『千日の瑠璃』478日目——私は太陽だ。(丸山健二小説連載)
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私は太陽だ。
寒波と雪に覆われたまほろ町に恩を着せて照り輝き、見棄てられてはいないことを人々に教える、太陽だ。しがし、空々として日を過す者も、そうでない者も、また、よそよそしい猫やせっかちな犬も、私のことなど一切気にとめていない。かれらは皆、神に伍する実力を持っている私を、ありふれた一片の雲のように、あるいは、月並みな一陣の風のように、あるいはまた、うたかた湖に住み着いてしまった一羽の鷗のように、無視する。
だが、行動に掣肘を加えられているオオルリだけは違う。藍よりも青いわが身をこよなく愛おしむその小鳥は、給餌を忘れられてしまえばそれだけで一巻の終りとなる哀れな運命のなかに身を置きながら、生意気にもこの私に向って対等の口をきき、互角に渡り合うのだ。何者にも、たとえ飼い主にも迎合しないそいつは、私のおかげで法界が成り立っているわけではない、と言う。私から適当に離れた位置にあるからこそ生命が存在するのだ、と一言う。また、こうも言う。あまり威張り散らすものではない、と。私は雲を払いのけて食ってかかる。「おまえの代りなどいくらでもいるが……」と言う。するとオオルリは、それならばこの世に生まれなければよかったと思う者たちの嘆きを全部焼き尽くしてみるがいい、と言い、「おれもあんたも万有引力の地獄で足掻きながら死んでゆく身であることには何ら変りはないんだ」と言ってのける。
(1・21・日)
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