「SHISEIDO THE GINZA」店長・吉田聖子さんにインタビュー「美容全体が女の人にとっての大切なツール」
「知らない自分に会える場所」をテーマに、化粧品の買い物ができるだけでなく、各種美容サービスが受けられたり、美容のプロフェッショナルに相談が出来る総合美容施設「SHISEIDO THE GINZA」。昨年5月のオープン以来、美の発信基地として多くの女性が訪れており、以前「otajo」でも体験レポートを紹介しました。
自己流スキンケア&メイクは卒業 美の発信基地「SHISEIDO THE GINZA」体験レポート!キレイになれるヒントが盛りだくさん
http://otajo.jp/p/6193
SHISEIDO THE GINZAの店長を務めるのが吉田聖子(しょうこ)さん。SHISEIDO THE GINZAのコンテンツ企画からスタッフの指導、時には自身も店舗に立ちお客様とのコミュニケーションをとりながら、日々女性が美しくなる為の場所作りを行っています。
実は、吉田さんはSHISEIDO THE GINZAの店長を務める前の職業は、「マジョリカ マジョルカ」「マキアージュ」「ピエヌ」「HAKU」などの宣伝制作に携わっていたコピーライター。私たちが普段目にする化粧品のポスターやCMなどを手がける仕事から、実店舗の店長への転身と、異例の経歴の持ち主なのです。今回は吉田さんに資生堂入社のきっかけから、コピーライター時代の思い出、SHISEIDO THE GINZAオープンまでの苦労話など、様々なお話を伺ってきました。皆さんが大好きな、あのブランドの誕生秘話など、女性必読です!
“好きなことの棚おろし”をして資生堂へ
――まず、資生堂入社のきっかけなのですが、もともと化粧品業界に興味があったのですか?
吉田聖子さん(以下、吉田):私が就職活動をしていた頃は、バブルが終わる頃で就職出来るのが当たり前の時代だったんですね。就職する以外の選択肢ってみんな考えてなくて、私ももちろん就職するつもりでいて。でも、3月まで学生でずっと自分の好きなことをしていたのに、4月になったらいきなり朝9時から夕方17時まで、ビシっとなる生活を想像して、恐ろしくなって。その時に、好きなことにだったら時間を費やせるなと思って“好きなことの棚おろし”をしたんです。
まず、字を読むのが大好きだったので、出版社や編集者にも憧れて、飛行機に乗るのが好きだったから飛行機に乗っていられる仕事も良いなと思ったし。化粧品や下着など女性らしい物たちも好きで。美しくて楽しくて自分に関係あるものが良いなと思ったんですね。特に化粧品はお店を巡って新商品を見たり、店員さんにお話を聞いたり、リーフレットを見るのも好きだったので。
――それで資生堂の入社を目指されたわけですね。
吉田:資生堂は、良家の子女じゃないと入れないんじゃないかという勝手なイメージがあって(笑)。とても私が入れる会社では無いなと思っていたから、受けるかどうか迷っていたのですが、OB訪問をした時にコピーライターの仕事を1名だけ募集している事を聞いて、面白そうだなと思いチャレンジしたんです。
入社試験は人生で一番集中していたので今でもよく覚えているんですが、当時ディベートという物が流行していて。こちらも当時流行していた「おやじギャル」という言葉について、YESの立場とNOの立場両方から作文を書いて、一人でディベートしなさいという問題だったんです。試験自体もとても面白かったですね。
――コピーライターという職業は憧れている人も多く、とても格好良いイメージがありますよね。就くことに対し緊張はありましたか?
吉田:コピーライターという仕事に対して何も知らないで入社したので、プレッシャーを感じるベースが無かったんですね。もともと目指していたり、憧れていたらとても緊張したと思うのですが。だからこそ、入ってからはすごく大変だったんです。何も知らない、書き方も分からない、何を言われてるのか分からないという状態で、毎日泣いて暮らしてました。「とんでもないことになっちゃったな」って。
――仕事が楽しくなりはじめるまでは結構時間がかかったのでしょうか?
