認知症の人が見ているのはどんな世界? スケッチと旅行記のスタイルでわかりやすく紹介
認知症とは、認知機能が働きにくくなったため生活上の問題が生じ、暮らしづらくなる状態のこと。
これまでに出版された本やインターネットで見つかる情報は、医療者や介護者からの視点である場合が多く、「肝心の『ご本人』の視点から、その気持ちや困りごとがまとめられた情報が、ほとんど見つからない」というのは、『認知症世界の歩き方』の著者・筧 裕介さん。
認知症の人に起こっていること、本人が感じていることを、より多くの人に理解してもらいたいという思いから生まれた本書は、認知症の人100名以上にインタビューして作られています。認知症とともに生きる世界をひとつの島にたとえ、「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式でわかりやすく解説しているのが本書の大きな特徴です。
では、ここで私たちもその世界をのぞいてみましょう。
この島を訪れた人は、誰もがさまざまなハプニングを体験することになります。乗っていると記憶をどんどん失ってしまう「ミステリーバス」に、人の顔を識別できなくなる「顔無し族の村」、気づくといつの間にか時間が経っている「トキシラズ宮殿」……。そこには13のストーリーが広がっています。
たとえば、同じお湯に浸かりながらも寒がっている人、暑がっている人、ピリピリ刺激を感じている人が描かれているのが「七変化温泉」。同じお湯なのにここまで感じ方が異なるなんて、なんだかおかしな話に思えるかもしれません。
しかし認知症の人がお風呂を嫌がるのはよくあることです。その理由のひとつは、温度感覚のトラブルでお湯が極度に熱く感じたり、皮膚感覚のトラブルでお湯をぬるっと不快に感じたりするためだそうです。また、空間認識や身体機能のトラブルで服の着脱が困難なためにお風呂を拒否したり、時間感覚のズレや記憶の取り違えで「自分はお風呂に入ったばかりだ」と思っていたりと、嫌がる理由もさまざまです。
こうして見ると、お風呂という一場面だけでも、どんなことに困難を感じているかは一人ひとりで異なることがわかります。「つまり、認知症を『ひとくくり』にしない。それが、とても大切なこと」だと本書は伝えています。
それぞれの背景にある理由がわかれば、対応の仕方を変えることもできるし、本人と周囲のやり取りのなかで「わかってくれない」「わからない」といったすれ違いも少なくなってくることでしょう。とはいえ、一筋縄ではいかないのも認知症の大変なところです。
本書の後半では、その手助けとなるような「認知症とともに生きるための知恵を学ぶ 旅のガイド」も掲載。認知症という旅を歩むのに必要な旅支度や心構え、途中で疲れたときの気分転換の仕方を紹介しています。
今のところ医学的に治す方法はない認知症ですが、「『認知症とともにどう生きるか』、つまり、『付き合い方』や『周りの環境』は変えることができる」と本書にはあります。
超高齢化社会を迎えるなか、自身が認知症になったときにどう生きればよいか、認知症の人たちとともに幸せに生きる未来を作るにはどうすればよいか、本書をきっかけに考えてみてはいかがでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]
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