立場の異なる女性3人の対話〜飛鳥井千砂『見つけたいのは、光。』

立場の異なる女性3人の対話〜飛鳥井千砂『見つけたいのは、光。』

 主要な登場人物は3人。彼女たちは全員、「Hikari’s Room」というブログでつながっている。

 1人目はブログの読者で、光に心酔している主婦の亜希。レストランで店長兼ホール係として働く夫・英治と、1歳4か月の息子・一維との3人家族。可能な限り子育てもしっかり分担し、亜希への心配りも行き届いている英治。しかし仕事は激務で、亜希はワンオペ育児にならざるを得ない状況が続いていた。亜希には、5年間派遣社員として勤務した会社から雇い止めされた過去がある。現在は保活と自分の再就職のための就活を並行して行っているが、先の見えない状況だ。自分が育児や雇用に関してもやもやと感じていることを、的確に言語化する光を尊敬している。

 もう1人は、夫・尚久とふたり暮らしの茗子。5年前に流産して以来、尚久とはセックスレスに。産休や退職予定の社員の分の仕事をカバーすることに疲れ果て、妊娠などを理由に自分の都合ばかり優先しようとする同僚たちへのストレスが、妊婦や子どもを持つ保護者への不満につながっている。母親としての視点で書かれている「Hikari’s Room」に対して過激な書き込みを続けているが、他のフォロワーからの非難の声は大きい。

 最後の1人は「Hikari’s Room」を発信している光。常に率直な物言いが人気で、多くのフォロワーから支持されている。しかしある日、「遠くに来ています。つらいことがあり、苦しいです。私も人間ですから、酷いことをされたら傷付きます」というコメントがアップされ…。

 『皆さん、心配かけてすみません。私は元気……、いや元気ではないかな。でも無事でいますので――」という新たな投稿に添えられた写真が出雲大社で撮影されたものだとわかり、亜希と茗子はそれぞれ衝動的に光を探しに出雲へと旅立つ。私自身、乳児や幼児を育てるたいへんさや仕事の割り振りに関する不公平感などはかつて身近なものであった。そのため、ずっとこらえていたけれどある日突然たがが外れて突飛な行動に走ってしまう、という彼女たちの気持ちはわからないではない(亜希や茗子の行動力はすごすぎるが)。果たして出雲の地へ向かった彼女たちはどうしたか…それはぜひお読みになっていただきたい。

 周囲への感謝の心を持ち、それを言葉や態度でも表すことは大事だ(権利を行使するのはもちろんオッケーだとして、それによって自分をフォローしてくれる人たちへ「ありがとう」という気持ちを持つことは当然のことと思っていたので、本書を読んでそうでない人々も少なからず存在するらしいとわかったのは衝撃だった)。突飛な行動に出はしたものの、主役の3人は基本的に常識人で誠実さも持ち合わせているので、そこは読んでいてほっとした。最終的に、彼女たちはそれぞれの「光」を見つけられたに違いない。

 本書における女性たちの関係は、シスターフッドの完成形に近いように感じた。”主張や立場の異なる女子たちが意見をぶつけ合いながらもお互いを尊重し合って、改めるべきところは改めて、言うべき事は言う”という3人のやり方は、他者と理解し合うための重要なステップではないかと思ったから。子どもの頃には「みんなとなかよくしましょう」と教えられるけれど、誰とでも友だちになるなどということは不可能だし、女子なら無条件でわかり合えるわけでもない(それは男子同士だってそうでしょう)。それはそれでしかたのないこととしても、主義主張が自分と違うからといって相手を完全否定したり聞く耳を持たなかったりすることが問題なのだと思う。…と、まだまだ課題も山積している世の中ではあるものの、対話する姿勢を大切にしてなんとかいい方向へ進んでいけるといい。話し合いがみるみる白熱した3人のように(いや、あれは少しばかり腹を割りすぎか)。

 北上次郎さんが本書を「今年のベスト1」と推してらっしゃるのも、うれしい情報である。尚久に代表されるような、女性を一段下に見たり仕事を押しつけてきたりする男性が、世の中には多く存在することも描かれている(尚久も独身時代には女性が置かれた境遇に対して理解を見せていた、というところがまたリアル)。主役たちに共感を抱く男性読者が存在するという事実は心強い。相手の立場に立って考えてみようとする気持ちが養われないと、”男同士のいじめ”や”跡継ぎは男子でなければならないというプレッシャー”や”男が身なりに気を遣うなんて女々しいという偏見”といったものから、男性たちだっていつまでも解放されないままですよ。

(松井ゆかり)

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