似鳥鶏『夏休みの空欄探し』の展開にびっくり!
読んでてそわそわしてしまうほど、甘酸っぱい! 思わず解いてみようとチャレンジしたくなる謎、同じ趣味を持つ魅力的な異性、そしてクラスの一番人気の男子と育む友情…「こんな素敵な10代の思い出なんてねーよ」とやさぐれながら読んでいたんですが、「えっ、こんな展開…!?」と驚いて正座の状態に座り直しました。とにかく読んでみてくださいとしか言えないんですが。
語り手の成田頼伸(ライ)は高校2年生。クイズ・パズル研究同好会の会長をしている(会員は会長・副会長の2名のみ)。同じクラスには名字が同じ(だがこちらはダンス同好会で人気者の)成田清春(キヨ)がいるため、ライは「じゃない方」とされている。夏休みが始まったばかりのその日、ライは国分寺駅前のモスバーガーにいた。隣の席には、大学生と高校生くらいの姉妹と思われる女性ふたり(横目で確認したところ、どちらも美人)。そのふたりがずっと熱心に話し合っているのは、どうもパズルらしき何かについてである様子。ちらっとのぞき込んだライは、一瞬でそれを解いてしまう。
解答を姉妹に知らせたくて身悶えするが、いきなりファストフード店で隣に座った男が話しかけるのは怪しいだろうという意識も働くライ。結果として、ふたりが追加注文をしに席を外したタイミングで自分のレシートにヒントを書き込み、それを隣のテーブルに置いてライは席を立った。「棚に檸檬を置いて丸善を出る梶井基次郎はこんな気分だったのだろうか」と考えながら店を出たライを、思いがけず姉妹ふたりが追いかけてきたのは2分後。
姉は大学2年生の立原雨音、妹は高校1年生の七輝と名乗った。実は暗号はこれだけではないのだという。暗号は2つとも、七輝が古本屋で赤本に挟まっているのを見つけたものらしい。協力して謎を解くことになった3人に、ひょんなことからキヨも仲間に加わって、彼らはひと夏の冒険へと繰り出していく。しかし、『最後の暗号』が見つかった後、物語は思いも寄らない方向へ。苦みを含んだ、けれど希望がないわけではない終盤の展開、目を離せなくなることは間違いない(あなたも途中で正座したとしたら、その後は一気読みかと)。
最初は暗号が出てくるミステリーという趣向に心ひかれたのだが、読み進むにつれて彼らが必死に自分の居場所を探していることに胸が締めつけられる思いがした。私もかつては彼らのような若者だったことを思い出す。陽キャだろうが陰キャだろうが、進路が決まっていようがいまいが、やりたいことがあろうがなかろうが、誰もが”これでいいのか””自分は間違っていないか”不安でしかたがないのだ。
だけどほんとは、好きなものは好きと言えたらいい。まだやりたいことが見つかっていないとしても、焦らず気長に探せばいい。同じように気持ちが揺れてしまう人は誰でも、どんなにしんどくても、たくさん悩んで答えを出してほしいと思う。進むべき方向は最後の最後は自分で決めるしかないのだから。それぞれに苦悩した登場人物たちの未来が、輝くものであるよう祈っている。
と同時に、名前だけの登場だったクイズ・パズル研究同好会のもうひとりの部員である風羽君のことを思わずにはいられなかった。風羽君、ぜひ君と話したいよ! リア充っぽくなっちゃった会長なんかほっといてさ(でも要所要所で風羽君を気にかけているライは、まあいいヤツではある)。
「そうきたか…!」と読者によって多様な感慨がわいてきそうなラストの後には、著者の似鳥さん恒例のナイスなあとがきも掲載されてて楽しめます。余は満足じゃ。
(松井ゆかり)
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