新大久保は「コリアンタウン」ではなく「多国籍タウン」 街のリアルな姿を描き出す

 東京都新宿区にある「新大久保」は、韓国料理店やコスメ、アイドルグッズ、雑貨店などが所狭しと立ち並び、「コリアンタウン」として韓国好きの人々に親しまれています。

 しかし、そうした賑わいから少し離れると街の空気が少し変化。ベトナム料理やタイ料理の店、イスラム横丁と呼ばれる通りで大量のスパイスを売るハラル食材店などが見られ、また違った異国情緒があふれています。「コリアンタウン」の一言ではくくれない「多国籍タウン」。それこそが現在の新大久保といえます。

 ノンフィクションライターの室橋裕和さんは、「彼らはどんな仕事をしていて、どんな思いを持って、この街で生きているのだろう」「この多国籍化を地元の日本人はどう感じているのだろうか」そんな疑問を抱きます。そして、実際に新大久保で暮らした様子をまとめたのが本書『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』。本書には、自身もその街の生活者として、隣人である住民たちと接しているからこそのリアリティがあります。

 たとえば、室橋さんが知り合ったひとりが、若きベトナム人起業家・ドゥックさん。彼が経営する「エッグコーヒー」は、ベトナム人の若者たちのたまり場として大人気のカフェです。そんなドゥックさんが新大久保に新たにオープンさせたのは、なんと韓国料理店。その理由は「この街でいちばん流行っているのは韓国だから」だそうです。お店ではベトナム人と韓国人のスタッフをそろえており、「このミックス感が、新大久保なのだろうと思う」(本書より)と室橋さんは記します。

 ほかにも、24歳にしてバーを経営するベトナム人ママのトゥイさん、ベトナム語のフリーペーパーを出す韓国人の朴さん、日本風の焼肉屋さんを営むミャンマー人夫婦など、実にさまざまな人々が紹介されており、新大久保が多国籍コミュニティの場となっていることに気づかされます。紹介されている皆さんが、なんと勤勉でエネルギッシュ、そしてビジネスに意欲的であることか!

 もちろん良い面だけではなく、多国籍だからこその問題が発生することもあります。また、街が観光地化していくにつれ、もともとあった日本人による個人商店が減り、日本の商店街の面影をとどめなくなっていくという寂しい現実も。それもまた、新大久保という街の今ある姿のひとつだと言えるでしょう。

 さまざまなものを飲み込み、膨張し、変容していく街・新大久保。これからどのような変化を遂げていくのか、室橋さんも分からないといいます。しかし、「この街には文化のせめぎあう接点でお互いを理解しようと努力してきた人たちがおおぜいいる。だから少しずついい方向に向かっていくだろうし、そう願っている」(本書より)と記します。

[文・鷺ノ宮やよい]

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