『千日の瑠璃』77日目——私はゴム長靴だ。(丸山健二小説連載)

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私はゴム長靴だ。

少年世一が家族のために丘の麓まで抱えて運んで行く、底にスパイクを打ってあるゴム長靴だ。日暮れが迫って降り出した大粒の雪は、すでにくるぶしまで達していた。それでなくてもまともに歩けない世一にとって、雪の坂道を下るのは実に難儀なことだった。ひっきりなしに転倒し、その都度私を投げ出し、拾い集めようとしてはまたひっくり返った。

それでも世一は、決して恨みがましい言葉を吐かなかった。むしろ楽しんでおり、世一の姉の通勤用の自転車や電気や水道のメーターのための小屋に辿り着いたときも溌剌としていた。世一はタオルで私を丹念に拭き、帰ってくる順番に、姉、母、父の順に私を入口のところに並べた。そしてひとり悦に入り、私のことをオットセイに似ているなどと言い、上機嫌で口笛を吹いた。

小屋の外で荒れ狂う白魔が、世一の口笛を吹き飛ばし、引き裂いた。それだけならまだしも、くだらないことを言って世一を煽った。親も姉もおまえのことなど何とも思っていないとか、役に立つ犬くらいにしか考えていないとか言った。すると世一はけらけらと笑い、笑いながら私に平手打ちを飛ばした。横倒しになった私を見おろして、彼はまたけらけらと笑い、今度は私をわしづかみにすると、釘の先があちこちに出ている板壁に容赦なくばんばんと叩きつけた。ぐったりとなった私を小屋に残して、彼はふたたびオオルリのもとへと帰った。
(12・16・金)

丸山健二×ガジェット通信

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