毛沢東の肖像画まで登場した反日デモの性質をざっくり考えてみた
この記事は安田峰俊(迷路人)さんのブログ『大陸浪人のススメ ~迷宮旅社別館~』からご寄稿いただきました。
毛沢東の肖像画まで登場した反日デモの性質をざっくり考えてみた
気になるので取り急ぎ。
本日15日の北京市内での反日デモの様子。
市内に住む劉曉原さんという弁護士が微博に投稿した画像とツイート以下に引用掲載してみる。
(劉曉原『新浪微博』 http://weibo.com/liuxiaoyuan2010)
この弁護士、実は中国語版Wikipediaに項目が立てられている*1ほどの人権派弁護士で、ものの考え方がリベラルな人である。
そのため、わざわざコメをつける人間もやっぱり頭がいいやつがちらほらといる。
*1:劉曉原 『維基百科』
http://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%88%98%E6%99%93%E5%8E%9F
以下、例によって読みやすいように意訳である。
原文の直訳とは微妙に異なる場合があるが、書き手の伝えたいニュアンスとわれわれ読み手のリーダビリティを優先した結果なので諒としてほしい。
では、みてみよう。
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『新浪微博』
http://weibo.com/1840604224/yBWttlkoG#1347677591801@liuxiaoyuan2010(今天08:50 来自新浪微博)
十八大快要召開了,卻不見有多少人在關註是否進行政治改革。
民衆“反日”情緒高漲,説是因為要愛國。難道關註政治改革,就不是愛國的表現嗎?十八大がもうすぐ開幕するが、ここで政治改革が進むか否かに関心を持っている人間はどれほどいるのだろうか。
昨今の民衆の「反日」感情の爆発とやらは、愛国心のゆえであるという。
だが、中国政治の改革に関心を持つことは、愛国心の表れにはあたらないのであろうか。※十八大……中国共産党大18回全国代表大会。今年10月に開催される、共産党の全体会議(という名のセレモニー)。その後のVIPな人たちの会議を通じて、次期5年間の中国のいちばん偉い人7~9人ぐらいが決定・選出される。ちなみに前回の17回大会についてはこちら*2参照。
*2:中国共産党第十七回全国代表大会
http://ja.wikipedia.org/wiki/中国共産党第十七回全国代表大会>@温州人老蔣:
為什麼偏偏在十八大這個節骨眼上大提釣魚島的事情’SB們懂了嗎?なんでまた、十八大のこの時期になって、いきなり尖閣問題が持ち上がってんだろな。
(反日で騒いでる)バカどもはこれをヘンに思わないんだろうか。>@北方以南:
兩者是對立的嗎?我不關註政改,我只關註劉曉原這種法盲律師,是不是也説明不愛國?尖閣問題と政治改革要求って対立する概念なのか?
俺は政治改革には注目してないがね。
興味があるのは、(このツイートしてる)劉曉原とかいうアホ弁護士こそ、愛国心に欠けた奴じゃないのかってことぐらいさ。>@梁春聲:
應認識到政改和反日都是愛國!政治改革も反日も、どちらも愛国行為だ!
>@八一木:
可是我們無權關註政治!説句話的分量都沒有!だって俺ら、政治に関心持つ権利とか与えられてねーじゃん。
言論の(自由の)重要性とかも全然ねえし!>@肖雪慧:
註意力轉移到反日,正中下懷。(政府の偉い人にしてみれば、民衆に対して)
反日に関心を逸らせることができれば、してやったりって感じなんじゃないの?>@Sherry_on_my_way:
昨天我也這麽對朋友説,清醒的人有多少呢昨日、わたしも友達と喋ってたんだけど、この問題を冷静に見てる人ってどれだけいるんだろね。
>@愛文薛:
領導才關心政治 p民們管愛國就可以了政治に関心を持つのは指導者様たちの仕事。
愚民どもは愛国とか言って喜んでりゃそんでいいんだよ。>@井一鴻:
把政治改革寄托在十八大未免天真,
如果黨代會真有意願啓動政治改革,還會出現這種愛國醜聞嗎?
