テレワークしやすいのはどんな書斎?ウィズコロナ時代の快適なワークスペースのつくり方
衛生意識の高まり、巣ごもり生活の長期化、テレワークの普及など、新型コロナウイルスが住環境に与えた影響は大きい。そこで今回は、注文住宅からリノベーションまで幅広く手掛けるLOHAS studio(株式会社OKUTA)チーフインテリアデザイナーの小山祐理子さんと、オフィス家具メーカー・株式会社オカムラ ワークデザイン研究所第二リサーチセンター所長の上西基弘さん、それぞれ家づくりとオフィスづくりのプロに、これからの時代に合う快適なワークスペースづくりのヒントを教えてもらった。
コロナ後、リノベーションで人気なのはワークスペース
緊急事態宣言が解除されても、「新しい生活様式」として根付いたマスクの着用や手洗い・うがいの徹底、そして在宅ワーク。新型コロナウイルス感染が広がる前後でのお客さんからの問い合わせ内容の変化について、LOHAS studioの小山さんに尋ねたところ、家に求めるものが変わったのを実感しているという。
お客さんからの要望で、一番多いというのが書斎・ワークスペースだ。テレワークを推奨する企業が増え、在宅勤務の比率が高まったことで、急速にニーズが高まっている。新型コロナウイルスが流行する前は、リビングの一角にワークスペースを設けることが多かったが、オンライン会議の機会が増えたため、音の問題から個室が注目されるように。
「“リビングを広く、個室を狭く”という、間取りのトレンドは変わらないと思います。ただ個室のひとつを書斎として使う場合も想定して、今後は個室の数を必要とする人が増えていくのではないでしょうか」(小山さん)
リビングの一角(写真左奥)に設けたワークスペースは開放感があり、家族みんなで利用しやすい(画像提供/LOHAS studio)
オンライン会議が主流になり、ワークスペースも“見せ方”がポイントに
書斎・ワークスペース自体に求められる機能にも変化があるという。パソコンで作業するスペースや書庫などの従来の機能に加え、オンライン会議を行うにあたって、音漏れしない個室であること。そして背景と明かりが重視されるようになった。
壁は一面を板張りやアクセントクロスにすることで、カメラ写りの見栄えを良く。もしくはバーチャル背景にしやすいプレーンな壁にしたり、ロールスクリーンを設置したりと、お客さんの好みに合わせて提案しているという。明かりも、作業面というよりもオンライン会議などで映る際のことを重視。光の入り方や照明位置で相手からの見え方が大きく異なるからだ。
デスクの背面は扉だが、PCの角度を調整すれば左一面の白い壁を背景として利用できる(画像提供/LOHAS studio)
現在、自宅でオンラインセミナーを行っている小山さん。自宅のフリースペースをアレンジし、セミナー用に家具レイアウトを変えたそうだ。「試行錯誤を重ねた結果、南から光の入る窓に向かってデスクを配置すると、人への光の当たり方がよく、おすすめです。また、背景が壁である方が逆光にならず余計な物が写り込みません」(小山さん)
自宅に書斎やフリースペースがない場合は、日中は使用しない寝室の一角を利用するといいそう。壁を背後にしてデスクを置くと、音と見せ方に配慮された簡易的な書斎に。互いに音を気にしなくていいようになり、家族みんなが快適に過ごすことができるだろう。
LDKと引き戸(右手前)で区切られた個室の書斎。引き戸を開けると家族とのつながりを感じられ、テレビ会議などの際には扉を閉めて音対策ができて便利と好評だそう(画像提供/LOHAS studio)
家に点在するリラックス要素が集中につながる
続いては、株式会社オカムラのワークデザイン研究所が行った調査を基に、快適なワークプレイスづくりのヒントを探っていこう。
「オフィスを前提としたデータではありますが、集中作業を始めようとするときに好ましい環境について調査しました。その結果、図書館のように静かで周りの人も集中作業をしていて、自習コーナーのようにほどよくパネルに囲まれている環境を好むと回答した人の割合が高かったです」と上西さん。ただ、こちらはひとつの側面で、カフェのようにある程度音があったり、囲いがない方がよかったりと、集中に入りやすい環境は、好みが分かれるという。
また、集中作業に入る際の促進要因として「靴が脱げる環境」を挙げた人が一番多く、「窓から見える外の景色」が続く。お気に入りのBGMが流れていることや、飲食ができることもポイントとして多く挙げられ、「集中のしやすさを尋ねた結果だが、リラックスできる環境とつながっている」と上西さんは分析。これら集中作業に入る際の促進要素が自宅にはある。
集中作業に関する調査の結果(出典/「オフィスと人のよい関係」岡村製作所(株式会社オカムラ)、日経BP社、2007年)
