「エネルギー政策は政府が”上から目線”で決めるべき」 政策家、石川和男さん<「どうする?原発」インタビュー第9回>
日本は昭和20年に原爆が落とされ、敗戦を迎えた。その10年後には原子力を利用し、エネルギー資源として確保することを定めた「原子力基本法」が成立する。それから現在まで、政府は原子力発電を推進してきた。しかし、福島原発の事故が起こり、日本のエネルギー政策は今、岐路に立たされている。資源エネルギー庁で電力・ガス事業制度改革に数次にわたって携わった元経産省官僚でもある石川和男さんは、政策家として「エネルギー政策は政府が”上から目線”で決めるべき」と言い切る。その真意とは――
・特集「どうする?原発」
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■「原発には功罪あった」
「原発やエネルギー政策は多面的です。私の言うことは、そのうちの一部」と前置きした上で、石川さんは日本のエネルギー政策が歩んできた歴史を話し始めた。
「原発が実際にわれわれ国民の生活に入り込んで来たのは、昭和40年代のオイルショックがきっかけでした。エネルギー政策という視点から見れば、理由は単純。高価格な石油への依存が脆弱だと気づかず、オイルショックが起きてしまってどうしようもなかった。1980年にも第二次オイルショックがありましたが、地熱エネルギーも太陽エネルギーも難しい。じゃあ原子力発電に頼ろうとなっていった。原子力は石油の七万分の1の容積で同じ量のエネルギーを作り出すことができる。それを利用しない手はなかった」
それから政府や電力業界は、原発を推進してきた。原発は石油への依存度を下げ、電気の安定供給を実現、電気料金値上げに対する抑止効果もあったと石川さんはいう。
「原発はどこに立地するかが難しいが、電気代から『電源開発促進税』として数千億円ほど徴収し、地域に交付金を出すことなどによって建設してきました。それだけコストをかけないと建設できないわけですが、経済政策としてはトータルでプラス。エネルギー政策として『○△×』の三段階で評価したら、”△”に近い”○”ですね。キャンディーの『いちごみるく』みたいな形です(笑)」
原発批判のひとつに、「立地地域の頬を札束でひっぱたいて建設している」という表現がある。石川さんもそれは否定しない。「ガスコンビナート、ダム、廃棄物処理場、自衛隊もそうです。原発だけではない。”迷惑施設”が立地する市町村に地域振興の名のもとにお金を落としてお願いしてきた。功罪両面あります」
■「原発の『世論作り』は一方的」
しかし、福島原発の事故以後、脱原発を求める声は高まっていることも確かだ。政府は現在、2030年時点の原発依存率について、国民の意見をまとめて方針を打ち出すとしているが、その姿勢に石川さんは懐疑的だ。
「今、比率を決めても意味がないでしょう。こういう話は、1年や2年経てば経済的、社会的情勢が変わる可能性がある。あれだけ議論になった後期高齢者医療制度の問題も、今は忘れられてますよね? 情報が氾濫し、毎日違うニュースが届く現代社会では、2030年の目標を決めても、一瞬盛り上がっただけで終わってしまいます。しかし、あまり短いスパンで政策がコロコロ変わっても困る。大体、衆院議員選挙と同じぐらいの4、5年ごとに見直すぐらいが、丁度いい」
脱原発の心情にも理解を示す一方、原発の即時停止は現実的ではないとみている。「実は、電気料金の多くは輸入化石燃料費で占められる。人件費は1割程度に過ぎない。いくら電力会社が設備費用や人件費を低く押さえたとしても、コストを吸収することは難しい。原発を再稼働させなければ、年間3兆円も追加費用が化石燃料費として海外に逃げてゆく。最終的には電気料金にはねかえってくるでしょう」と指摘する。
「今回の原発に対する『世論作り』は、一方的です。すぐに『経済と命、どっちが大事だ』という議論になってしまう。それは命に決まっていますが、お金がないと救えない命もたくさんある。年間8000人が経済苦で自殺しているような国です。 エネルギー政策は、国民の代表者である政治家、国会議員に仕切らせるべき話。反対をされても、必要ならばやるという決断。その表れが、あれだけ反対された福井県の大飯原発の再稼働と東京電力への資本注入でした。政府は統治者なのですから、”上から目線”で決定しないと困る。エネルギー政策は、庶民目線でやっては絶対にだめです」
大飯原発を再稼働したからこそ、揚水式水力発電所に余裕ができるし、火力発電所はメンテナンスができると、石川さんは説く。
「電力消費の増減は産業経済にも消費者経済にも、両方に響きます。経済が循環しているということを政治家はきちんと理解しないとダメ。新聞やテレビが経済的側面をあまり報道しないのも問題です。なぜ一部新聞が反原発について偏向報道をしているのか。部数が伸びるからだと、他の新聞社の論説委員から何度も聞かされました。新聞社やテレビ局も民間企業だから、購買数、視聴者数が伸びる感情論へと傾く。それは危険な状況なんです」
■「原子力の国家管理化を」
かといって、これまでのような原発推進も難しい。では、今後、エネルギー政策をどう舵取りをすべきなのだろうか。拙速な議論をけん制しながら、石川さんは政策家として「原子力国家管理化」を提言する。
「脱原発を目標とするならば、まず、原発をきちんと廃炉にするための準備をする。廃炉は準備段階から時間がかかり、実証も人材確保も必要ですから、再稼働して投資回収をし、計画通りに廃炉にします。ただし、現状では批判が多く危険な仕事を誰もやりません。そこで原子力を国家管理化して、原子力の人材を国家で抱えるべきだと思います」
新卒の学生や社会人、海外の人材も含めて、技術者の身分保障をする。国家事業として、投資回収までの脱原発を計画的に行うというものだ。その間、稼働している原発の安全を第一に考え、代替エネルギー源の研究を進める必要もあるという。
また、電力自由化には反対の立場だ。「価格を上がるようなインセンティブしかない」と断言する。
「電力会社の発電事業と送電事業の分離は改悪になります。参入者がいないので、自由化したら既得権者の権利が強くなって値上げするだけ。コストメリットもありません。東日本大震災の際、インフラの普及速度は、実は電力が一番だった。それは、発送電一体だったからです」
福島原発の事故を受け、いくつもの事故調査委員会が発足した。
「中には、今後のエネルギー政策について、良い提言もあります。政府も含めて、電力業界がきちんとやっていくべきです。そして、望むらくは、僕らが生きている頃には無理かもしれませんが、孫世代では、効率のよい蓄電池が流通して、太陽光や風力でもって電力は大丈夫ですねとなっていればいいですね」
■石川和男(いしかわ・かずお)
政策家。社会保障経済研究所代表・東京財団上席研究員。東京大学工学部卒業。通産省・経産省官僚時代には、電力・ガス事業制度改革に数次にわたって従事、水力や地熱など再生可能エネルギー発電も担当した。主な著書に、「脱藩官僚、霞ヶ関に宣戦布告!」(「脱藩官僚の会」共著)や「多重債務者を救え 貸金業市場健全化への処方箋」など。
◇関連サイト
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(猪谷千香)
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