田舎暮らしは“異世界”? 漫画編集者が会社を辞めて「半農半X」に挑んだ結果

田舎暮らしの赤裸々エッセイ漫画! 会社を辞めて「半農半X」に挑んだ編集者の戦い

コロナの影響でテレワークが当たり前となり、「都会で暮らす意味ってなんだっけ……?」と思っていませんか? 現に、二拠点居住や移住を考える人も増えているようです。そんな人たちに参考になりそうなのが、都会生まれ都会育ちの漫画編集者が田舎という異世界で暮らす様子を赤裸々に描く実録マンガ『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』(講談社)です。原作者のクマガエさんに田んぼとお住まいで話を聞いてきました。

深夜も土日も仕事。朝まで新宿ゴールデン街で飲み歩いていた漫画編集者時代

『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』(講談社 (c)クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』(講談社 (c)クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

本作は、主人公・佐熊陽平が激務の漫画編集者時代を振り返るところから物語がはじまります。主人公のモデルはクマガエさん自身で、自身の移住体験をもとに話は展開していきます。

『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』の冒頭。明け方までの激務(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』の冒頭。明け方までの激務(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

誰が言ったか、「田舎暮らしは異世界暮らし」(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

誰が言ったか、「田舎暮らしは異世界暮らし」(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

「編集者時代は終電後に飲みに行って、朝5~6時まで飲んで、さらにもう1軒……なんてこともざらでした。土日も関係なく働いていましたし、だいたい朝に寝てお昼に出社できればいい方という日々です」とクマガエさんは振り返ります。妻のルキノさんと出会ったのも新宿ゴールデン街がきっかけだといい、二人はかつての暮らしを「なぜあんなに飲んでいたのか分からない」と笑うほど。

その多忙な生活に疲れ、“異世界”である田舎で稲作をはじめたのは、今から6年前。コロナ禍のさなか、今年4月、『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』単行本1巻が発売となり、田舎暮らし・郊外暮らしを描いているということで注目を集め、メディアからの取材も続いているといいます。

クマガエさん(写真撮影/土屋比呂夫)

クマガエさん(写真撮影/土屋比呂夫)

「読者で多いのは、私がそうだったように30代前半から半ばでしょうか。多忙な都会の日々に限界を感じている、特に最近では仕事がテレワークになったことで移住や二拠点生活ができるのではないか、と考えはじめるようです。あとは、大学生なども読んでくれていて、働き方や生き方について考えさせられましたといった声が届いています」(クマガエさん)

給料は伸びなくても、都市部の家賃や住宅ローンの負担はずしりと重くのしかかります。日々、忙しく働いているのに、「手元にお金も残らず、家も狭いし、これって幸せなんだっけ?」と思う気持ち、よく分かります。

漫画編集者を辞めようと悩むものの……(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

漫画編集者を辞めようと悩むものの……(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

会社員を辞めて「田舎暮らし」という異世界へ踏み出します(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

会社員を辞めて「田舎暮らし」という異世界へ踏み出します(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

田舎+古民家ライフができるのはバーサーカー(狂戦士)だけ!?

現在、クマガエさんがしているのは、いわゆる「ど田舎にある古民家・自然派暮らし」ではありません。1話目冒頭で紹介されている通り、住まいは築浅の賃貸アパート、近くにはカフェもあり、東京にも電車で1時間半ほどでアクセスできるなど、都内に出社できないこともない、田舎と郊外の狭間での暮らしです。

「マンガで描いているように、私自身も米づくり体験→会社を辞めることを検討→田舎で空き家探し→移住の流れです。空き家探しは、会社を辞める前提で家賃を抑えられたらいいな~と、気楽に考えていたんですが、まさに異世界体験となりました。修繕しないですぐ住める家はないし、前の住人の荷物で ゴミ屋敷と化していたり。都会の賃貸物件を内見する感覚でいたので、めちゃくちゃびっくりしました。でも、地方や田舎出身の人に話を聞くと、よくある話みたいですよ(笑)」といいます。

異世界・田舎での家探しがスタート(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

異世界・田舎での家探しがスタート(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

しかし思ったようにいかず……(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

しかし思ったようにいかず……(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

家探しの前提条件が違うのは衝撃ですよね。同じ時代の同じ国、同じ言葉を話すのに「言葉や感覚が違う」というのはまさには、異世界転生。なんか……バグっていく感覚です。

妻のルキノさんは、もともと引越しが大好きで、賃貸の更新をせずに引越したいと思うタイプ。ただ、夫妻二人ともに都市部育ちということもあり、便利な東京23区外で暮らせるのかという不安はあったそう。

「結局、いい空き家が見つからず、知人の古民家に間借りというかたちで田舎暮らしが始まりました。実際に古民家で暮らしてみて、家の修繕を自分でできて、暑さ寒さや湿気、虫の多さも気にしない、過酷な環境にも対応できるバーサーカー(狂戦士)じゃないと、あの生活はできないだろうと痛感して。それで今の賃貸に落ち着きました。SUUMOで探した気がします(笑)。今の家は家賃7万円台、広さ60平米弱の2LDKで、駐車場1台付きです。東京時代は夫婦二人で渋谷区のワンルーム暮らしで30平米未満、家賃は10万円超でしたからねえ」としみじみと振り返ります。

