新しい生活様式は睡眠不足を招く!?眠りのプロに聞く快眠スペースのつくり方
在宅勤務で通勤の負担は減ったけれど、何だか夜ぐっすり眠れない……。そんな人が増えている。
新しい生活様式には慣れても、睡眠環境が整っていなければ、知らぬ間にストレスを溜め込んでしまっているのかもしれない。一体どうすれば快適な睡眠を取り戻せるのだろうか?今回はこれまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきた快眠セラピストの三橋美穂さんに、快眠スペースのつくり方や睡眠の質を上げる方法を伺った。
自覚のない睡眠不足はこんなサインに気をつけて
最近何だか眠りが浅い気がするのは、気のせいではなさそうだ。
過去の調査では、災害に遭った人には睡眠の問題が生じやすいと言われている。1995年の阪神淡路大震災では被災地住民の60%、1999年の台湾地震では69.1%に不眠症状がみられた(※1)。
今回の新型コロナも例外とは言えそうにない。実際に、メンタルヘルスの悪化を示唆するSNS投稿が1月から4月にかけて80倍以上に急増したとの調査結果が出ており(※2)、在宅勤務へ移行したことによって睡眠時間は伸びたものの、睡眠の質は全体的に下がったことが明らかになっている(※3)。
新型コロナウイルスが睡眠に与えた変化(株式会社ブレインスリープ調べ)
コロナ禍による生活スタイルの変化が睡眠に及ぼす悪影響を、快眠セラピストの三橋さんは次のように指摘する。
「在宅勤務になると、就寝・起床時刻や食事の時間が日によってまちまちになったり、朝日を浴びないまま仕事を始めてしまったりする人は多いのではないでしょうか。夕方以降のうたた寝で夜眠れなくなり、深夜まで仕事をしてしまっている人もいるかもしれません。こうした生活を続けると、体内のリズムが乱れ、睡眠の質が落ちてしまいます」
在宅勤務をしたことのある方なら、一つは思い当たる節があるのではないだろうか?
「毎日6時間は寝ているので、睡眠不足の自覚はない」という方もいるかもしれないが、三橋さんによると、個人差はあるものの大人に必要な睡眠時間は7~8時間。睡眠不足のサインは日常のあらゆる場面に現れているらしい。
「睡眠不足になると、感情のコントロールが上手にできなくなると言われています。例えば、ちょっとしたことでイライラしたり、逆に落ち込みやすくなってしまうことも。睡眠不足のカップルは喧嘩しやすいという報告もされています。最近子どもやパートナーに当たってしまうことが増えたと感じたら、すぐに睡眠を見直しましょう」
十分な睡眠が取れない日が続くと、自律神経が乱れ、身体機能を正常に維持できなくなる。感情だけでなく、食欲もコントロールできなくなり、つい食べ過ぎてしまうことも。高血圧や低血圧にもなりやすく、糖尿病やがん、うつ、脳卒中のリスクも高まるという。
決して軽く見ることのできない睡眠不足。一体どうすれば、私たちはぐっすり眠れる日々を取り戻せるのだろうか?
快眠スペースをつくる5つの条件
(写真/PEXELS)
三橋さんによると、自宅で快眠スペースをつくるために大切なのは「明るさ」「温度」「湿度」「音」「寝具」の5つの要素だという。順番に解説してもらった。
1.明るさ
「部屋の明るさは0.3ルクス以下にして寝ることが推奨されています。これは暗闇に近い状態。豆電球は明るすぎるので、寝るときは全て消灯するようにしましょう」
部屋を真っ暗にすると怖くて眠れない人はどうすれば良いのだろう?
