『千日の瑠璃』465日目——私は賭博だ。(丸山健二小説連載)

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私は賭博だ。

《三光鳥》の二階の広間にありきたりの遊びに食傷した商店主を集めて、とうとう白昼公然と行なわれるようになった、賭博だ。総身に悦楽の刺青を入れた男が眼にもとまらぬ速さで撒く花札は、小金をためこむことに飽きた客を一喜一憂させ、一寸先が本当に闇であることを痛感させ、ついで安定が精神衛生上どれほどわるかったかを悟らせる。

悪知恵に長け、頓才のある、胴元の三人によって巧妙に仕組まれた私は、もちろん公平なものではなく、運だけに成り行きを任せたものでもない。しかし今の段階では、客をカモにするためのいかさまではなく、あくまで客を増やすためのペテンだ。目下のところ、大勝ちした者はいても、惨憎たる敗北を喫した客はまだひとりもいない。怒りのあまり取りのぼせるような客は、皆無だ。

そしてどの客も、これまでよりも不品行な男になった己れを楽しんでいる。また、まずいことになれば即座に手を引くことができるという自信を持っている。そんなかれらは、私の本当の恐ろしさをまだわかっていない。使用される花札の一枚一枚が、素人の指先では絶対に感知できないほど薄く削がれており、そのせいで私が望み通りの結果を得ていることにまったく気づいていない。割り膝をして坐っている娼婦は、憑き物につかれたような動きをする少年といっしょに上等な寿司をつまみながら、人相や人格が変ってゆく客を面白がって見物している。
(1・8・月)

丸山健二×ガジェット通信

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