自宅に書斎・ワークスペースをつくる際は、窓があり、光の変化を感じられる環境だと集中につながるという。照度や室温などは、厚生労働省がまとめた「自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備のポイント」も参考になると教えてくれた。
「ABW」を家にも応用すると仕事の効率アップに
自宅に書斎・ワークスペースがなく、リビングなどで仕事をする人が半数という調査もある。そこで、「オフィスづくりで注目されている“ABW”を自宅に取り入れるのも解決策です」と上西さん。
「ABW」はActivity Based Workingの略で、これから行う作業内容に合わせて場所を選択する働き方。希望した好みの場所を選ぶことでモチベーションが上がり、集中して効率的な仕事につながるという。
「ダイニングテーブルや机など1カ所にとどまらず、作業や気分に合わせて、窓際やソファなどに移動しながら働くと、オフィスと同様に有効だと思います。在宅ワークの問題として音が挙げられますが、その対処法として、生活音や同空間にいる人から離れることができる場所を予め探しておくと、オンライン会議や電話の際にも不便がないでしょう」(上西さん)
集中作業に入る際の促進要因があり、空間のにぎわいから離れるため、オフィスづくりの際は窓面に集中するためのスペースを設計することが多いそう。自宅という限られた空間でも、窓の近くにも机を置くなど作業できる環境を整えると、選択肢が広がりそうだ。仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶABW。自宅でも取り入れてみると、より一層効率的に仕事ができるかもしれない。
仕事とプライベートのものを分けてON・OFFの切り替えに
在宅ワークでは、ONとOFFの切り替えが難しいという調査結果が出ている。仕事とプライベートとのON・OFFだけでなく、仕事中のON・OFFも大切になる。会社ではコピーのために歩いたり、周りから話しかけられたりして、作業を一旦中断できるが自宅ではそのきっかけが少ない。
「アラームやタイマーを使って、仕事の合間に軽く体を動かすアクティブレストの時間を設けたり、30分~1時間に一度立つなど姿勢を変えたりするといいですよ。テレビやラジオで放送されている体操を日課にしている方もいらっしゃいますね」と上西さん。
上西さんに在宅ワークで工夫した点を尋ねたところ、仕事の荷物を片付ける場所をつくったという。「仕事のものとプライベートのものを分けることでON・OFFの切り替えになります。仕事のものを仕舞えるワゴンや棚を設けるのがおすすめです」(上西さん)
カバンや筆記用具をまとめられ持ち運びに便利なオープンワゴン「Lives Wagon ライブス ワゴン」(画像提供/株式会社オカムラ)
さらに在宅ワークでの問題として、ダイニングチェアなど長時間座るのに不向きな椅子で作業するため、腰を痛めている人も多いと耳にする。その解決策を伺ったところ、座面の高さや背もたれの角度を調節できるなど、人間工学に配慮した椅子を選ぶとともに、好ましい着座姿勢を意識することが大切だという。
「パソコン作業中は前傾姿勢になりがちです。座ったときに後頭部と背中、骨盤、かかとが、壁に接するように立ったときと同じようなS字形カーブを保ち、足の裏が床に着いて、膝下が床と垂直になっている姿勢が好ましいので、椅子には深く座り、足置きを置くなどして姿勢を調整するといいでしょう」と上西さん。クッションで椅子の座面の高さや腰まわりのサポートをする、パソコン画面が見やすいように高さや角度を台などによって調整する、姿勢が崩れてきたと感じたら一度立ち上がって座りなおしたりするのも有効だという。
働く環境をそれぞれの機能性・嗜好性に合わせてパーソナライズすることが、仕事の効率性やモチベーションを上げるために有効だという研究結果もあるそう。資料を広げる際には大きなテーブルを使ったり、手が届く範囲にスツールなどを置いたりと、家具やアイテムを取り入れて、作業しやすいように空間をパーソナライズしてみよう。
天板の高さを変えられ、立ち姿勢でもデスクワークが可能になる「VICINOヴィチーノ」(画像提供/株式会社オカムラ)
テレワークの普及から、これから新築やリノベーションをするのであれば、書斎・ワークスペースを設けることが欠かせなくなりそうだ。現在の自宅内でも機能を切り分けて、机の向きを変えたり、ツールを使ったりすれば仕事をしやすい環境になる。本記事を参考に、自分が集中しやすいよう空間をアレンジしてみてはいかがだろうか。
●取材協力
・株式会社オカムラ 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/07/174064_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
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