「フットライトを使うようにしてください。目に直接当たらないところからほのかに照らす程度であれば、豆電球よりは光の刺激を抑えられます」
2.温度
「冬は18度以上、夏は28度以下がよく眠れる温度です。外気温と温度差がありすぎると体の負担になるので、夏は26~8度ぐらいの間でエアコンを設定するようにしてください。ただ、寝具や服、体質によって、適切な設定温度は変わります。いろいろ試しながら、自分がぐっすり眠れる温度を見つけてみてください」
3.湿度
「湿度の基準は季節問わず40~60%です。夏は湿度が高くなりますが、冷房をつければ下がります。現代の夏はエアコンなしには眠れない日も多いと思います。暑さで寝苦しくて途中で目が覚めてしまう方は、エアコンは朝までしっかりつけておくようにしましょう」
4.音
真っ暗な部屋のほうがよく眠れるように、無音の部屋のほうが熟睡できる、というわけではないらしい。
「無音状態だと不安な気持ちになって、かえって眠れなくなってしまいます。ただ普通、無音状態はつくれませんから、こだわりすぎる必要はありません。静かな図書館ぐらいの静けさが目安です。もし、エアコンや冷蔵庫の音などが気になって眠れないようであれば、耳栓を使うのがお勧めです。耳に入る雑音のレベルが下がるだけで、こんなにぐっすり眠れるんだってびっくりすると思いますよ」
耳栓で何も聞こえなくなると、朝の目覚ましも聞こえなくなってしまうのでは?
「耳栓をしても完全に無音になるわけではありませんから、目覚ましの音はちゃんと聞こえます。不安な方は休日に一度試してみてくださいね」
5.寝具
「ベッドは一人一台がベストです。相手がいることによって寝返りが制限されると、睡眠が浅くなってしまうので。それでもパートナーや子どもと一緒に寝たい人は、ベッドを組み合わせれば、将来の生活の変化にも対応できますよ。ベッドを置く位置は、部屋の入り口から遠いところに頭が来るように配置するようにしましょう。ドアに近いところに頭があると、人が入って来るかもしれないと不安になり、眠りが浅くなってしまいます」
子ども部屋、カップル、一人暮らし……生活スタイル別の快眠のコツは?
(写真/PEXELS)
1.子ども部屋
「子どもが朝なかなか起きないと悩みを抱える親御さんは多いと思います。子どもの寝起きを良くするためにおすすめなのは、子ども部屋のカーテンを少しだけ開けておくこと。朝になると日光が入ってくるので、目覚めやすくなりますよ」
部屋の向きによって入ってくる光の量が異なるため、「起きにくい部屋」と「起きやすい部屋」が存在するという。
「西向きの部屋は日光が少ないので、一般的に起きにくい部屋です。その場合は、カーテンを半分ぐらい開けて寝るといいですね。難しい場合は、起床時刻の30分前ぐらいから徐々に明るくなる照明を利用してみるのもお勧めです」
子どもの睡眠の質を高めるためには、「朝だけでなく夜の照明にも気をつけた方がいい」とのアドバイスも。
「子どもの目の水晶体はクリアなので、大人よりも光の影響を受けやすいんです。そのため遅い時間まで強い昼白灯の中にいると、なかなか眠くなりません。夜は暖色系の明かりに切り替えて生活するようにしましょう。今は昼白色と電球色を簡単に切り替えられる照明も多いので、特にお子さんがいる家庭では積極的に利用してみてください」
2.カップル
暑がりさんと寒がりさんが一緒に寝る場合、どちらかが寝苦しい思いをしてしまいがちだ。エアコンのリモコンの奪い合いは日常茶飯事……なんてカップルもいるかもしれない。
「そういう方は多いんですよ(笑)。その場合は、暑がりさんにエアコンの設定温度を合わせて、寒がりさんは寝具か衣服で調節してみてください。もし、寒がりさんが夏だからといってTシャツ短パンで寝ているのなら、それを長袖長ズボンに変えてみるんです。ちゃんと体の周りが覆われていれば寝冷えしませんし、薄着のときより朝起きたときによく眠れた実感があると思いますよ」
3.一人暮らし
寝室には何も置かない方がいいと言われている。ものが目に入ると気になってしまい、熟睡の妨げになるからだ。ただ、ワンルームで一人暮らしをしている人などは、視界からものを排除するのはなかなか難しい。雑然としたスペースで眠らざるを得ない場合、何かできることはあるのだろうか?