夫妻が暮らす賃貸アパートのリビング。陽がたっぷりと入り、のびのびとした空間(写真撮影/土屋比呂夫)

夫妻が暮らす賃貸アパートのリビング。陽がたっぷりと入り、のびのびとした空間(写真撮影/土屋比呂夫)

ベランダでは収穫した玉ねぎを乾燥させています(写真撮影/土屋比呂夫)

ベランダでは収穫した玉ねぎを乾燥させています(写真撮影/土屋比呂夫)

デスクを並べて夫妻でお仕事。奥の壁は原状回復できる色付きの壁紙で明るくし、画の額縁も自作。DIYスキルも上がっています(写真撮影/土屋比呂夫)

デスクを並べて夫妻でお仕事。奥の壁は原状回復できる色付きの壁紙で明るくし、画の額縁も自作。DIYスキルも上がっています(写真撮影/土屋比呂夫)

稲作6年目、そろそろレベルアップ!? 海の近くへ引越しも検討中

「今は米づくりのほかに、畑で野菜を育てるほか、ぬか漬け、梅仕事、味噌づくりなど、田舎暮らしの経験値もぐっと溜まってきました。半農半X、つまり米づくりや畑や農作業のほか、今までもっているスキルをかけあわせて、農作業のほかに、フリーランスのマンガ編集者、漫画原作などを並行して暮らしています」

自宅でとれた稲の糠をつかってのぬか漬け(左)と梅干しづくり(右)にも挑戦中。手仕事って見ているだけでも楽しい(写真/土屋比呂夫)

自宅でとれた稲の糠をつかってのぬか漬け(左)と梅干しづくり(右)にも挑戦中。手仕事って見ているだけでも楽しい(写真/土屋比呂夫)

田んぼ作業がある日は朝6~7時ごろに起きてお弁当を持って田んぼへ行き、夜には自宅で食事。23時には就寝と、夫妻二人、東京にいたころに比べれば“人間らしい”暮らしを送っています。「田んぼ仕事って、年中、忙しいわけではなくて、5月半ばの田植えのあとは、週1回程度の草引きを2カ月ほどやれば大丈夫なんです。今の田んぼは4家族でシェアして使っていますが、去年は夫婦二人で食べきれないほどのお米(110kg程度)が収穫できました」(クマガエさん)

東京から電車で2時間弱。広い空と水田に心和みます。日本人の原風景なんでしょうね、きっと(写真/土屋比呂夫)

東京から電車で2時間弱。広い空と水田に心和みます。日本人の原風景なんでしょうね、きっと(写真/土屋比呂夫)

(写真撮影/土屋比呂夫)

(写真撮影/土屋比呂夫)

草取りは“ニルヴァーナ(涅槃)“だったのです。解脱も近い?(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

草取りは“ニルヴァーナ(涅槃)“だったのです。解脱も近い?(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)

この生活をすることで、物欲も減り、飲み会も行かなくてもいいかな、と思うようになりました。友人と集まって一緒に味噌づくりをしたり、味噌の完成お披露目会をしたり、そんなことが楽しいですね。今はどこでも味噌が売っていて、買えますよね。一見、すごく便利なようだけど、実はみんなでわいわい味噌をつくるような楽しい機会を奪われているんじゃないか……って思うようにもなりました。あと家事の大切さ、家仕事の価値がすごく低く見積もられている気がします」(クマガエさん)

確かに家事って生きる日々の営みですものね。おろそかにしていいことではない気がします。今、二人は、賃貸で快適な暮らしをキープしつつ、農作業と仕事をする「ちょうどよい暮らし」をしているように見えますが、実はレベルアップ(?)も間近だとか。

「一度、東京都心の塀のなかから飛び出したことで、『あ、私たち、郊外でも暮らせるんだ』って、自信がついた感じでしょうか。もう都会暮らしは無理かもしれませんが、もうちょい不便でも暮らしていけるかも」とルキノさん。今、引越し先として考えているのは海の近くで、農作業ができるエリアだとか。

(写真撮影/土屋比呂夫)

(写真撮影/土屋比呂夫)

(写真撮影/土屋比呂夫)

(写真撮影/土屋比呂夫)

「こうやって取材を受けるなかで、そろそろ次のレベルにいってもいいかもな、と思うようになりました。今の場所を見て、『田舎じゃない』っていう人もいるんですけれど、田舎って言ってもグラデーションになっていて、いろんな人がいて、場所がある。もしハードルが高いと感じるなら、いきなり移住・引越ししなくたっていい。まずは農作業経験とかに参加してみたり、軽い気持ちでチャレンジしてもいいと思うんですよね」とクマガエさん。

コロナ禍を経て、私たちの働き方、暮らし方は大きく変わろうとしています。郊外や地方での暮らしのハードルはぐっと下がっている今、農作業と仕事を自分らしく楽しむ「半農半X」という方法で、無理せずやりたいことを実現するのは、決して夢物語ではありません。もしかしたらクマガエさんのように異世界に踏み出す勇者は、続々と現れるのではないでしょうか。

●取材協力
『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』公式Twitter
1話試し読み
作画担当 宮澤ひしを先生Twitter

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