吉田:そうですね、20代は暗黒でした。周りにもきっと「なんで何も知らない子が入っちゃったんだろう」と思われていたでしょうし。もちろん、辛い時期にも楽しいことや達成感を感じる瞬間はありましたが、本当に「私この仕事やれてるな」って思ったのは35歳くらいですね。
――新人時代に勉強の為に読んだ本などはありますか?
吉田:コピーライターの為の教本といった類の本はほとんど読まなかったですね。ただ、資生堂の本はたくさん読みました。“資生堂っぽい”っていうことを勉強するために。あとは人に叱られて、面白いとか面白くないとか言われながら、ひたすら実践で学んでいきました。
――そんな苦労の連続の日々の中、自分のコピーがはじめて世に出た時はとても感動的だったのではないでしょうか?
吉田:今も展開中の「ばら園」というブランドの中に、幻の青いばらをイメージした「ブルーローズ」というシリーズが昔あって、オーデコロンやルームフレグランスを販売していたんですね。そのシリーズの発売日に、新聞のラテ欄に「今日ばら園に新しいばらが咲きました」という広告が掲載されたのが、私の初めて世に出たコピーです。今でも絶対に忘れられない仕事ですね。
“別人格”をストックしてコピーを作る
――18年間の宣伝制作の仕事の中で、自分の中での一貫したテーマや、仕事のポリシーなどはありますか?
吉田:もちろん商品によって伝えたいメッセージは変わってきますが、“別人格を持つ”ということには気をつけていたかもしれません。例えば、「マジョリカ マジョルカ」立ち上げの担当だった時に、あのおとぎ話の様な、デコラティブな世界観は自分の好きなファッションであったり趣味には無いものだけど、「子供の頃、お母さんの化粧品に触れてドキドキした」といった体験をひっぱりだしてきたり。
「私」とか「自分」にしちゃうと恥ずかしくて出来ないことも、「自分じゃない人が考えてるんだから」と思うと出来たり。だから、自分の中に色々な人格をストックしておく、というのはありましたね。
――私もとてもよく覚えているのですが「マジョリカ マジョルカ」の登場はとてもセンセーショナルで。この凝った可愛いデザインでこの価格!? というのが驚きだでした。
吉田:携わっているスタッフに「低価格な商品だからって絶対妥協しない!」と、とことんこだわってしつこい人がたくさんいたのが良かったですね。当時の「マジョリカ マジョルカ」のコンセプトは“嫌われない”じゃなくて“好きにさせる”というもので、誰かに嫌われてもいいから、この世界観を好きな人にむけて作ろうと思って作っていまいた。大勢の人に嫌われない様に無難にするんじゃなくて、デコデコのままで突っ走った結果、お客様に「こういう世界観って良いよね!「キャー可愛い!」と喜んでもらえたのだと思います。
「マジョリカ マジョルカ」は誕生から、来年10年にります。その間に何十人もスタッフが代わっていて、デザインや雰囲気も少しずつ変わっているんですけど、変わっているように見えないというか、誰がやってもああなっちゃうっていう呪いがかかってるんです(笑)。
デコラティブでおとぎ話から飛び出てきた様なデザインが大人気の「マジョリカ マジョルカ」。(「SHISEIDO THE GINZA」ににあるブランドの世界観が凝縮されたガレリア)
――「マジョリカ マジョルカ」以外にも、「マキアージュ」「HAKU」など色々な商品に携わっていて、例えば「ピエヌ」の「ボインな口づけ。」「流し目プレイ☆」などはコピーを聞いただけで、TVCMやポスターが思い浮かぶほど印象的な言葉だと思います。インスピレーションの源はどこにあるのでしょう?
