楽天koboがまともに日本語書籍を集められないもう一つの理由

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楽天koboがまともに日本語書籍を集められないもう一つの理由

今回はLM-7さんのブログ『A Successful Failure』からご寄稿いただきました。

※記事のすべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/249908をごらんください。

楽天koboがまともに日本語書籍を集められないもう一つの理由

前回、8月末6万冊の約束期限に対し姑息な手段に出た楽天kobo*1において、楽天koboの公開する数字がまやかしであることを示した。1日時点では6,440冊だったギターコード譜は、本日時点では13,000冊に増加している*2。楽天koboはギタリスト御用達ツールの座でも狙ってるのか。

*1:8月末6万冊の約束期限に対し姑息な手段に出た楽天kobo 2012年9月1日 『A Successful Failure』
http://blog.livedoor.jp/lunarmodule7/archives/3539390.html

*2:1日時点では6,440冊だったギターコード譜は、本日時点では13,000冊に増加している(楽天kobo “アディインターナショナル” の検索結果)
http://rakuten.kobobooks.com/search/search.html?q=%E3%82%A2%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB

楽天koboがまともに日本語書籍を集められない理由は、Amazon Kindleが近日発売のまま2ヶ月も経っている*3理由と共通している(さすがにまもなく発表されると期待しているが)。現時点においてKindleは米国では150万コンテンツを扱っており、先日サービスを開始したインドでは120万コンテンツから開始している。しかし、年内にも始まるとされる日本では、それだけのコンテンツを集めることはたとえAmazonでも困難だろう(それでもAmazonなら何とかしてくれるとの一縷の希望は持っている)。

*3:Amazon Kindleが近日発売のまま2ヶ月も経っている(Kindle 近日発売 販売開始お知らせメールマガジン登録)
http://www.amazon.co.jp/gp/feature.html/?ie=UTF8&camp=247&creative=7399&docId=3077662956&linkCode=ur2&tag=asuccfail-22

最も大きな障害は日本固有の契約の問題である。出版社は電子化の際に、その了解を著者一人一人から得なければならず、出版社が独断で電子化を行える欧米とは異なるというものだ。この契約の問題に関しては、今まで多くの記事で紹介されているのでここでは取り上げない。

ここでは、あまり今まで取り上げられて来なかったもう一つの問題について取り上げたい。それは「査読」である。

電子書籍オーサリングの取り組みについて*4についてによれば、電子書籍を作成するプロセスは大きくデータを整形・編集する変換作業とその内容が正しいか確認する査読作業から構成される(下図も前記からの引用)。

*4:電子書籍オーサリングの取り組みについて
http://www.sharp.co.jp/corporate/rd/37/pdf/102_07.pdf

楽天koboがまともに日本語書籍を集められないもう一つの理由

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/e4bd9ce6a5ade381aee6b581e3828c1.jpg

制作作業の流れ
               
前段の変換作業は出版社が有する電子データを元にオーサリングツールないしは変換ツールでepubなどの電子書籍フォーマットに変換するものだ。主な変換作業は次のようになる。

•日本語特有の圏点*5・ルビ*6・縦中横*7の付与
•インデントや揃えなどのレイアウト調整
•外字の抽出と画像の作成
•画像挿入位置の指定や画質調整
•紙書籍では存在しないハイパーリンク、動画や音声の指定
これらは膨大な作業になるが、コンバートツールが元データ形式に対応しているのならば、1日に千件単位でコンバートすることも可能だ。1日3,000件ずつコンバートすれば1年で100万冊のコンテンツを集めることも計算上は可能となる。

*5:圏点
http://ja.wikipedia.org/wiki/圏点

*6:ルビ
http://ja.wikipedia.org/wiki/ルビ

*7:縦中横
http://ja.wikipedia.org/wiki/縦中横

問題は後段の査読作業だ。査読作業では査読ビュアーを用いて人の手で1冊ずつ変換作業が正しく行われているか確認を行う。主な確認ポイントは次のとおりだ。

•文字、ルビ、圏点などデータ欠落の確認
•インデントや画像配置などのレイアウトの確認
•ハイパーリンクの移動先の確認
•音声、動画などの再生の確認

これは人の手で行う必要があるためどうしてもボトルネックになる。欧米の出版社はこのような査読作業は行わないか、行ったとしてもずっと軽いものだが(読めれば良い)、日本の出版社は真面目なのか必ずこの査読作業を行う。零細出版社では査読に割ける人員も限られており、たとえ1日何千件もコンバートできたとしても1日にチェック出来る量はたかが知れている。変換が自動で行われたとしても、査読には人件費がかかるため、出版社は売れる見込みのないような古い書籍については電子化したがらない。そのためたとえ権利関係がクリアになったとしても、電子化の対象となるのは電子化費用が回収できる見込みのある一部の書籍にとどまり、またその一部の書籍についても電子化されるには長い時間を要することになるのだ。

これが欧米と比較して日本で電子書籍が集まらないもう一つの理由である。楽天koboに話を限れば、手っ取り早くコンテンツを集めるには既に電子化されたコンテンツ(10万冊程度?)を持ってくるのが早いが、楽天koboはepubやpdfにしか対応しておらず、xmdfや.bookなどの既存電子化コンテンツをそのまま持ってくることができない。すべて変換、査読というプロセスが必要となるのである。だから、査読の無いギター譜面や、1枚の写真からなるバーチャルアートなんてコンテンツに頼るのだ。

楽天koboが年内20万冊のコミットメントを達成するには、年内1日1,300冊以上のペースでコンテンツを追加する必要があるわけだが、楽天だけの努力で達成できる量ではない(水増し手法を駆使すれば可能だろうが)。AmazonのKindleが日本でのサービスを開始すれば、epubのコンテンツ数も増えることになると期待されるが、Amazonが水面下で膨大な変換作業を進めているのでなければ欧米並みの100万冊に到達するにはまだ長い時間がかかるだろう。

以上のように現時点において日本語電子書籍を提供することは非常に困難を伴う仕事である。そのため、楽天koboがまともにコンテンツを集められないのも十分理解できる。だからこそ、見かけの数字を水増しする小手先の対応に苦心するのではなく、消費者が求める良質のコンテンツを1冊でも多く、1日でも早く揃えられるようすべての力を注いでもらいたい。

執筆: この記事はLM-7さんのブログ『A Successful Failure』からご寄稿いただきました。

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