3Dプリンター建築に新展開!複層階化や大規模化に大林組が挑戦中。巨大ゼネコンが描く将来像は宇宙空間にまで!?
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大手ゼネコンの大林組が、建設業界において3Dプリンター活用の研究に本格的に取り組んでいることが話題になっている。今回取材したのは、現在建設中の、建築基準法に基づく国土交通大臣による認証取得済みの「(仮称)3Dプリンター実証棟」(東京都清瀬市・大林組技術研究所内)。3Dプリンター建築の特徴である「短納期」「曲線美」を具現化した実証棟の建設は、未来の新しい家づくりの第一歩になりそうだ。具体的にどのようなものか取材してきた。
3Dプリンター実証棟の完成は、宇宙空間での建設などまで可能性を広げる第一歩
3Dプリンターを利用した建築は、世界中の企業がこぞって参画する今最もホットな住宅分野のひとつだ。従来よりも圧倒的に工期を短縮できることや、複雑な曲線などデザイン性の高い形状を製造できるようになること、材料を現地に運ぶだけで済むため、建設時のCO2排出量の削減や現場の少人数化が期待できること、これらによって価格をおさえられることなどから、注目を集めている。
これまでSUUMOジャーナルでは、セレンディクス社やPolyuse社、會澤高圧コンクリート社が手掛ける国内における3Dプリンター建築を取材してきたが、今回紹介するのは国内大手ゼネコンの大林組の事例だ。前述の建物は10平米以下、1階建てと小規模なものだったが、大林組の「(仮称)3Dプリンター実証棟」は複数階建てへの展開を意図した延べ面積27.09平米で、新しい3Dプリンター建築の可能性を予感させるものだ。
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建屋の外部に設けられた螺旋階段を上ると、屋上へ行けるようになっている(屋上未完成)。3Dプリンターを使って建設した建築基準法に準拠し、国土交通大臣の認定取得をした初の建物は来年3月完成予定だ(写真撮影/片山貴博)
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この実証棟の完成後は、3Dプリント技術のPR施設として公開されるという(写真提供/大林組)
大林組が基礎研究として3Dプリンター建築に乗り出したのは2014年のこと。2019年には当時の国内最大規模となるシェル型ベンチを製作するなど、技術開発を進めてきた。3Dプリンター実証棟は、地上構造部材をすべて3Dプリンターで製作する構造物として、一般財団法人日本建築センターの性能評価審査を受け、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣認定を取得した。そして、このプロジェクトは同社が今後3Dプリンター建築の可能性を広げる大事な第一歩だという。
「3Dプリンター住宅を生産したり、プリンター自体をつくったりすることがゴールではありません。ゼネコンとして、今後、3Dプリンターを建築現場で導入するためのステップであり、(3Dプリンターを使って)大規模な構造物を実現できることを、技術的にも法的にも証明することが最大の意義なんです」と大林組の技術本部技術研究所生産技術研究部の金子智弥担当部長は話す。
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(写真撮影/片山貴博)
技術本部技術研究所生産技術研究部の坂上肇副課長も、「3Dプリンターの導入によって建設時の自動化施工が実現でき、現場の省人化が期待できます」と続ける。通常の建築現場では、鉄筋を組み、型枠をつくり、さらにそこにコンクリートを流し込むなどの複数の工程を必要とするが、3Dプリンター建築なら、ロボットアームをつけたプリンターを設置し、プリンターへプリントデータを指示するだけで、あっという間に建築物を組み上げていくことができる。
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SUUMOジャーナルの取材に対応してくれた大林組の技術本部技術研究所生産技術研究部、坂上肇副課長(写真撮影/片山貴博)
将来的には3Dプリンターによる宇宙空間での建設も想定しているといい、今回の実証棟は、今後の3Dプリンター建築の可能性を大きく広げてくれそうだ。
鉄筋や鉄骨を使用しない、独自の技術を開発
大林組は3Dプリンター建築に取り組むにあたり、鉄筋や鉄骨を使用せず、3Dプリンター用の特殊モルタルや、超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」による構造形式を開発した。
印刷には、コンパクトで汎用性の高い市販の安川電機製「産業用ロボットアーム」を使用。3Dプリンターといえば直線だけでなく曲線も実現できることが大きな特徴だが、曲線に沿って壁の厚みを一定に保つ必要があるため、材料の出力をコントロールできるようにすることでクリアしている。
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中央に位置するのはロボットアーム(青色)と、大林組が開発した架台部分(緑色の機材)(写真撮影/片山貴博)
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3Dプリンターが一層一層積み上げてつくり出す壁は、独特の凹凸のある模様が浮き出る(写真撮影/片山貴博)
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曲線と直線の厚みの違いにも、材料の吐出量をコントロールできるようすることで厚みの調整をすることによって対応(写真撮影/片山貴博)