還是要重復強調:
這顯然是一小撮別有用心的人利用不明真相的廣大群眾鼓噪煽動的政治鬧劇。十八大に政治改革を期待するとかイノセントすぎでしょ。
もしも党大会で本当に政治改革が動き始めるなら、いまみたいな愛国のバカ騒ぎが起きるわけない。大事なことなので強調しておく。
今回の反日デモは、何らかの政治的意図を持った人間が、バカな大量の民衆を鼓舞して扇動している、政治的な茶番劇だよ。>@neu蒼狼:
老伎倆了,視線轉移当局のお家芸ってやつさ。
視線を政治改革から逸らせるためにやってるんだ。>@C_A_I_N:
我對所謂的改革真沒信心改革とかいうものに、俺はまったく期待してないがね。
>@土匪周1989:
清廷在滅亡前都要舉行制憲會議了,政治改革就在眼前了,可惜,辛亥的人們等不了了。
我黨是有大智慧的,必定不會再歷史面前重蹈覆轍清朝は滅亡の前に立憲君主制を導入しようとしていて、政治改革を目前に控えていたけれど、惜しいことに辛亥革命をやった連中はそれを待たないで清朝を潰してしまった。
現在のわが共産党様はずいぶん頭がいいからな、過去の清朝の失敗は繰り返すまい。>@天韻懾君心:
看來反日組織策劃已久,當局硬是要轉移視線,糞青全力配合見た感じ、反日組織はずいぶんしっかりと準備がなされているようだね。
当局はまずいことから目をそらしたい、それに愛国バカたちが全力でミックスされてる感じだな。>@沙爹牛暴暴:
大概是覺得比起政改,收回釣魚島難度還低一些吧~あのさ、政治改革やるのって、尖閣を取り戻すよりぶっちゃけ難しくね?
>@把好吃的都交出來:
你敢講實話!你要倒大黴!おい、本当のことを喋るな! お前ヤバいぞ!!
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この劉弁護士は、北京の反日デモの現場をウォッチしているらしく、いろいろと微博上に現場画像を投稿している。
そのなかで特に興味深いものを紹介……していこうと思ったら、この記事を書いている最中に、劉氏の微博の書き込みが封殺されて読めなくなってしまった。
(中国ではよくあることで、さして驚くに足らない話である)
とりあえずこちらのデスクトップに残っているぶんだけでも、書き込みとその反応を紹介してみよう。
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@liuxiaoyuan2010(今天10:34 来自iPhone客戸端 )
毛的畫像也擡出來了,還高呼了毛萬歳口號毛沢東の肖像画まで登場した。
デモ隊は毛主席万歳のスローガンを叫んでいる。
※この一件を見るだけで。デモの背景に硬直したイデオロギーが存在するのがわかる。
穏当に言えば、今回の件が「民衆」とやらの自発的なデモなどではなく、なんらかの(保守的な価値観を持つ)政治的存在が絡んでいると考えた方がずっと自然だろう。
>@海口逗逗-er:
借屍還魂—説這些暴民就是當年毛旗幟下的紅衛兵,一點沒錯。死者を復活させてきたか……。
このバカどもは、毛沢東の旗を掲げていた往年の紅衛兵みたいなもんだ。
間違いないね。>@Simonis:
我靠,搞老毛的畫像幹啥,要回毛時代,愚民!バカ野郎!!
毛沢東の肖像なんか持ちだしてどうする気だ!!
あの時代に戻りたいのか? 愚民どもめ!!>@換倆酒錢:
民粹要還魂了,有組織爪子開始出來了。ナロードニキの亡霊の復活だ。
(今回の騒ぎの裏にいる)組織が馬脚をあらわしてきたみたいだね。>@Alice-Chen007:
終於把死人嚇活了,最後還得把活人嚇死。。。死人を復活させるってことは、いまに生きてる人間が死ぬハメになるってことでは……。
※毛沢東時代には数千人から1億人ぐらいが、飢餓と政治闘争で亡くなっています。
>@IsHIkAWa:
越來越像某派有組織有預謀的政治手段どんどんと、某派の組織的かつ計画的な政治手段じみてきたね。
>@月華流的圍脖:
毛澤東不是親口説過很多次嗎?要感謝日本皇軍。這些傻逼們怎麽就不聽主席的話呢?おい、毛沢東って日本の皇軍のお陰で共産党は政権とれたとか、自分で言ってなかったっけか?
