『化城の人』は竹中労の著作からも盗作していた!~佐野眞一氏の「パクリ疑惑」に迫る(第11回)

表紙

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「ノンフィクション界の虚人」による奇妙な釈明文

12月20日発売の週刊ポスト(2013年1月1・11日号)に、佐野眞一氏による『決意の手記  ノンフィクション再論』が3ページにわたって掲載された。ガジェット通信特別取材班が連続して指摘してきた連載『化城の人』の盗作問題について弁明しつつ、たった1回で打ち切りになった週刊朝日の部落差別連載について、さらにはノンフィクションに対する今の思いについて綴っている。

佐野眞一氏「決意の手記  ノンフィクション再論」(週刊ポスト 2013年1月1・11日号)

どうやら佐野氏はノンフィクション界から引退するどころか、『化城の人』の連載を打ち切りにする気すらないらしい。以下、パクリ作家の弁明に耳を傾けよう。

《「化城の人」の読者と関係者の皆様にお詫びしなければならないことがある。「化城の人」を連載するにあたっては、多くの文献を参考にした。その参考文献を連載後、逐一列挙するつもりだったが、そのことを発表媒体の「週刊ポスト」誌上に予告するのを怠った。
 関係者の皆様にご迷惑をかけ、不快な思いにさせたことを心からお詫びしたい。
  特に『創価教育の源流  牧口常三郎』(潮出版社)と、『戸田城聖―創価学会』(新人物往来社)という著作からの無断引用ではないかという指摘について述べれば、これらの著作物を参考文献として利用したのは事実であり、そのことを明示しなかったのは、配慮が足りなかった。
 この点、両著作者と関係者に深く謝罪したい。
  本来ならば、問題を指摘された時点でお詫びすべきだった。大幅に遅れてしまったのは、弁解じみた言い方になるが、「週刊朝日」連載中止問題の対応に追われていたからである。》

《これらの著作物を参考文献として利用したのは事実であり》とは、あまりにも苦しい弁明だ。『化城の人』で2冊の著作から犯した盗作については、末尾に参考文献を列挙すれば済む問題ではない。ガジェット通信特別取材班による検証を見れば明らかだ。
https://getnews.jp/archives/267742 [リンク]
https://getnews.jp/archives/269969 [リンク]

佐野氏はさらに言い訳を繰り広げる。引用が少々長くなるが、以下おつきあい願いたい。

《私がこのような過ち【=他人の著作からの「無断引用」】を犯してしまったのは、ひとえにノンフィクションに取り組む初心を忘れてしまったからである。
  私はノンフィクションとは、目と耳と足で書く文藝だなどと言っておきながら、忙しさにかまけてすべての取材現場に足を運んだわけではなかった。他人の著作にも尊敬の念を払わなくなっていた。
 
また、一方の側の話だけを聞き、反対側の取材をせず、正確さを欠いた部分もあった。》

《家人から言われたことが、いまさらながら耳に痛い。
「あなたは知らないうちにどんな編集者よりも年上になってしまった。誰もあなたに文句を言える編集者がいなくなった。それをいつも自覚していないと、大変なことになる」》

《それにしても、この二年有余は生き急ぎすぎた。私は忙しさの代償に、二人三脚でやってきた担当編集者と取材後に酒を飲みながら反省する楽しみと余裕を失っていた。アームチェアノンフィクションをあれだけバカにしながら、愚かにも自分が座学の書き手となってしまった。
  死んだ編集者の分も取り返すと言いながら、実際には人生を粗末にしていた。その罰があたった。
  過ちは過ちとして反省しなければならない。だが、ここで筆を折るわけにはいかない。生意気なことを言えた義理か、といわれるかもしれないが、ここで屈しては言論の萎縮化傾向に手を貸したも同然である。

《こういう状況【=物言えば唇寒くなる状況】にあっては、現場を歩くことでしか書き得ない、つまりネットでは絶対に書き込むことができないオリジナルなノンフィクションがますます必要とされる。
  そういう作品こそいまという時代を鮮明に伝えているからである。だから、私は針の筵に座るのは承知で、調査報道の原点に立ち戻りたいのである。》

