超新感覚青春ムービー『ウィーアーリトルゾンビーズ』長久允監督に聞く「会社員と映画監督の両立」「ストレスからの脱出」
生きてるくせに、死んでんじゃねえよ。両親を亡くしても死ねなかった中学生4人が、音楽を通じて変化していく、新感覚の映像で描いた青春ストーリー『WE ARE LITTLE ZOMBIES(ウィーアーリトルゾンビーズ)』。サンダンス、ベルリン、香港、台湾、そしてブエノスアイレスと、世界の映画祭で大きな注目を集めている本作が、6月14日より公開となります。
監督を務めたのは、「そうして私たちはプールに金魚を、」が第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門でグランプリを受賞した長久允監督。数々のCM、MVなどを手がけてきた長久監督だからこそ描けたポップでシュールな世界観と、十代のみずみずしい感情。今観るべき一本です!
――本作大変楽しく拝見させていただきました。実写映像とゲーム風のドット絵の融合であったりポップな演出があったと思えば、急にドキッとするシーンもあったり、緩急のバランスが素晴らしいなと思ったのですが、意識はされましたか?
長久:映画の120分を「オーケストラスコア」を書いている様な気持ちで作っていて、スコアとして、最初にテーマがあり、ダイナミクスが大きくなる所があって、中盤退屈な所があって、最後盛り上がるという音楽的な構成を意識した部分はあります。それが緩急につながっているのかもしれませんね。
――監督は、映画作りは独学だと思うのですが、長編を作ろうと思って戸惑うことはありませんでしたか?
長久:それが、ずっと楽しくてフェスみたいな気持ちで作っていました。僕は映画の世界では下積みや勉強をしてきたわけではないので独学になりますが、映画は大好きで、個人的にずっと考察や研究をしてきたこともあって、「こうやりたい」「こう作りたい」というヴィジョンは最初からハッキリしていたとは思います。
――なるほど。物語もすごく独創的で、十代の繊細な気持ちを観た事の無い表現で映像化しているなと感じました。
長久:個人的に「ピクサー」的な起承転結な映画の作り方が苦手で、最大公約数的に皆が同じ事を思って、同じ様に感動するというのが自分には合わなくて。100人いたら100人違う感想を持つ様な映画を作りたいと思っていました。なので、本作では「親との関係を受け入れる」とか「親の死をもって成長する」というハリウッドによくあるタイプの作品とは違うものを描きたかったんです。邦画もそうで、テンプレ化している感じもあると思ったので、そこからは逸脱したかったんです。映画ってもっと自由で良いんじゃないかと。
――脚本も書かれていますが、何稿も練られたのですか?
長久:いえ、ほぼ第一稿のままなんです。ロケハンしていて、この場所良いなと思って書き足した部分とかはありますけど、ほとんど最初に書いたもので。僕が早口なのでそのペースで書いていたら、プロデューサーに見せた時に「この内容だと3時間かかるよ」って言われたんですが、僕はテンポ感とか時間はかりながら書いていたので、2時間ジャストになって、よしよしって感じで。
――コンビニのイートインコーナーで仕事と子育ての合間に書かれていたそうですね。
長久:はい。育休中に、家では書けないけど近所のドトールに行くまでは遠いっていう感じで、コンビニのイートインコーナーがちょうど良かったんです。脚本書くのが楽しくて楽しくて、ヒャッハー!ってテンション上がりながら作っていたので、周りにはやばい人だと思われていたと思います(笑)。脚本がとにかく楽しかったのですが、後は自分が音楽をやっていたこともあって、音が大好きなので、効果音とかミックスを作っている時が本当にテンション上がりました。音が一番、人をドキッとさせたり不安にさせたりすると思うので、音楽を作ってくださった方と相談しながら、めちゃくちゃ細かい指示を出しながら、「ここ、右だけ1デシ(デシベル)あげてください」とか。「このシーンの後に、この音来るとザワザワするよね」という言語化出来ない表現をロジックで常に考えながら作っていきました。
――エモーショナルでありながら、ロジックで考えられているというのが本当に面白い映画の作り方だなと思います。監督が「そうして私たちはプールに金魚を、」に続き、十代を主人公にしているのはなぜでしょうか?
