経済の教室(基礎編5) デフレの責任1:コスト競争(中部大学教授 武田邦彦)

経済の教室(基礎編5) デフレの責任1:コスト競争(中部大学教授 武田邦彦)


今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

経済の教室(基礎編5) デフレの責任1:コスト競争(中部大学教授 武田邦彦)

不景気になったのは政府の責任だという話があるけれど、本当にそうだろうか? 責任は政府だけか?と私は思う。まず、第一に「もったいない」といって節約した国民が第一責任だ。なんと言っても「物を買わない社会」で景気が良くなるはずも無い。

良く見かけるのは「給料が安い」と言って「節約」をしている人だが、「節約する」というのは物を買わないということだから、売り上げが減って給料が減るのは当然だ。「鶏と卵」の関係だけれど、日本の場合は不景気の前に「分別」「節約」が始まって不景気になった。自作自演でもある。

もう一つは、「コスト削減」を進めた大企業だろう。

商売なのだから「コスト削減」も当然だが、それも「企業と場合」による。大手の企業から注文を受け、必死に毎日働いている中小企業の多くはコストが勝負で頑張る。もちろん、独自のアイディアでらくらく商売をしているところもあるが、レアーケースだ。

それに対して、大企業はもともと「夢のある商品」を作り、それを「少し高いけれど、どうですか!」という開発が基本だ。かつて、本田宗一郎が社会に出した「ドリーム号」などはその典型的なもので、素晴らしいスタイルのバイク、エンジン音は「シュルシュル」という独自の音を建てて他のバイクを寄せ付けない。

バイクを買いに行くと、すこし高いけれどホンダのバイクはまばゆく、欲しくて、欲しくてたまらなかった(私はバイク好きで、バイクとともに過ごした人生でもあった)。部屋の室内が突然、街頭にでたソニーのウオークマンやNECの98(パソコン)もそうだった。値段などあってなきがごときもので、ただただ、欲しかった。今のスマホだ。

ところが、日本の大企業の経営陣がサラリーマン化して、「魅力のある製品」を生み出していくのでは無く、「コスト低減」だけに力を注いだ。サラリーマン経営者にとって見ると、新しい製品を作り出して収益を上げるまでには、ジョブス氏のような変わり者をなだめなければならないし、研究から企業化に至るいわゆる死の谷を越えなければならない、さらには新規事業の収益を上げるまでには赤字が続くのでせっかく手に入れた重役の地位を脅かされる。

それに比べれば、すでに商品化している物のコストを下げるには小さな改善や従業員を叱咤激励したり、安く働かせるだけだから、経営者という選りすぐれた課長ならできることだ。だからサラリーマン経営者はコスト削減に走った。 その方が株主への説得も容易だ。

かくして日本の製品は単に安くて品質が良いだけで、魅力を失い、新しい商品も見かけなくなった。 デフレの責任は政府だけではない。大企業の経営がサラリーマン化したことによって世界的に見て日本の工業製品の魅力が失われたことによる。

高度成長期はまだ日本がヨーロッパやアメリカに追いつく時期だったから、二番煎じの製品で安く、故障しなければ良かったが、すでに世界のトップを走っている日本は魅力ある製品が求められている。

不景気は政府だけの責任ではない。新しい魅力ある製品を開発できない日本の大企業、それに甘んじて社内政治だけにいそしんでいる部長、もったいないと言って物を買わない庶民、高額の医療費をふんだんに使う年配者、成人式に暴れまくる若者・・・さまざまな日本の病根がデフレの要因になっている。

日銀が日本には珍しく、自らの責任をかぶってお札を大量にするのだから、我々もそれに答えるべく、立派な日本に戻らなければ、日銀の努力は無に帰する。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年04月16日時点のものです。

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