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屋上のリブスラブは、分割して出力してあり、後ほど1枚の大きいスラブに。屋上のリブスラブを1階から見上げると、曲線美と機能性を追求したリブの形状が天井として見える(写真撮影/片山貴博)
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屋上のリブスラブは、工場内でプレキャストされ、工事現場へと運ばれる(写真撮影/片山貴博)
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配管ダクトを随所に配置することで、冷暖房設備も完備できるようにするという。左下は今後ベンチになる(写真提供/大林組(写真撮影/片山貴博)
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勾配の比較的に急な外階段。2階の象徴となる曲線が多く使われている階段部分は3Dプリンターならではの造形(写真撮影/片山貴博)
また、今回の実証棟は、単純な円形でも、直線でもない最適化された複雑なフォルムで、前述の技術が、より重要になってくる理由でもある。
同社の設計本部設計ソリューション部 アドバンストデザイン課のカピタニオ・マルコ主任は、こう話す。
「1階でピーナッツ状、2階でラグビーボール状は、3Dプリンター印刷の範囲で平面的に最もコンパクトな形で、材料の経済性と、強度の両方を実現する形状なのです。また、『リブスラブシステム』から着想を得ました。複雑な曲面を描き出せる 3D プリンターの特性を活かして天井を未来的なフォルムにしたことで、2階の床の強度補強も同時に叶えるデザインを実現できました」
「リブスラブシステム」は、イタリア人エンジニアのピエール・ルイージ・ナルヴィが 1950年代に発表した先駆的な床のシステムで、材料の経済性と形状による剛性、強度を両立できるとされたデザインですが、従来の施工方法では建てにくいです。今回、「最小限の建材で、最大の空間を覆える 形態」を追求する中で、このリブスラブシステムを採用するに至ったという。
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1階の天井を見上げるとこのように見える(写真撮影/片山貴博)
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1階の天井(2階の床)部分は、14のパーツに分割して工場で印刷され、後から架設される。写真は14分割されて印刷された天井の一部(写真撮影/片山貴博)
3Dプリンターによる建築物の複層階化、大規模化の実現性を追求
この実証棟の広さは、延べ面積27.09平米(畳約17畳分)。1階部分が完成した後は、その上にプリンターを移動して屋上の腰壁をプリントすることで、複数階への展開の可能性を証明するという。高さ4mの建物になる予定だ。
「計算上では、プリンターを移動させながら出力し続ければ、現在の技術でも2階以上の建物をつくることは可能なんです」と金子さんは説明する。ゆくゆくは3Dプリンターで高層階の建築物を建てることも夢ではなさそうだ。
また、少ない材料で最大限の空間が得られるようにし、壁を複数層としてケーブルや配管ダクトを配置することで、水回りや空調設備も備えられるようにするなど、通常の建築物と同様に利用することを想定したデザインになっているのも特徴。ただ建物の規模を追求するだけでなく、実用性も考慮されていることも特筆すべき点だろう。
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配管ダクトを随所に配置することで、冷暖房設備も完備できるようにするという(写真提供/大林組)
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3Dプリンター実証棟模型。建物の壁は2層になっており、壁と壁の間に断熱材を入れることで、温度調整機能も高めるようにするという。黄色い部分に断熱材が入る(写真撮影/片山貴博)
複層階、大規模建築の課題は、3Dプリンターの制御と温度対策
「3Dプリンター実証棟」によって複数階、複雑な形状への対応も証明しようとしているが、課題になってくるのが材料の温度管理。3Dプリンター建築の魅力は工期の短期化だが、規模が大きくなれば、その分工期も長引く。
5月に着工し、8月から印刷を開始し約4カ月。前述の坂上さんは、「現在、3Dプリンターを1日5時間稼働していますが、季節や時間帯によって外気温が変わってしまうのです。3Dプリンター用の材料は外気温によって固まるスピードに変化が出てしまいますから、外気温に変化があっても安定してプリントできるように材料の調整が必要になります」と話す。
今後、3Dプリンターによる大規模建築が現実のものとなる上で、この問題は避けられない。この実証棟を通じて、課題や解決策が見えてきそうだ。
いよいよ大林組が複数階を意図した3Dプリンター建築に着手した。耐震面で厳しい日本の評価基準をクリアした技術が日本のゼネコンから登場することで、今後、本格的に建設現場での3Dプリンターの導入が進むだろう。「すでに国内外で受注しているプロジェクトから、3Dプリンター利用に積極的な声も上がっている」と話す金子担当部長の言葉は、まさにその証だ。
建設業界全体で危惧される人手不足問題は、そのまま製品の価格上昇と質への問題へ転嫁されてしまう可能性がある。3Dプリンターの導入が、こうした問題解決に好影響を与えることは、建設時のCO2排出といった環境配慮対策と同じくらい重要な効果なのではないかと取材を通じて感じられた。
●取材協力
株式会社大林組
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