長久:大人になると常識とか偏見のせいで、元来人間が持っている物事を見るまなざしが失われていく気がしていて、中学生とか十代前半の方が自分だけの視点をしっかり持っていて良いなと感じます。大人になって失われていく物の尊さが俗に言う”エモい”という事なのでは無いかと思うので、その時期をしっかり描いてあげたいなと思うんです。
――私も子供時代、「お葬式で自分だけ泣けなかったらどうしよう」とか思った経験があるので、共感する部分が多かったです。
長久:そうそう、結構子供の時って物事を冷静にとらえているんですよね。本作でもそんな子供達の姿を演じてくれる俳優さん達を探すのがすごく大変で。ヒカリ役の二宮慶多くんはすごく上手いので大丈夫だろうと、イシ役の水野くんも雰囲気がそのままピッタリで。奥村くんが演じたタケムラ役は一番大変でしたね。朴訥さを残しながらも、繊細な感情を表現するというのは、いわゆる子役演技を経験してしまった子では絶対に難しいと思ったので。知り合いづてに、九州で似顔絵を描いたりしている奥村くんに会って、素晴らしくて。イクコ役のセナちゃんもモデルデビューしたばかりで、最初は演技はやりたくないということだったのですがお願いして。この4人が決まった時点で、この映画行ける!と思ったんです。撮影終わりはキャッキャ遊んでいたりする子供らしい部分もありますが、割と役柄そのまんまの4人でした。
――監督がこれまで影響を受けた作品は何ですか?
長久:日本だとアート・シアター・ギルドとか70年代の頃の作品がすごく好きです。大島渚さんであったり。アート的な実験的な表現をしつつ、人間の描かれてこなかった衝動を映像に落とし込んでいる部分にすごく影響を受けています。北野武さん、初期の伊丹十三さんも大好きです。海外作品だとフランス文学科を卒業していることもあって、ゴダールとか、ルイス・ブニュエルとか。
――それこそ、監督が最初におっしゃって、100人がいたら100人受け取り方が違う作品というか。
長久:そうですね、監督や作り手のメッセージ性が強く反映されていながらも、受け取り方は自由で良いんだよ、というそういった作品が好きなんです。それがベースでありつつ、「そうして私たちはプールに金魚を、」を作った時は人生で一番疲れていた31、2歳の時で。よりパッションの強い作品に惹かれるし、自分でも作ろうと強く思う様になりました。
――今もそうですが、会社員をやられながら映画作りをはじめたのですよね。
長久:仕事が大変で、何でこんなにやりたく無いことやってるんだろうって疲れ果てていた頃に、「NATURE DANGER GANG」というバンドに仕事で関わることになって、「下手でもいいから自分達の思っていることを全力でやる」という事のみに、生きている意味があると思ったんです。
――会社の皆さんは応援してくれていますか?
長久:それまでめちゃくちゃ仕事していたので「そろそろ、好きな事やってもいいんじゃない?」って許された感じですね(笑)。短編でありがたいことに評価をいただいたので、周りも応援してくれています。今はワークライフバランス最高に整っています。
――ガジェット通信の読者にも、監督と同世代の方が多いのですが、やらないといけない仕事と、自分がやりたいこと。そのバランスをどの様にとれば良いか、アドバイスをいただけますか?
長久:あまりにも仕事が忙しくて大変なので、シフトチェンジしようと3、4年前から心がけているのが「嘘をつかないようにしよう」という事です。クライアントさんのオーダーに今までは何でも「わかりましたー!」って感じだったのですが、今では「それは変だと思います」とか思った事をすぐ言う様になりました。そうしたら、すっごく自分が楽になったんです。そうすると、ややこしい仕事には呼ばれなくなって(笑)、自然と仕事も整理されて。その方がノーストレスで制作出来るので、良い物も出来て、いいことばかりだったり。もちろんなかなか、すぐに出来ない方が多いと思うのですが、「ちゃんと嫌われる」っていうのも大切だと僕は思っています。
――嘘をつかない、必要があればちゃんと嫌われる。すごく大切な事だと思います。私も監督と同い年なので沁みました(笑)。今日は楽しいお話をどうもありがとうございます!
『ウィーアーリトルゾンビーズ』
https://littlezombies.jp
(C)2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS
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