、写真撮影、演奏会などを行い、兵庫県播磨町の街に活気をもたらしています。
【注目point3】「ご機嫌に暮らしたい」を叶える。建築が人を幸せに
近年、リノベーションは特別なものではなく一般化してきています。中古リノベだけではなく、新築の家を購入してすぐにリノベーションで空間をカスタマイズするといった人もいるほどです。住み手側の熱意やリノベについての知識はどんどん深まり、「こんな暮らしをしたい」「家はこんな空間であってほしい」といった施主の家に対する思いの深さや多様な要望に応じて、リノベ会社はさまざまな工夫を凝らしています。
●1000万円未満部門最優秀賞
[5羽+1人で都心に住まう] 株式会社NENGO
(写真提供/株式会社NENGO)
鳥が美しく映える壁色。鳥の健康状態や飛行状態の確認にも役立ちます。自由に付け替えられる止まり木やバードアスレチックの配置も綿密に考えられました(写真提供/株式会社NENGO)
[5羽+1人で都心に住まう]は、インコなど5羽の鳥と暮らす「鳥ファースト」が徹底された家。鳥が快適に飛び回れるように間仕切り壁をなくし、化学薬品や金属の建材は一切用いず、脂粉や埃の舞い上がらないカーペットを採用するなど、愛情にあふれる仕様に。ペットの快適さをとことん追求した家=人も幸せでいられる家であることを明確に示した点が評価されました。
●マーケティング・リノベーション賞
[まちなかロッヂ] 有限会社ひまわり
(写真提供/有限会社ひまわり)
山小屋風の内装に一新され、気分は山暮らし!(写真提供/有限会社ひまわり)
[まちなかロッヂ]は、築39年の公団住宅、エレベーターなしの5階部分という一室を、アウトドア好きの人が好む室内に変えた再販(※)リノベ作品。エレベーターなしという大きなマイナスポイントを逆手に取り、「勝手に足腰強化!カロリー消費!自然とダイエットでジムいらず!」というプラス要素へとポジティブ変換しています。
※再販/中古住宅を事業者が買い取り、リノベーションなどを施したのち、再販売する形態
●新築リノベーション賞
[7°の非破壊リノベーション] 株式会社ブルースタジオ
(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
家具配置が難しい幅狭で奥行きのあるLDK。既存キッチンを撤去し、造作キッチンや小上がりを設けて、自分たちらしくカスタマイズ(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
[7°の非破壊リノベーション]は、リノベーションで新築の建売住宅のLDKを改善した作品。新築をそのまま使うのではなく、「より暮らしやすく、より自分たちらしく」を実現。既存建物に自分たちを合わせるのではなく、自分たちを基準に、一部分だけでも建物をつくり替えている点がポイントです。
●3次元空間活用リノベーション賞
[Summer Camp House 子供達の「自分で」を育てる家] リノベる株式会社
(写真提供/リノベる株式会社)
遊びながら体を鍛えられるアスレチック、勉強机を造作したロフト下空間など、キッチンから見守れる場所に3人の子どもたちのためのスペースが(写真提供/リノベる株式会社)
[Summer Camp House 子供達の「自分で」を育てる家]は、「サマーキャンプのような子どもだけで自由に過ごせる空間」という施主の希望を叶えた作品。マンションのLDKの空間を立体的に活用してロフトやアスレチック壁を設け、床面積を広げることで子どもの活動領域を最大限に広げています。
まだある注目リノベーション事例
建物のポテンシャルを最大限活かしきった作品
活かされていなかった既存建物のもつポテンシャルやメリットを、高次元に発揮したリノベ作品にも注目しました。
●1000万円以上部門最優秀賞
[Ring on the Green 風と光が抜ける緑に囲まれた家] 株式会社ルーヴィス
(写真提供/株式会社ルーヴィス)
中央に設けたオープンキッチンをぐるりと囲む角丸スクエアの照明の造形美が目を引くLDK(写真提供/株式会社ルーヴィス)
[Ring on the Green 風と光が抜ける緑に囲まれた家]は、過去最多のエントリー数で、オブ・ザ・イヤー史上もっとも激戦となった1000万円部門を制した作品。3方向に8つの窓があるというメリットを最大限に活かすため、細かく仕切られていた3LDKを90平米のワンルームに変え、引き戸で2LDKにもできる仕様に。自然光を豊富に入れ、風の道をつくり出しています。開口部のデメリットである断熱性能や遮音性能はインナーサッシで対策し、外からの視線はグリーンとブラインドでゆるやかに遮断。大胆な間取り変更とデザインの完成度にも高い評価が集まりました。
(関連記事:「付加価値リノベ」という戦略。建築家が自邸を入魂リノベ、資産価値アップで売却益も)
名建築を今に合わせて再生した作品
歴史的価値の高い名建築、時代の名残を感じさせる建物を再生させた住宅遺産ともいうべき作品も受賞しています。
●ヘリテージ・リノベーション賞
[津田山の家-浜口ミホの意匠を住み継ぐ]株式会社NENGO
(写真提供/株式会社NENGO)
モダニズム住宅の直線的な美しさを宿す築57年の家。タイルメーカーの協力のもと、タイルの欠損した箇所も再現(写真提供/株式会社NENGO)
[津田山の家-浜口ミホの意匠を住み継ぐ]は、ダイニングキッチンの生みの親といわれる建築家・浜口ミホ氏が設計した現存する唯一の建物。遺された意匠を尊重し、耐震、断熱改修などの性能を高めて暮らしやすくしています。
●ヘリテージ・リノベーション賞
[時空を旅する洋館]株式会社河原工房
(写真提供/株式会社河原工房)
著しく老朽化していた築102年の家が鮮やかに蘇りました。柱、梁、建具、瓦は再利用しつつ、和洋折衷だった内装をヨーロピアンスタイルに(写真提供/株式会社河原工房)
[時空を旅する洋館]は、大正時代にアメリカから東京へ輸入された建物を神戸の郊外へ移築するという壮大なプロジェクト。「歴史ある洋館でセカンドライフを送りたい」という施主の情熱と時空を超えたロマンの詰まったハーフティンバー様式の家です。移築+リノベーションが価値ある建物を継承するための有効な手法であることを示した好事例だと感じました。
