「ライス国務長官」葬り「オバマ批判」強めるマケイン (住友総研シニアアナリスト足立正彦)

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※この記事は国際情報サイト『Foresight』より転載させていただいたものです。 http://www.fsight.jp[リンク]

 バラク・オバマ大統領は、クリスマス休暇を生まれ故郷ハワイで過ごすためにハワイへ移動する直前の今月21日、既に退任の意向を表明しているヒラリー・クリントン国務長官の後任として、現在、米議会上院外交委員会委員長の要職にあり、2004年の民主党大統領候補であったジョン・ケリー上院議員(マサチューセッツ州)を正式に指名した。当初は、オバマ大統領が出馬した2008年民主党大統領候補指名獲得争い当時から外交顧問だったスーザン・ライス国連大使を次期国務長官に指名するのではないかと見られていた。そのため、次期国務長官候補の1人であったケリー氏は、第2期オバマ政権では間もなく退任すると見られているレオン・パネッタ国防長官の後任に指名されるのではとの憶測も一部にあった。

 だが、オバマ大統領が次期国務長官としてライス国連大使を検討している事実が表面化すると、J.クリストファー・スティーブンズ駐リビア米国大使をはじめとする米国人4名が殺害された、今年9月11日に発生したリビア東部の在ベンガジ米国領事館襲撃事件が、この人事に大きな影を落とすこととなった。ライス国連大使はホワイトハウスの要請に基づき、同襲撃事件直後の9月16日に日曜政治討論番組に相次いで出演し、米諜報機関から提供された情報に基づき同襲撃事件は反米暴動が原因との見解を示していた。ところがその後、同襲撃事件は周到に準備されていたテロ事件であったことが明らかになり、オバマ政権は大統領選挙キャンペーンが本格化した直後に発生した同襲撃事件がテロ事件であることを隠蔽しようとしていたのではないかとの疑惑が浮上したのである。とりわけ、在ベンガジ米国領事館襲撃事件でのオバマ政権の対応についての批判で急先鋒に立ったのがジョン・マケイン(アリゾナ州)、リンゼイ・グラム(サウスカロライナ州)の2人の共和党上院議員であった。

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 オバマ大統領は再選後初めて行なった11月14日のホワイトハウスでの記者会見で、マケイン、グラム両上院議員を名指しし、ライス国連大使の名声を汚そうとする両上院議員の姿勢は「極めて侮辱的(“outrageous”)」との厳しい表現を用いてライス氏を全面擁護した。ライス国連大使はマケイン、グラム両上院議員らに対し在ベンガジ米国領事館襲撃事件発生後の対応について米議会内で面談して説明を行なったが、マケイン上院議員らの理解は得られず、ライス氏は厳しい立場に追い込まれることとなった。さらに、共和党穏健派のスーザン・コリンズ上院議員(メイン州)は、ライス氏が第2期クリントン政権で国務次官補(アフリカ問題担当)在職当時の1998年、ケニアとタンザニアの米国大使館爆破事件で米国人をはじめとする多数の犠牲者が出たのは、ライス氏が在外公館のセキュリティ強化を十分に行なわなかったためであると指摘、当時の責任をも追及する事態となった。

「ライス国務長官」を葬ることになった決定打は、マケイン上院議員が今月10日、現在、野党筆頭理事を務めている上院軍事委員会から、次期国務長官の指名承認プロセスを担当する上院外交委員会への移籍に言及したことだった。共和党の議員規則では、6年以上連続して同じ委員会の委員長や野党筆頭理事を務めることが禁じられているために、マケイン上院議員は軍事委員会から外交委員会への移籍に関心を示した。その判断は、現在、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務(ケンタッキー州)ら上院共和党指導部の判断に委ねられている。だが、マケイン氏が外交委員会へ移籍すれば、委員会で行なわれる公聴会でライス氏の長官指名に反対するのは必至だ。マケイン上院議員のこのような動きがオバマ大統領にライス国連大使の次期国務長官指名を見送らせ、ケリー上院議員を指名する1つの圧力となったことは間違いない。マケイン氏のこうした意思表明が行なわれた3日後の今月13日、ライス国連大使はオバマ大統領に対し、自身を次期国務長官の検討対象から除外するよう自ら申し出ている。次期国務長官指名承認プロセスに関与する共和党有力議員らはケリー上院議員の外交政策に関する見識を高く評価しており、指名承認プロセスは順調に推移するとの見方を相次いで示している。そのことはケリー氏が上院外交委員会委員長の要職を辞任することを意味する。

 マケイン氏とケリー氏はともにヴェトナム戦争従軍経験を共有しており、ケリー氏は2004年民主党大統領候補として副大統領候補にマケイン氏を検討していた経緯がある。また、第1期ジョージ・W.ブッシュ政権当時、マケイン氏は共和党を離党することをトム・ダッシュル民主党上院院内総務(サウスダコタ州)(当時)と真剣に協議していた。だが、現在、対ロシア外交やアフガニスタンからの米軍撤退問題、あるいは、シリア情勢を巡りオバマ外交を共和党から最も厳しく批判しているのはマケイン上院議員である。2人は2008年大統領選挙を2大政党のそれぞれの大統領候補として競ったが、あれから4年以上が経過した現在の2人の関係は「協力」よりも「対立」で定義されている。今回、マケイン上院議員がオバマ大統領の信頼の厚いライス国連大使の次期国務長官指名を事実上阻止したことで、オバマ大統領とマケイン上院議員との間には感情的しこりが残ったのではないだろうか。マケイン上院議員の上院外交委員会在籍を上院共和党指導部が認めた場合、マケイン氏は上院外交委員会を舞台にオバマ外交批判をさらに強めるのではないかと筆者は考えている。

 マケイン上院議員は2010年中間選挙で5選を果たしており、任期は2017年1月までである。2017年1月はオバマ大統領が2期8年の任期を終えてホワイトハウスを去る時期と重なる。2014年中間選挙では共和党現職13名が改選期を迎えるのに対し、民主党は現職20名が改選期を迎えることになっており、上院民主党は「守りの選挙」を強いられることになる。2014年中間選挙で民主党が多数党の立場を失った場合、上院外交委員会委員長のポストも共和党上院議員により握られることになる。マケイン上院議員が同委員会での年功序列を重視し、ボブ・コーカー上院議員(テネシー州)が上院外交委員会委員長に就任しても、マケイン上院議員の外交・安全保障問題に関する発言力はさらに増大することになろう。共和党支配の議会での制約から逃れるために外交面での業績を残そうとする第2期オバマ政権にとり、マケイン上院議員は目障りな存在となる可能性がある。

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足立正彦 Masahiko Adachi
住友総研シニアアナリスト

1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

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