『千日の瑠璃』413日目——私は岐路だ。(丸山健二小説連載)

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私は岐路だ。

開発か保護かという二者択一を迫られたまほろ町が立つ、かつてないほど重大な岐路だ。ところが、事情を調べずに臆断を下す癖がつき、欲望に忠実な答を選びたがる大半の住民は、その問題の根の深さをほとんど理解していなかった。反対を唱える者たちですら、多数意見に敗れたときに出される悲惨な答について、通りいっぺんの認識しかなかった。

反対者は反対運動に参加することのみで満足してしまい、良識の側へ身を置いたと錯覚し、それ以上の結果を本気では求めなかった。かれらは怒りの振りをすることで、もしくは、非日常的な、反権力的な刺戟に浸ることで自足しており、どこまでも曲直を明らかにするという信念と覚悟に欠けていた。かれらを何よりも充実させているのは、それがこの節流行の、如何にも今風の市民運動だということだった。そしてリゾート開発推進派の人々は山積する数々の問題も早晩解決するだろうと高をくくり、気楽に構えていた。また、官辺筋からの情報だけを相手にして冷静な判断を下そうと、私の上で立ちどまっている人々にしても、莫大な資金の流入がもたらす影響の大きさについては測り兼ねていた。

こうしたうまい話を待っていたのだと広言して憚らない町長は、まめで調法な部下に言った。「おまえが一番儲かるぞ」と。丸ごと買いあげてもらえる丘を所有しているその職員は、「あっはっはっ」と笑って私を足蹴にした。
(11・17・金)

丸山健二×ガジェット通信

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