●ローカルレガシー・リノベーション賞
[Mid-Century House | 消えゆく沖縄外人住宅の再生] 株式会社アートアンドクラフト
(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)
60年代に建築された家にミッドセンチュリーの名作家具が似合います。内装はシンプルに仕上げて工事費のバランスをとっています(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)
[Mid-Century House | 消えゆく沖縄外人住宅の再生]は、1970年代に民間に開放された在日米軍のアメリカンスタイルの住宅を再生した事例。長らく空き家となっていましたが、50年先まで通用する家を目指し、古い設備を一新。沖縄に残る近代建築を文化遺産として継承していく試みが評価されました。
大胆な表現手法で個性的空間を完成させた作品
既存の概念に囚われない自由な発想で行われたリノベーションにも注目です。
●「コト」のデザインリノベーション賞
[コトなるカタチ] 株式会社ブルースタジオ
(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
普通のマンションにはない心が浮きたつような楽しいデザインだから、暮らしを心豊かなものに変えてくれます(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
[コトなるカタチ]は、間取りを変えず、ディテールを大胆に変更することで、「家の中でいろいろなアクティビティを体験でき、家族で暮らしを楽しめるコト」という施主の希望を叶えたリノベ作品。セミクローズドのキッチンをY型デザインに変えてオープンキッチンに。向かい合う主寝室と子ども部屋のドアを大きなアーチ開口へ変えることで、間の廊下も含めた広々レッスンスペースに。家族が一緒に料理を楽しんだり、ダンスレッスンをしたりと、楽しみの幅を広げています。
●500万円未満部門最優秀賞
[inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~] フクダハウジング株式会社
(写真提供/フクダハウジング株式会社)
長い年月を感じさせる古材にオレンジとブルーグレーを合わせた内装が新鮮(写真提供/フクダハウジング株式会社)
[inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~]は、アンティークやミッドセンチュリーが好きな施主のこだわり空間。大正3年(1914年)築という100年超の古民家の土台補強と断熱改修を施し、LDKを大胆な色使いとステンレスキッチンという異素材使いによりリノベーション。伝統的意匠性をそのまま引き継ぐという古民家リノベが一般的な中、古民家×ミッドセンチュリー、古民家×モダンという独特の世界観ある作品となっています。
●テキスタイル・リノベーション賞
[テキスタイルの可能性。]株式会社sumarch
(写真提供/株式会社sumarch)
布の描く柔らかい表情と白と生成の色合いが、優しい雰囲気を醸成(写真提供/株式会社sumarch)
[テキスタイルの可能性。]は、布で空間の雰囲気をガラリと変えるという、ありそうでなかった発想のリノベ作品。天井を薄手の布で覆うことで、布で拡散された柔らかな光が包み込む空間を生み出しています。鉄板を埋め込んだ壁にマグネットで固定する手法なので、取り外しが簡単。部屋の間仕切りや収納も同系色の布を用いているので、部屋をスッキリ見せています。
ほかにも素晴らしい作品が特別賞を受賞。リノベーション協議会のサイトでチェックしてみてください。
●まちの余白リノベーション賞
[間隙から生活と遊びの間/LifeShareSpace~noma~] 株式会社ネクスト名和
●フェミニン・リノベーション賞
[世界を旅するネイリスト~海外の開放感と自然の光が広がる空間~] 株式会社bELI
●アップサイクル・リノベーション賞
[風景のカケラ、再編集 「PAAK STOCK」] paak design株式会社
●ローカルグッド・リノベーション賞
[「くるみ食堂」新しい夕張の未来をつくりたい。]株式会社スロウル
「ごきげんな暮らし」をリノベの創意工夫が叶える
2022年は世界情勢不安や円安などによる物価上昇が暮らしを直撃し、現在もその状況下にあります。リノベーション業界でも、原材料費の高騰等で難しい局面を迎えています。
人の暮らしは人の数だけ異なり、希望するリノベ内容も建物の状態も千差万別。一つひとつのリノベ事例は特注品であり、それぞれに応じた工夫が必要です。建材価格が上昇している状況では施主の予算に対して何にコストをかけ、どこをどう削ればいいのか取捨選択も必要となってくるでしょう。
そうした逆境下にありがながら、今回のリノベーション・オブ・ザ・イヤーでは、人の暮らしを快適で幸せなものに変えるリノベ作品が数多く登場しました。受賞作品それぞれの経緯からは、施主の情熱や思いとそれを叶えようとするリノベ会社の創意工夫が読み取れます。
施主と時間をかけて対話を重ねて不安を払拭し、リノベの創意工夫で「ごきげんな暮らし」を実現させるーーそんな各リノベ会社の姿勢に、「リノベーション」「建築」「ものづくり」がもつ大きな力を見ることができました。
コロナ禍や物価高など不安定な状況にあるからこそ、人々はごきげんな毎日を送りたいと願っています。人を幸せにしてくれるリノベーション作品に次回も出合えることを楽しみにしています。
赤絨毯に盛装が決まっている受賞者のみなさん。2023年も素敵な作品を期待しています(写真/SUUMOジャーナル編集部)
●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022」
~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。
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