映画『グランド・マスター』ウォン・カーウァイ監督インタビュー「なぜ今カンフーなのか?」
日本にも熱狂的なファンが多いウォン・カーウァイ監督の最新作『グランド・マスター』が5月31日に公開となります。本作は、伝説のアクションスター、ブルース・リーが生涯ただ1人、正式に教えを受けた師匠イップ・マンの知られざる物語を描き、トニー・レオン、チャン・ツィイーなど豪華キャストが集結した話題作。
なぜ今、イップ・マンなのか。構想17年をかけて挑んだ物語で見出したものとは? ウォン・カーウァイ監督への電話インタビューが実現! 「トニー・レオンが撮影中に骨折」という衝撃なエピソードなど貴重なお話を聞いてきました。
――まず最初に、イップ・マンの物語を描こうとしたきっかけを教えてください。
ウォン・カーウァイ:最初に彼に興味を持ったのは、もちろんブルース・リーの師匠だったからなのですが、色々と調べているうちに、彼は1930年代の中国、中華民国、そして香港で生きていた人物で、まさに中国の近代史の縮図だと思いました。最初は1人の武術家の物語を書こうとしていたのが、次第に武術に関わる者の精神を表現したく思い、制作に非常に時間がかかったわけです。
――プロット、撮影方法、編集など、具体的にどんな部分に一番時間がかかったのでしょうか。
ウォン・カーウァイ:この作品は中華民国や中国の東北地方や、様々な場所で撮影をしたので、かなり大規模な撮影クルーになりました。ですから移動時間だけでも相当かかっています。
――その甲斐があって、どうやって撮ったのか想像が出来ないほど美しい映像の連続でした。
ウォン・カーウァイ:今までのカンフー映画や中国映画に無い作品を撮りたかったので、まず色々な流派の武術家に話を聞く所からはじめました。「カンフーという物は本当にすごいのか」そんな根本的な事から考え、人と会ったり話を聞く時間に3年ほどかけています。
ある師匠が、弟子達を集めて早朝から武術に励む姿を見て「何でここまで出来るのだろう」と思ったのですが、それは武術が好きだと言うことに尽きると思うんですね。武術とは生きる事、死ぬ事。そこには想い、恨み、様々な精神が詰まっていると。
――バトルシーンも凄まじい迫力でした。
ウォン・カーウァイ:バトルシーンでも、色々な流派のリアルさを追求しています。スタントマンを一切使わず、俳優達が実際に演じています。
――相当なトレーニングを積んだそうですね。
ウォン・カーウァイ:皆さん2、3年トレーニングをしています。最も時間を費やしたのはチャン・ツィイーと兄弟子とのバトルシーンなのですが、東北地方の駅で、夜のマイナス30℃の極寒中、2ヶ月ほどかけて撮影をしました。チャン・ツィイーにはとても感謝しています。
――イップ・マン役へのトニー・レオンの起用は、監督の中ではすぐに決まったのでしょうか?
ウォン・カーウァイ:トニー・レオンに演じてもらう事は一番最初から考えていました。彼は中国人の男性の魅力を一番に出す事が出来る人物だし、この作品に出てくる男性達は、そんなにハンサムじゃなくても非常に魅力的です。
――役作りにはどの様なアドバイスやオーダーをしたのですか?
ウォン・カーウァイ:物語の後半は、イップ・マンが香港に出てきてからの話で、その時はすでに有名人でしたので、歴史上の人物の風格で。一方前半は、イップ・マンがどんな人物だったのか記録も少ないので「ブルース・リーの様に振舞って欲しい」と言いました。トニー・レオン自身もブルース・リーが大好きで、子供の頃よくモノマネをしていたそうなので、喜んで演じてくれました。
――監督は何度もトニー・レオンと仕事をしていますが、監督が考える彼の一番の魅力はどんな所でしょうか。
ウォン・カーウァイ:まずとても良い役者であるということ。そしてタフですね。彼の様にキャリアがある俳優が1作品に3年もの時間をかけるという事もすごいし、しかも撮影では何度も骨折をしている。それでも映画を撮ろうと頑張ってくれました。武術の経験がゼロなのに、あそこまで魅せてくれる。彼と仕事をするといつも驚きがあります。
――本作はもちろん迫力のバトルシーン、カンフーも見所ですが、男女の切ない感情のやりとりなど、監督らしいロマンチシズムも強く感じることが出来ました。
ウォン・カーウァイ:単なるカンフー映画では無く、武術に生きる人の精神を描いていますから、カンフーに興味が無い方でもこの作品を観れば考え方が変わるかもしれませんね。映画のタイトルも、同じ時代を生きた数名の武術家を描いてるので『グランド・マスターズ』と一度変更したのですが、“人”では無くて“精神”を書いているので最終的に『グランド・マスター』に変更しました。前作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』から5年の月日が経ってしまいましたが、ぜひ日本の観客の皆さんにも楽しんでいただきたいです。
――どうもありがとうございました!
筆者もウォン・カーウァイ監督の大ファンなのですが「今は『グランド・マスター』の色々な事を消化する時間なので、次回作の構想はまだありません」との事。残念。ファンの皆さんは『グランド・マスター』で監督への想いを貯めておきましょう。ウォン・カーウァイ監督らしい映像美や大迫力のバトルシーンを観るならぜひ大スクリーンで!
グランド・マスター
20世紀初頭の中国。引退を控えた北の八卦拳の宗師ゴン・パオセンは、引退試合を開催し、自分に勝った者に、流派統一の任を譲ることを宣言する。南の詠春拳の宗師イップマンが有力候補にあがる。イップマンはこれを受け、ゴン・パオセンと一戦を交え……。
5月31日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほかにて全国ロードショー
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