こいつらバカどもはなんで主席の言うこと聞かねえの??※毛沢東と皇軍…1964年、日本社会党の訪中団が毛沢東と会見した際に 「過去の戦争すいませんでした」と例によっていつものパターンで謝罪したところ、毛沢東は「いえいえ、うちは日本軍のお陰で政権とれたようなもんです」とジョークで回答。
おそらく、社会党のみなさんをポカーンさせたであろうエピソードが伝えられている。参考:「皇軍に感謝した毛沢東?」2006年12月13日
http://www.geocities.jp/yu77799/nicchuusensou/moutakutou.html※ちなみに現在の反日デモについては、2chコテハンの「中国住み」*3さんがツイッターで情報提供無双」をやっておられるのだが、彼が公開した現地写真の中にも、やはり毛沢東を称えるものがあったりした。撮影場所不明ながら、参考まで下記に転載。
*3:中国住み(@livein_china) 『Twitter』
https://twitter.com/livein_china
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……はてさて。
上記の翻訳を見てもわかるように、なんだかんだで頭のいい人たちは、現今の反日デモに、反日とは違う何かの要素を見出しているようだ。
そもそも中国において、都市部で人間が百人以上集まって何かをガヤガヤとやっていたら、それは金儲けやバーゲンに関係したものでない限り、基本的にはほとんどがどこかの誰かの意を受けた政治闘争や大衆動員だと考えるべきものなのだ。
反日デモにせよ環境問題への抗議にせよ、文化大革命にせよ(ヘタしたら天安門事件すらも)、中国において、こうした政治闘争や大衆動員をウォッチする際に大事なのは、彼らが主張している内容を真正面からバカ正直に受け止めて意味を考えることではない。
彼らが、何を目的とした誰の意志によって“動かされて”いるのか、彼らが現段階のあの場所で登場した必然性は何か、を考察することが必要になる。
ここらへん、われわれ日本人の感覚だと、たとえ中国問題のプロであってもどうにも理解し難いところなのだが、中国人にとっては一種の常識というか、社会生活を営む上でのリテラシーになっている。
ことに、上記の微博の書き込みに登場するような、中国の政治闘争の黒さを知っている、頭のいい人たちはなおさらだ。
……ともかく反日デモだ。
背景に不明点が多すぎるので、「黒幕は〇〇だ!」などと詳しすぎることは書けないけれども、とりあえずここで、『中国・電脳大国の嘘』*4以来の自説にもとづき、かつ現状を見た上で俺(=安田/迷路人)がある程度は主張しておきたい、おおまかな内容をいくつか。
*4:「中国・電脳大国の嘘 「ネット世論」に騙されてはいけない」
http://www.amazon.co.jp/中国・電脳大国の嘘-「ネット世論」に騙されてはいけない-安田-峰俊/dp/4163747400
主要紙や民放各局の「解説」とは異なるものも多いけれど、ひとまず自分としてはここらへんの角度から本件を見ています、という感じである。
1.反日デモは、「民意の爆発」などではない。
こうした動きは党内や軍内の一部勢力なり(断定できないが)の保守派が煽動する政治闘争が大衆動員を伴って表面化したものであって、ぶっちゃけ構図的には文化大革命と似たようなもの。
政治意識に目覚めた民衆が、中国政府の外交に圧力をかけているというわけではまったくない。
(圧力をかけている主体があるなら、「民衆」や「世論」などではなく、当局内部の「保守派」の一部だろう)
また、行為の本質が中国国内の政治闘争である以上、デモの目的は、実は「日本に尖閣国有化をあきらめさせる」ことではないとも言える。
「習近平を〇〇にする」「××を失脚させる」「△△の影響力を拡大する」といった、国内政治的な目標の実現が、本来の目的であると考えたほうがいい。
実は、日本はダシに使われてるだけだとも言えるかもしれない。いい迷惑である。
2.デモは、当局による民衆の「不満のガス抜き」などではない。
「ガス抜き」説は新聞の社説などを中心に多いが、中国の各都市の人口は数千万から数百万もいるわけで、たとえ仮にデモに数万人が集まったところで、市民の1%にも満たない数だ。
事実、現地に住んでる中国人に連絡を取って聞いてみると、デモが起きていることを知らずor気にせずに日常生活を送っている人がかなりいる……というか、実はそっちのほうが庶民の多数派だったりする。
