【「本屋大賞2022」候補作紹介】『六人の嘘つきな大学生』――就活の最終選考を舞台に繰り広げられる究極の心理戦のゆくえは?
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2022」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、浅倉秋成(あさくら・あきなり)著『六人の嘘つきな大学生』です。
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大学生が民間企業から採用をもらうためにおこなう「就職活動」。新卒を一括採用し、同時に雇い入れるのは、海外にはない日本独特の文化だといいます。
そんな就活にまつわる、6人の大学生の究極の心理戦を描いたミステリーが『六人の嘘つきな大学生』です。
2011年、成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めておこなった新卒採用。応募総数5000人以上の中から最終選考に残ったのは、波多野祥吾、九賀蒼太、袴田 亮、矢代つばさ、嶌 衣織、森久保公彦の6人でした。最終選考の課題は、6人で最高のチームを作ってディスカッションをおこなうというもの。内容が良ければ全員に内定を出す可能性もあると聞き、彼らは1カ月後の本番に向け、対策ミーティングを重ね、交流を深めていきます。
しかし、直前になって届いたのが「採用枠が1つになった」というお知らせ。最終選考の課題は、「6人でディスカッションをおこない、その中から1人の内定者を決める」という内容に変更されました。
それまで仲間だったはずが、突如、全員がライバルになる非常事態。さらに当日、内定をかけた議論がおこなわれる中、6通の封筒が発見されます。そこには「○○は人殺しだ」などひとりひとりの嘘と罪を告発する言葉が、実名とともに書かれていたのです。
この手紙は誰が何の目的でしかけたのでしょうか。そしてこの状況の中、みごと内定を獲得するのは誰なのでしょうか。
派手な殺人事件があるわけでもなければ、名探偵が登場して鮮やかな推理を披露するでもないけれど、就活のグループディスカッションというありふれた場で、これほど手に汗握るスリリングな展開が繰り広げられるとは……!
最初は波多野が主人公として描かれているものの、途中からは8年後の現在に時が移り、嶌の視点で過去の回想を織り交ぜながら物語が進んでいきます。たとえ同じ物事であっても、見る側の心理によって、ずいぶんと見方は変わるものだと感じさせられます。秘密を抱えるそれぞれの言葉や態度には読者もおおいに翻弄され、「きっとこの人が犯人では……」との思いが二転三転させられることになるでしょう。
それこそがこの小説の醍醐味でもあります。6人の大学生は全員、一流大学に通う、見た目も経歴もスマートな人物ばかり。しかし優秀な学生たちだとすっかり信用していたら、情報ひとつでその印象はコロッと覆されてドンデン返しを喰らうことも……。人間の一面だけを見てすべてを判断できないことを、私たちはまざまざと見せつけられるのです。
この “ドンデン返し”は、むしろ楽しみながら読んでほしい部分。最後の最後におとずれる後味の悪さと、青春小説としての爽快感のバランスが絶妙で、みなさんの心にも何かを残す一冊になるのではないでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]
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