「最低限、ベッドの上には何も置かないようにしてください。携帯が枕元にあると、どうしても睡眠に集中することができません」
「たとえスマホが視界に入っていなかったとしても、近くにあるとどうしても見たくなってしまうんですよね。私のおすすめは、目覚ましをかけたスマホをできるだけ遠くに置いて寝ることです。熟睡できる上に、朝もスマホを取りに行くついでに起きられて、一石二鳥です」
たっぷり眠ると時間に余裕が生まれるワケ
(写真/PEXELS)
忙しい人の中には、「たっぷり寝たいけれど、どうしてもそんな時間が取れない。多少我慢して睡眠時間を削るしかない」と考えている人もいるかもしれない。しかし実際は、「たくさん寝た方が昼間の活動効率は上がる」と三橋さんは言う。
「しっかり眠ると、体感の活動時間は伸びるんです。6時間しか寝ていないことによって日中のパフォーマンスを80%に落としているとしたら実質活動時間は14.4時間、8時間寝て残りの時間を100%活動したら実質活動時間は16時間です。たっぷり睡眠をとると時間に余裕を感じるのは、気のせいではなく本当なんですよ」
眠い目を擦って夜中まで働いても、しっかり寝て短時間働く方がパフォーマンスが上がるのなら、睡眠時間を削ってまで頑張る必要はもはやないだろう。
最後に、すでに体内時計が乱れていてなかなか眠れなくなってしまっている人のために、今日から実践できる入眠法を三橋さんに教えてもらった。
「『4 – 7 – 8呼吸法』を試してみてください。完全に息を吐ききったら、4カウントで鼻から吸って、7カウント息を止め、8カウントで口から吐く。寝るときにお布団の中で、これを4~10回繰り返すだけです。寝初めに呼吸が深くなると寝つきが良くなるだけでなく、睡眠中の呼吸も深まって疲れが取れやすくなります。最近中学生たちにこの方法を教えたのですが、『普段なかなか眠れなかったけど、この呼吸法をやっただけですごくよく眠れた』と好評でした。もちろん大人にも効果はあるので、ぜひ試してみてください」
それでも眠れないときは、一度ベッドから出て、また眠くなるのを待つのが良いという。
「眠れないときはベッドから出て、単調な作業をするようにしましょう。暖色系の明かりを暗めにつけてアイロンがけをしたり、読書をするのもいいですね。それも簡単なものではなく、難しい本がいいです。興味はあるけれども、なかなか読み進められないような本を開くと、あっさり眠りにつけると思いますよ」
今は先の見えない生活にストレスを抱えている人も多いはず。睡眠環境を見直すだけで、体の問題も心の問題も解決に向かうなら、今日から実践しない手はなさそうだ。
●取材協力・快眠セラピスト 三橋美穂(みはし・みほ)
快眠セラピスト・睡眠環境プランナー
寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきており、とくに枕は頭を触っただけで、どんな枕が合うのかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。主な著書に『眠トレ!ぐっすり眠ってすっきり目覚める66の新習慣』(三笠書房)ほか多数。https://sleepeace.com/
『眠トレ! ―ぐっすり眠ってすっきり目覚める66の新習慣』(三笠書房)
睡眠を正しく理解し、その効果を最大限にする睡眠トレーニングメソッド「眠トレ」。「睡眠の質を高める」「戦略的に眠る」「眠りの悩みを解決する」といったテーマ別に、66のメソッドを紹介する。
参考:
※1,※2 三島和夫「睡眠の都市伝説を斬る 第114回 新型コロナがむしばむ睡眠やメンタルヘルスの深刻度」Webナショジオ,2020年5月14日
※3 参考:「~新型コロナウイルスの影響による働き方の変更に伴う実態を調査~ 睡眠専門医西野精治から免疫力アップのアドバイスをYouTubeチャンネルにて独占取材」株式会社ブレインスリープ, 2020年4月27日
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