美に執着するヒロイン描く“整形”サイコホラー『整形水』 ホラーマニアの監督が影響を受けた意外な作品
オムニバス漫画「奇々怪々」の1エピソードを原作としたアニメーション映画『整形水』が9/23より公開。本作を手掛けたチョ・ギョンフン監督が、制作のヒントとなった作品を明かした。
『整形水』は、自分の顔や体を思い通りの容姿に変えることができる奇跡の水“整形水”をめぐるサイコホラー。主人公のイェジは元々コンプレックスを持っていた容姿について、とあるきっかけで誹謗中傷を受け、自暴自棄に陥ってしまう。そんな彼女のもとに“整形水”が届けられたことから、人生に大きな変化が訪れる。
原作漫画に映画的なアレンジを加え、よりドラマチックに、より衝撃的な作品に仕上げた本作。脚本も手掛けたチョ・ギョンフン監督は、自他ともに認める大のホラーマニアだ。様々なホラー作品を血肉にしてきた監督が、本作のインスピレーションとなった作品について語ってくれた。また、本作の完成後に観て驚いたという『ジョーカー』(2019)との共通点も明かしている。
まず、ダーレン・アロノフスキー監督の『ブラック・スワン』(2010)。バレリーナの主人公が、役へのプレッシャーから精神を崩壊させていくサイコホラーだ。理想と現実のはざまで苦しむヒロイン像は『整形水』とも共通している。「幻想と現実の境界線がなく、それらが入り混じることで何が真実なのかが分からなくなり、やがて個人の破滅に至る。そういった映画的な仕掛けが素晴らしく、本作でも意識しました」と監督は言う。また、『整形水』の主人公イェジには、原作漫画にはない“幼少期にバレエをやっていた”という設定が加えられているが、これは『ブラック・スワン』へのオマージュだという。
そして、『発情アニマル』のタイトルでも知られる、メイル・ザルチ監督の『悪魔のえじき』(1978)。野蛮な男たちにレイプされた主人公が、残酷なやり方で復讐していくレイプ・リベンジ・ムービーの1作。一見本作との関連性はないようにも思えるが、「主人公が抱える苦痛や怒りを執拗に追いかけ、それを最後まで一貫して描写しているところに映画としてのエネルギーを感じ、参考にした作品です」と監督は明かす。
さらに意外なセレクトなのが、ニール・マーシャル監督の『ディセント』(2005)だ。洞窟内に閉じ込められた女性たちが、事故や裏切り、未知の生物といった脅威に対峙しながら、脱出を試みるスリリングなサバイバルスリラー。監督は、イェジの閉鎖的な心理状態と“洞窟に閉じ込められる”という状況とを重ね合わせ、「洞窟という出口のない特殊な環境の中で、延々と続く絶望や恐怖が絶妙に描かれているところ」を参考にしたという。
その他のインスピレーションとなった作品には、ナ・ホンジン監督の『チェイサー』(2008)や、韓国の朝の連続ドラマによくある“マクチャンドラマ”(展開が激しく、ドロドロした内容や、先が読めないストーリーで構成されたドラマ)を挙げている。また、日本映画も大好きだという監督は、なかでもマインドコントロールによる連続猟奇殺人を描いた黒沢清監督の代表作『CURE』(1997)がお気に入りの一本だそうだ。
本作で初めて長編アニメーションを手掛けたギョンフン監督は、アニメよりも実写映画を作る感覚で制作に挑んだ。本作については、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』と重なる部分も多いという。「『ジョーカー』に関しては、『整形水』がほぼ完成した頃にちょうど劇場公開され、劇場へ観に行ったら、 構造やキャラクター設定など『整形水』と重なる部分が多くあり、本当に驚いたことを覚えています」と監督。
容姿を蔑まれ、外見の美に執着するようになる主人公イェジは観客の同情を誘うが、その行動は次第に理解し難い領域へとエスカレートしていく。そんな彼女について、監督は「最初から悪人と位置付けていました」ときっぱり言い放つ。「悪人の叙事伝、『ジョーカー』のように“悪人が持つ欲望”を描写する気持ちで作りました。悪人に対しては、当然共感できないと思いますが、観ている人が共感ではなく、かわいそうだと哀れに感じたり、こんな欲望を持っているんだと複雑な気持ちで観てもらえたらいいなと思いました」と明かしている。
『整形水』
9月23日(木・祝)全国公開
原作:オ・ソンデ(LINE マンガ『奇々怪々』内「整形水」)
監督:チョ・ギョンフン
提供:トムス・エンタテインメント
配給:トムス・エンタテインメント/エスピーオー
2020年/韓国/ 85 分/カラー/ビスタ/5.1ch/英題:BEAUTY WATER/翻訳:小西朋子/PG12
公式 HP: seikeisui.jp /Twitter:@seikeisui (#映画整形水)
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