《ノンフィクションに取り組む初心を忘れ》た“ノンフィクション界の虚人”は、65歳にして《調査報道の原点》に立ち戻る決意のようである。

ガジェット通信特別取材班は、『化城の人』盗作問題を追及しながら「さすがに週刊ポスト編集部は連載を再開しないだろうな」と考えていた。ところが佐野氏の弁明を読む限り、筆者も編集部も、どうやら連載の第2部を再開させる意向のようだ。佐野氏の弁明をさらにご紹介しよう。

《私はいくら困難であろうとも、これまで書いてきた作品に通底するこのテーマ【=「貧困からの脱出」「創価学会」】を手放すわけにはいかない。今後取り組む仕事は、私を支えてきてくれた読者のためにも十分に精査し、万全の配慮を払う考えである。
  これからの仕事が、汚名返上と読者の信頼回復につながると思っている。私は、生まれ変わった気持ちでノンフィクションを書き続けるつもりである。

ボヤかした言い方ではあるが、『化城の人』第2部の連載再開宣言とも読み取れる。

佐野氏の弁明文の片隅に、週刊ポスト編集部名による小さな釈明文も載っている。

《小誌では、2012年1月6日号から6月8日号にわたり、佐野眞一氏による作品『化城の人』を連載しました。連載終了後、創価学会及び佐野氏が参考文献とした『創価教育の源流  牧口常三郎』の著作者より、佐野氏及び小誌の取材手法や、執筆内容に対する抗議書が寄せられました。創価学会に対しては、その都度回答してきましたが、愛読いただいた読者にも編集部の見解を伝える義務があると考えました。

 以下は編集部の見解です。
  創価学会並びに『創価教育の源流  牧口常三郎』の著作者からは著作物からの無断引用が指摘されました。佐野氏の見解は前述の通りですが、佐野氏の配慮不足を見逃した責任は編集部にあると考えています。》

聖教新聞社の写真を大量盗用していた週刊ポスト編集部

ガジェット通信特別取材班は、『化城の人』に使用されている写真についても素朴な疑問を抱いた。創価学会の牧口常三郎初代会長や戸田城聖第二代会長の古い写真、創価学会草創期の稀少な写真が大量使用されているにもかかわらず、提供元のクレジットが明記されていないからだ。

戸田城聖氏が丁稚奉公をやっている写真や家族のプライベートフォトを、創価学会や聖教新聞社以外が週刊ポストに貸し出しているとは思えない。佐野氏がテキストを大量盗用しているだけでなく、週刊ポストの編集者が創価学会や聖教新聞社の著作物から写真を大量盗用しているのではないか、と特別取材班は仮説を立てた。また、その疑惑を指摘するテキストも準備していた(いずれ発表することになろう)。以下、週刊ポストの説明をご紹介しよう。

《連載に使用した牧口常三郎初代会長、戸田城聖第二代会長の写真は、所収されていた写真集発行元の聖教新聞社に断らず無断掲載したものであり、その点配慮が足らなかったことを同会にお詫びしました。》

竹中労の著作から5か所のパクリを発見

今回の釈明文では『創価教育の源流 牧口常三郎』(潮出版社)、『戸田城聖―創価学会』(新人物往来社)からの「無断引用」(=盗作)だけしか触れられていない。『化城の人』における佐野眞一氏の盗作元は、果たしてこの2冊だけなのだろうか。

ガジェット通信特別取材班は、このたび3冊目の盗作元を発見した。“元祖ルポライター”竹中労が書いた創価学会評伝『聞書・庶民烈伝  牧口常三郎とその時代  冬の巻1』(潮出版社、1983年11月刊行)である。『創価教育の源流  牧口常三郎』に引き続き、またしても潮出版社が佐野眞一氏の盗作被害に遭ってしまった。

以下、タネ本と『化城の人』を比較検討していきたい。

竹中労からの盗作 その1

竹中本1-1 竹中本1-2

《〔風浪が荒れてくると、彼は船首に仁王立ちとなり、「荒浜の荘三郎の船だゾ」と大音声に叫んで、船夫たちを叱咤激励したと伝えられています〕(覚書)》(竹中労『聞書・庶民烈伝 牧口常三郎とその時代 冬の巻1』57〜58ページ)