庶民の中の少数の連中のガス抜きにわざわざ配慮するほど、中国共産党は慈悲深い組織ではないし、例えば食い物をタダで配るとかw、他にもっと安全かつ効果的なガス抜き法はいくらでもある。
上に書いたように、反日デモは政治闘争・大衆動員ゆえに起きているのであって、民衆の愛国心の高まりに対する当局からの恩恵としてデモが許可されているわけではない。
3.デモは「当局の意図に反して」起きているわけではない。
12日に中国国内の新聞各紙が反日デモの写真を1面に掲載し、国営テレビCCTVが7時のニュースで対日強硬宣言をやっている時点で、少なくとも9月3週目からは、反日デモに当局からの政治的正義が付与されている。
(ちなみに言うまでもないが、中国のメディアはことに政治分野については、すべて「党と政府の舌」である。国内の全メディアが新聞●旗とか聖●新聞状態だと想像してほしい)
反日デモの発生それ自体は、当局の容認(どころか扇動)により起きているとみてよく、 「当局が抑えきれず……」といった見方はナンセンスだ。
もちろん、当局の中の人には現在の状況を苦々しく見ている派もいるのだろうけれど、現時点において、彼らの総意としては反日デモ容認方針なのである。
あと、「一部が反日暴徒化」については、おそらく当局としては多少は困る話ではあるものの明らかに一定程度はそういう結果が起きることも折り込み済みで、デモを容認していると考えた方が妥当と思われる。
ここらへんの造反有理は、政治的正義のバックアップがあれば一定は許容され得るのだ。
4.デモは「ネット主導」などではない。
そもそも、中国は独裁国家なので 「ネット主導」の「民間主導」で全国レベルの大衆行動が起きるなんて通常はありえない。
やってることが何となく似ているように見えるため、日本側の分析ではこうした中国の反日デモが、在特会とか反フジテレビなんかのデモと比較されがちだが、それは違う。
個人的にその趣旨に賛同するかはともかく、いちおうは「市民」(プロ市民とか言っちゃダメw)な人たちが彼らなりのイデオロギーに突っ走って実際行動を起こしているのが、日本における「愛国」デモ。
しかしながら、中国の現今のような反日デモは、民間人が主導して起こしているわけでは決してない。
ネット上で「反日言論」が盛り上がっているのは事実だが、それは3.のように当局の政治的正義として反日が示されているから、ネットが活発化しているに過ぎない。ニワトリとタマゴの順番が逆である。
……まあ、ブログだからとろくに具体例も挙げずにながながとやってしまったけれど、総じて言ってしまうと、今回(05年と10年も)の反日デモというのは、その内実の不透明さや、パッと見た目の意図の不明さも含めて、縮小再生産型の文化大革命の現代化ヴァージョンだとみなすのがいちばん自然な気がする。
※いかんせん文革なので、60年代に無礼講のカーニバル状態で行き過ぎたバカたちが、反革命分子を市中引き回しにしたり家をぶっ壊したり、リンチしてぶっ殺したりしたのと同じく、今回の「糾弾対象」である日本人に対しても、やっぱりバカたちがそれなりのことをやってくる可能性はある。
過去、文革が終わった後で、往年のメチャクチャがきれいさっぱり「なかったこと」になったように、今回の反日騒ぎも、今後に政治方針がちょっと変わるだけで、やはり「なかったこと」になるはずだ。
だが、現時点においてはけっこう危険なので、現地在住の邦人のみなさんは、ほとぼりが冷めるまではかなり注意したほうがいい。
中国はここ数十年、社会主義を事実上放棄してから経済がずいぶん発展したし、オリンピックもやって国際化もした。
人々の生活が豊かになって、西側の技術や資本をバンバン導入したことで、ネット上では中国版の2ちゃんねらーみたいな奴らがバカやって遊んでるような国にもなった。
しかしながら、一方でこと「政治」の分野に関しては、「革命は暴動である」だの「政権は銃口から生まれる」だのの毛沢東の時代から、本質的には意外と変わっていなかったりする。
それゆえに、西側民主主義国の我々の目から見ると、彼らはときに本気でわけのわからんことをやる。
これが、中国人自身だってうんざりしているような、中国という国の宿痾ってやつだ。
現在の状況もまさにそうだ。
現地在住者を中心に、くれぐれも正確な情報の収集と個人の安全確保にご注意下さいますように。
執筆: この記事は安田峰俊(迷路人)さんのブログ『大陸浪人のススメ ~迷宮旅社別館~』からご寄稿いただきました。
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