吉田:コピーは自分からあふれでてくる芸術作品ではないので、情報をたくさんインプットして、そこから整理して考えていく作り方が私は好きです。その商品の資料をちゃんと読む。その情報の質と量で、自分自身が「ええっ!」って驚けるかどうかが大切ですね。私が驚いたことが、お客様が驚くことに通じていると思うので。そして驚いたことやひらめいたことを言葉にして、デザイナーさんなど他のスタッフとたくさんディスカッションをします。
自分の書いたものが、デザイナーさんによって字体や大きさとかイメージが変わるのがすごく好きなんです。「イメージと全然違う!」と思うこともあるんですけど、それでいいんですよね。もう自分の手を離れてるから。映画の原作者みたいな気持ちかもしれないですね。
分からないことが多いほうがドキドキする
――そうしてコピーライターとして活躍されている中、2009年に末川社長(当時:経営企画部長)のスピーチがきっかけで経営企画部に異動されたそうですが、どんなスピーチだったのでしょうか。
吉田:当時私は30代後半でクリエイティブ・ディレクターをしていて、仕事もとてもやりやすくなっていた頃でした。その時に聞いた末川のスピーチの中に何十年も前の資生堂の企業広告の文章が引用されてたんです。「資生堂は流行を作る会社なので、不景気な時ほど頑張っていく所存であります」(※)といったとても堅い言葉だったんですが、その通りだなと強く感じて。スピーチへの感想をメールしたんですね。
そうしたら、なぜか「宣伝部の吉田が経営企画部に行くって手を挙げた」って話になっちゃって。今でも末川に「あの時手挙げてくれたんだよな」って言われるんですけど、本当は違うのになーって思っています(笑)。
でも、「私仕事やれてるな」って思う時間が長く続くよりは、分からないことが多いほうがドキドキして楽しいと思ったので、やってみることにしたんです。
(※)1920年に新聞に掲載された企業広告の一文「不景気のために、今年は流行品ができないということであります。しかし、私たちはいま不景気を考えるより、流行を考えねばならぬ立場にあります」を指す。
――そして実際に異動されたわけですが、その頃はSHISEIDO THE GINZAの構想についても知らないままだったのですよね?
吉田:席の引越しだけはとりあえず終えたものの、何の仕事をすればいいのか全く分からなくて。「銀座のビルの建て替えをするんだよ」って言われても何が何だか分からなかったですね。一番最初にした仕事は、銀座中のエレベーターの速度を調べるという作業(笑)。このエレベーターはスピードが遅いとか速いとか、定員は何名かとか地道に調べて。
――SHISEIDO THE GINZAのコンセプトワークやデザイン面などに限らず、そういった作業まで、本当にゼロからの着手だったんですね!
吉田:広告も商品が出来ていないうちからコピーを考えたりCMを作ったりするから、店舗作りもそれと一緒って思い込もうとしてたけど、広告作りよりもやることは何百倍もあって。床材を選んだり、水道の蛇口はここにおいて、照明はこれにして、とか。そういったお客様と直接関わりの無い裏側の部分も、大勢で会議して決めて、2年間みっちりやっていました。分からないことだらけなので、都度メモするノートも20冊もたまって。
――だんだん店舗が完成に近づくと実感と喜びが沸いてきたのではないですか?
