電力会社陰謀論

電力会社陰謀論

今回は疑似科学ニュースのメカAGさんの記事からご寄稿いただきました。

電力会社陰謀論

「大飯再稼働も供給量増えず 関電は火力発電止めて調整してた」2012年07月21日『NEWSポストセブン』
http://www.news-postseven.com/archives/20120721_130842.html

電力会社が意図的に供給量を少なくして、電力使用率を上げて危機を煽っている…という陰謀論。まあ電力使用率というのがわかりにくいというのはあるだろう。

この言葉だけ聞くと、その時電力会社が万難を排してでも供給できる最大の電力に対する現在の電力使用量という印象を受ける。稼働できるすべての発電所をフル稼働させた時の発電量に対する現在の電力使用量の比率である、と。

ところが実際にこの電力使用率の数値の(電力会社が使っている)意味は、現在供給している電力に対する現在の使用量だ。電力使用量が少ない時は、発電所を稼働させておいても無駄なので余っている分は止める。だから結果的に電力使用率というのは、電力の使用量が多い時も少ない時もだいたい80%~90%になる。

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じゃあなんで電力会社はこんな誤解を招く数値を使うんだ?やっぱり危機感を煽るためだろう?という話になる。これは電力会社の「文化」なのだろう。ホテルの経営では部屋の稼働率をいかに100%に近づけるかが腕の見せ所になる。キャンセルが発生することを見込んで、あらかじめ部屋数よりも多くの予約を受け付けておく。そうしないとキャンセルが発生した時に売れ残った部屋ができてしまうからだ。

んで、この読みが外れると「予約したのに部屋がない!?どういうことだーー!」となる。客から見れば怒り心頭だろうが、予約を常に部屋数までしか受け付けないと、部屋の稼働率が下がってしまう。つまり絶対100%を超えてはいけないが、いかに100%に近づけるかという点で努力しているわけだ。

電力会社も同じで電力使用率が100%を超えては絶対にいけない。それは使用量が供給量を上回る状態で大停電になってしまう。しかし一方で電力使用率があまりにも低い(60%とか)でもいけないのだ。それは風呂を空焚きしているようなもので無駄だし、無負荷で回し過ぎるとタービンが痛む。

100%を超えてはいけないが、100%にいかに近づけるかが腕の見せ所。その目安として80%~90%を設定しているのだろう。これを超えそうなら止めていた発電所を稼働させるし、下回りそうなら余分な発電所を停止する。

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だから発表する数値を、現状の供給力ではなく、潜在的な発電力(稼働できる発電所をフル稼働させた状態)を発表すればいいとは思うんだけどね。そうしないのはやっぱ文化なんだろうな、と(笑)。

電力会社にしてみれば、潜在的な最大発電力はちゃんと折にふれて発表しているし、日々変化するものではないのだから、毎日発表するデータは供給力と使用量であるべきだ、ということなのだろう。理屈としては正しいと思う。

それに電力会社としては、潜在的な発電力をあまりいいたくないというのは、やはりあると思う。ただそれは世間が勘ぐっているような理由ではなく、純粋に技術的な理由だろう。機械というのはメンテナンスしなければならないから、すべての発電所をずっとフル稼働させておくというのは事実上できないし、想定するべきでもない。家電とかはメンテンスが不要だし、めったに壊れることがない。だから一般の人々には機械はメンテナンスし続けなければならないという感覚が理解できないのだろう。

可動部分に油をさしたり、ゴミが溜まる部分は取り除いたり、ゴムなど劣化する部品は定期的に交換したり、という作業が常に必要。それをしないとそのうち壊れて、修理にもっと手間がかかる。

だから定期的に止めてメンテナンスしなければならない。供給力に余裕がある時に発電所を止めてメンテナンスしておくというのは普通だと思うのだよね。そうしないと供給力に余裕がない時に壊れたらえらいことだ。

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夜間は(火力などの)電力が余ってるんだから、それを使って揚水発電をもっとしろという主張も後を絶たない。

「関電の電力は足りているというアホな記事をばらまく新聞社」2012年07月19日『疑似科学ニュース』
http://nebula3.asks.jp/98716.html

の追記部分でも述べたが、揚水発電の水をくみ上げるためのポンプの能力には限界があるから、くみ上げるための電力よりも、くみ上げに使える時間の方が重要。ポンプがフル稼働している状態でさらに電力を供給しても、くみ上げられる水の量はそれ以上増えない。

原発を稼働させれば日中の電力供給力が増える。そうなれば揚水発電に頼らなければならない時間が減るし、逆にくみ上げに使える時間は増える。長い時間をかけてたくさん水をくみ上げておき、それを短い時間で一気に使い切れば、単位時間あたりの発電量は増える。原発を稼働させると揚水発電の発電量も増えるというのはそういうことなのだ。

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で、こういったことは電力会社が発表している資料をきちんと読めば書いてることなんだよね。もちろん無批判に鵜呑みにするべきではないと思う。電力会社が発表する資料なのだから自社に有利になることしか書いてないかもしれない。

でもそれは鵜呑みにせずにきちんと検証すべきだということであって、否定する理由もないのに頭から「きっと嘘に違いない」と決めつけたり、ましてや資料をろくに読まないというのは、いかがなものかと思う。

記事を書く人間はさまざまな記事を書いているのだから、電力会社の発表するわかりにくい資料を隅から隅まで読み込むのは不可能かもしれない。でもだからこそきちんと専門家とかに取材すべきだと思うのだよね。

ただ世論がここまで反電力会社一辺倒になってしまうと、よほど電力会社を擁護するメリットがある人間以外は、電力会社よりの立場の意見は言い難いかもしれない。下手に電力会社を擁護しているかのように見える発言をしたら、世論から袋叩きになってしまう。なんのメリットもないのにデメリットだけ被ってしまう。だから中立で客観的な立場の専門家ほど、電力会社を弁護するような意見は述べにくい雰囲気なのだろう。

結果的に国民は自分に届く正しい情報を、自分で拒絶していることになる。世論が一方方向にどんどん流れていき、それに反対する意見をいう人々は非国民扱い。なんかいつかきた道を思わせるのだけどね。どんな意見であってもそれを述べる権利は尊重されなければダメだ。

執筆: この記事は疑似科学ニュースのメカAGさんの記事からご寄稿いただきました。

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