『千日の瑠璃』476日目——私は灰だ。(丸山健二小説連載)

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私は灰だ。

雪片ひとつひとつの核となってまほろ町の隅々に降り注ぐ、ありとあらゆる種類の灰だ。私は、どこか遠くにあってもここによく似た町で焼かれた、身元不詳の、意に満たない一生を送った誰かの死骸から、あるいは、大事には至らなかった山火事に焼かれた草木から、あるいはまた、権勢を専らにする連中が保身のために焼き棄てた書類の山から出たのだ。

さもなければ私は、大気の安定を攪乱する大煙突からダイオキシンといっしょに飛び出し、真偽のほどは保証し難い安全性に包まれて汚染に明け暮れる原子力発電所から飛び出し、ある日突然の墜落をめざして飛行をつづけるジェット機から飛び出した。そして私はそこかしこに禍根を胚胎させ、すでに一部は大変に直結する小変を起こし始めていた。

もし天水を飲料用にする者がまほろ町に住んでいたなら、とうに私は問題視され、もっと深刻に受けとめられていただろう。片丘のてっぺんの家で飼われている青い鳥が、私に気づいて鳴くのをやめた。しかし、すぐにまた安逸を貪る、俗悪な声でさえずった。私は警告を発した。そうやって呑気に鳴いていられるのも今のうちだ、と言ってやった。すると、難病を受け入れて生きる少年が慈しむオオルリは、小鳥とはとても思えぬほどのふてぶてしい態度を取り、凶猛な勢いで荒れ狂う吹雪をはったと睨みつけて、こう言った。鳴けるうちにせいぜい鳴いておくのだよ、と。
(1・19・金)

丸山健二×ガジェット通信

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