吉田:それが恐かったんですよ。本当にビルが出来ちゃうっていうのが恐くて。ちゃんと間に合うのかなとか、トラブルが起きたらどうしようとか、まだ会ったことがないスタッフと一緒に、これからちゃんとしたお店を作り上げていかないとなって。昨年5月に無事オープンできて、まだまだやらなくてはいけない事はたくさんありますが、日々勉強しながらやっています。
吉田さんがエレベーターの速度検証(!)から携わったSHISEIDO THE GINZA。
「元気出したいな」っていう時にフラっと来て欲しい
――私も実際にSHISEIDO THE GINZAに訪れて、色々体験させていただいたのですが、ベースメークからメーキャップまで、インナーケアからヘアケアまで、また、オリジナルの小物なども並べられているとても楽しい空間ですよね。
吉田:資生堂って世界に類を見ない、ゴチャゴチャとした化粧品屋さんだなと思っています。化粧品はスキンケアからメーキャップ、それにヘアケア製品もあれば美容ドリンクも出していて、お菓子も作ってるしレストランもあるしって、本当に色々やってるんですよね。化粧品屋なら化粧品だけ作るべきだ!って、それを弱みだと思う人もいるけど、私は魅力的だなと思っています。テーマパーク的な感じというか、どんな人が来ても受け入れる、どんな物が欲しい人にも提供できるというスタンスが楽しいなと思っているんですね。こういうブランドだからこういう人に来て欲しいってガチガチに決めない心地良さというか。
――一人で訪れても良いし、お友達同士でも、男性と一緒にでも入れる空間ですよね。
吉田:銀座もそういう街で、お買い物をしたりご飯を食べたり映画を観たり、色々な目的の人が訪れる場所ですよね。銀座に遊びにきて、周りに素敵な洋服を着たキレイな人がたくさんいたら、「次銀座に来るときはオシャレしてこよう!」とかそういう気持ちになれると思うし、SHISEIDO THE GINZAも、どんな方でも入れるけど、お店を出る時にはシュっと背筋が伸びていたり、笑顔が増えている場所でありたいと考えています。
「キレイになる」っていうことはその先があるんですよね。美容全体が女の人にとっての大切なツールだと思うから。自分をこういう風に表現したら褒められたとか、気分が良かったとか。メイクを変えて、写真を撮って、Facebookに公開したら「キレイになったね」って昔の同級生に言われた、とか。SHISEIDO THE GINZA」の3つのフロアでそんな新しい発見をして欲しいと願っています。
SHISEIDO THE GINZA 2Fの「資生堂フォトスタジオ」では、雑誌や広告の制作で活躍するスタッフによる撮影を体験出来る。
――確かに、新しい化粧品を試したり、触れたり、見るだけでも気持ちがキラキラするというか。口紅を一つ変えただけでも、髪をいつもより丁寧にとかそう、とか相乗効果が生まれますよね。
吉田:そうですね。「元気出したいな」っていう時にフラっと来て欲しいんですよ。買い物に来てる人はみんながウキウキしているわけじゃなくて、疲れている人もいて。例えば、よく来てくださるお客様が「いつも介護で大変なのだけど、月に1回化粧品を買って、いつものメーキャップアーティストの方とおしゃべりするのが楽しみなんです」と言ってくれて。
化粧は人を元気にしますって、お手本みたいな言葉が、現場では全く嘘じゃない。こちらがお金をいただいているのに「ありがとう」って言われると、本当に嬉しいし、スタッフもすごく燃えます。
たくさんの情報にあふれている今、せっかくわざわざ足を運んでくださった方にはここでしかできない経験を差し上げたい、そのためにみんなでがんばっています。
――吉田さんがSHISEIDO THE GINZAを“美のパワースポット”にしたいと考える所以ですね。吉田さん自身が元気をもらえるパワースポットや物はどんなものですか?
吉田:仕事が好きで楽しいので、1週間まるごと休んでリゾートへ旅行!といった願望はあまり無いんですよね。それだったら、仕事の合間や帰りに出来る、2時間くらいの気分転換が好きです。私は宝塚が好きなので、宝塚劇場に行ったり、お芝居を観たり。短時間でも非日常な世界に触れるととてもパワーをもらえますし、元気が出ますね。
――私も、こうして色々な方にお話を聞くこと自体が刺激になって楽しいので、その感覚がとてもよく分かります。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
資生堂入社時のエピソードから気分転換方法まで、色々なお話を聞かせてくださった吉田さん。趣味の宝塚鑑賞はもちろん、色々なことに興味を持っていて好奇心旺盛なところが、輝いてお仕事をしている秘訣ではないかと感じました。
秋冬はお洋服と一緒にメイクも新しくしたくなるシーズン。SHISEIDO THE GINZAでは美肌作りのアドバイスを受けられたり、新しいメーキャップ商品を試すことが出来るので、ぜひおでかけしてみてくださいね。毎月第2木曜の17時からは、「資生堂パーラー」のドリンクサービスもありますよ!
SHISEIDO THE GINZA
http://stg.shiseido.co.jp/
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SHISEIDO THE GINZA | Twitter
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