化城の人1

《冬でも吹雪をついて松前(北海道)に出かけ、風浪が激しくなると、船首に仁王立ちになり、「荒浜の庄三郎の船だぞ」と大声をあげて、船夫たちを叱咤したという。》(佐野眞一「化城の人」第2回/「週刊ポスト」2012年1月20日号、147ページ)

竹中労からの盗作 その2

竹中本2

《〔牧口荘三郎(しょうざぶろう)の稲荷丸(北前船)は、冬でも風雪をおかして北海道・松前へ出かけるので、人呼んで「牧口の氷破(ザイワリ)船」と言いました〕》(竹中労『聞書・庶民烈伝 牧口常三郎とその時代 冬の巻1』57ページ)

化城の人2

《氷の張った凍てつく海をものともしない航海をするところから、庄三郎の船は人呼んで「牧口の氷破(ざいわり)船」と言われたという。》(佐野眞一「化城の人」第2回/「週刊ポスト」2012年1月20日号、147ページ)

竹中労からの盗作 その3

竹中本3

《三代は荘三郎を名乗らず、多額納税の貴族院議員として、栄耀(えよう)栄華の限りを尽した。》(竹中労『聞書・庶民烈伝 牧口常三郎とその時代 冬の巻1』58ページ)

化城の人3

《三代目庄三郎は多額納税の貴族院議員として栄耀栄華を極めた。》(佐野眞一「化城の人」第2回/「週刊ポスト」2012年1月20日号、147ページ)

竹中労からの盗作 その4

竹中本4

《越後鉄道開通のさい、義矩(よしのり)は、十キロ余も離れた村はずれのおのれの地所に駅を誘致し、「牧口財閥」は他人の土を三里踏まないで汽車に乗れる」と称した。》(竹中労『聞書・庶民烈伝 牧口常三郎とその時代 冬の巻1』59ページ)

化城の人4

《天狗のあだ名があったのは、越後鉄道開通の際、自分の土地まで駅を誘致し、他人の土を踏まないで汽車に乗れると豪語したためといわれる。》(佐野眞一「化城の人」第2回/「週刊ポスト」2012年1月20日号、147ページ)

竹中労からの盗作 その5

竹中本5

《南無妙法蓮華経の大題目を彫った三丈余りの墓を建てて(!)》(竹中労『聞書・庶民烈伝 牧口常三郎とその時代 冬の巻1』59ページ)

化城の人5

《贅沢の限りを尽くした“大牧口”三代目の庄三郎は、南無妙法蓮華経の御題目を彫った三丈あまり(約九メートル)もある巨大な墓を建てた。》(佐野眞一「化城の人」第2回/「週刊ポスト」2012年1月20日号、148ページ)

“元祖ルポライター”竹中労は、“ノンフィクション界の虚人”の果てしないパクリ癖について草葉の陰から嘆いていることだろう。3冊目のパクリ(著作権侵害)があるということは、ひょっとして4冊目、5冊目……のパクリもあるのではないかと邪推してしまう。

ガジェット通信特別取材班は、これまで大量のテキスト読みこみに専念してきた。このほど作家・赤瀬川原平氏の著作からの盗作を発見し、近いうちに公開することを予告しておく。

我々特別取材班は、そろそろ「短期集中連載  第1部  書斎篇」に一区切りをつけようと思う。これより本連載は「第2部 人物篇」に移行する。

(2012年12月20日脱稿/連載第12回へ続く)

追記

ガジェット通信特別取材班は12月22日、佐野眞一氏と週刊ポスト編集長並びに担当編集者宛にインタビュー取材を申し入れた。

さらに現在佐野氏の連載を掲載している「サンデー毎日」、月刊「ちくま」編集部、佐野氏が選考委員を務める開高健ノンフィクション賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞事務局宛に公開質問状を送付している。

ノンフィクション作家、大学教授、弁護士など有識者へのインタビュー依頼も進めており、年明けから順次取材結果を公開予定である。

情報提供をお待ちしています。
佐野氏の盗用・剽窃疑惑について、新情報があればぜひご提供くださいませ。メールの宛先は[email protected]です。

(ガジェット通信特別取材班)

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