第2土曜に船橋でいっせいに掲げられる「無事ですタオル」。コトの経緯を聞きに行った
先日、飲みの席で興味深い話を聞いた。
「友だちが千葉県の船橋市に引越したんだけど、毎月第2土曜日に『無事です』と書かれたタオルを家の外に掲げるというルールがあるんだって」
町中に住人の無事を告げるタオルがはためく光景。見てみたい。さっそく、現地に行ってこの目で確かめてきた。
「掲げる地区」に入ったが一向に現れない
調べてみると、同じ船橋市でもこれを実践しているのは咲が丘地区だけらしい。
1丁目から4丁目まである
新宿駅から電車を乗り継いで、約1時間。最寄りの新京成線二和向台駅に到着した。
船橋市の北西部に位置し、次の駅は鎌ケ谷市になる(写真撮影/石原たきび)
さっそく歩き出す。
皆さん無事かな(写真撮影/石原たきび)
すぐに咲が丘地区に入ったが、「無事ですタオル」は一向に現れない。あれ?
無事じゃないの?(写真撮影/石原たきび)
タオルを掲げるスタイルは多種多様
歩くこと数分。あった。「無事ですタオル」。無事だった。
無事です(写真撮影/石原たきび)
無事です(写真撮影/石原たきび)
無事です(写真撮影/石原たきび)
無事です(写真撮影/石原たきび)
ハンガーにかけて玄関に掲げるスタイルが主流のようだが、それ以外のバリエーションもあった。
前面に押し出すパターン(写真撮影/石原たきび)
高さで勝負するパターン(写真撮影/石原たきび)
発案者は防災部会会長の内田さん
「無事ですタオル」がある風景を堪能したのちにお会いしたのは、咲が丘中央自治会防災部会会長で、この試みの発案者・内田祐至さん(82歳)。
なんと、同地区中央自治会町会長の門倉忠克さん(66歳)と防災部会副部会長の小林雅人さん(59歳)も呼んでくれていた。
左から小林さん、内田さん、門倉さん(写真撮影/石原たきび)
内田さんが言う。
「防災を意識した一番最初のきっかけは1995年に起きた阪神・淡路大震災。私、川崎重工で働いていて、あっちには工場がいくつもある。東京から何度も救援に行きましたよ」
その後、咲が丘中央自治会の中に防災部会を立ち上げ、2017年から防災用品会社の案内書で知った「無事ですタオル」を導入する。
自治会費で製作し、185世帯すべてに配布した(写真撮影/石原たきび)
「茨城県常総市では市全体で採用しており、NHKで大々的に放映されました。この取り組みを始めるか否かは、ひとえに防災部会長の熱意によって決まります」
この活動は咲が丘地区の中央自治会のみ
そういえば、内田さん。咲が丘エリアに入っても「無事ですタオル」になかなかお目にかかれなかったんですが。
「咲が丘にはいくつかの自治会があるけど、これをやってるのは中央自治会だけだから(笑)」
なるほど、そういうことか。
消火訓練で各自治会が集合した際の写真(写真提供/咲が丘中央自治会)
なお、この試みは有事の際に備える“訓練”だ。実際に震度5弱以上の地震が起きた際、「無事ですタオル」を掲げることによって外部から安否確認がしやすくなり、救出作業もスムーズに行える。
内田さんが作成したマニュアル(写真撮影/石原たきび)
「もともと、狭い町内だから顔を知らない人はいないけど、この活動を始めたことで助け合いの精神がさらに強くなったと思う」
内田さんは防災リーダーの全国大会に千葉県代表で出場したことも(写真撮影/石原たきび)
「命の笛」は800m先まで聞こえるらしい
昨年の台風で風害に見舞われると、すぐに防災マニュアルをつくって配布した。
風で吹き飛ばされた物置(写真提供/咲が丘中央自治会)
「今年は建物の下敷きになったり、閉じ込められたときに自分の存在を知らせる『命の笛』も配布しました。アメリカの沿岸警備隊が使っているモデルで800m先まで聞こえるんだよ」
船橋北エリアの地域新聞に掲載された(写真提供/咲が丘中央自治会)
地区内には小学校がひとつあるが、その学校だよりに載っている情報も共有する。
船橋市立八木が谷小学校の学校だより(写真提供/咲が丘中央自治会)
今年はコロナの影響で開催されなかったが、地域には昔から続くお祭りもある。例えば、自治会主催の夏祭り盆踊り大会では船橋市の現市長・松戸徹さんも太鼓を叩いた。
子どもたちに混じって太鼓を叩く市長(写真提供/咲が丘中央自治会)
カレンダーに印を付けているから出し忘れはない
その後、内田さんらはふだん第4土曜日に行っている防犯パトロールに出発。以前は年に数回、ひったくり事件などが起きたが、今はまったくないそうだ。
我ら「無事です3銃士」(写真撮影/石原たきび)
小林さんが言った。
「親の代からこの辺に住んでいるから、やっぱり愛着はありますよ。内田さんは80歳を超えても一生懸命やっているでしょ。その姿を見て、私ぐらいの世代がこういう活動をちゃんと引き継がないと、と思っています」
3人は1軒の家の前で立ち止まった。あ、「前面に押し出すパターン」の家だ。インターホン越しに呼びかけると、ご主人が出てきた。
「おお、皆さんおそろいで(笑)。『無事ですタオル』? カレンダーに印を付けているから出すのを忘れることはないですよ。僕は朝6時に出すんだけど、それを見た他の家がぽつぽつ出し始める感じですね」
中央自治会では避難誘導班長を担当する長島さん(写真撮影/石原たきび)
空き巣狙いから住民を守るため、タオルは16時に取り込む。帰宅がそれより遅くなる家は掲示しないことになっているそうだ。
門倉さんが「ここ、ウチです」(笑)
再び歩き始めると、またもや「前面に押し出すパターン」の家を発見。すると、門倉さんが「ここ、ウチです(笑)」
さすが、意識が高い(写真撮影/石原たきび)
そんな門倉さんが、とある建物を紹介してくれた。
「私らを含む3つの自治会の役員や班長が会議をする咲が丘三稜会館です。決まったことは回覧板に記して回す。この建物は私が引越してきた昭和50年代半ばに建ったものだから、かなり古いです」
40年ほど前に建てられたようだ(写真撮影/石原たきび)
この訓練が無駄になるのが一番
というわけで、船橋市の一画には毎月第2土曜日に「無事ですタオル」をいっせいに掲げるエリアがあった。
最後に小林さんが、「一番いいのは、何も起こらなくてこの訓練が無駄になることです」と言った。
今日も無事です(写真撮影/石原たきび)
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