結局、大事な判断に欠かせないのは“知識”?それとも“人間関係”?ーーマンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』の第35回目です。
『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。
【本日の一言】
「決めるのは常に自分!自分と相談し自分で決めるのだと!」
(『インベスターZ』第6巻credit.45より)
大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。
なぜ、組織は“責任逃れ体質”になってしまうのか?
祖父からの思いがけない遺産が舞い込んだことによって、普段はお金に厳しい財前の父が一変。父は伯父と一緒に投資を行い、お金を増やそうと考えます。しかし投資部で100億円を運用している財前からしてみれば、2人は素人も同然です。これから投資をしようというのに、自分たちの意見のすり合わせに終始している2人を見て、財前は「これでは失敗する」と直感します。
一計を案じた財前は、父たちに向かって「自分は働かずに、遺産を投資し、運用したお金で暮らしたい」と言い出します。その言葉に焦った大人たちは、投資を思いとどまりました。この経験を通じて、財前が学んだのは「決断とは、自分1人で行わなければならない」ということでした。
財前はようやく、投資部の先輩・神代(かみしろ)が言った「優秀な人間が相談して出した結論なんて、ロクなものじゃない」という言葉の意味を理解したのでした(「『相談して出た結論なんて、ロクなもんじゃない』デキる人は、いつだって“孤独”に決断する」参照)。財前がこの話を先輩の蓮(れん)にすると、蓮は「『みんなで相談して決める』という平等主義が、多くの日本企業で責任逃れ体質を生み出した最大の要因だ」と話すのでした。
カリスマ社長の世代交代
『インベスターZ』の中で、会社が中途半端な決定をしがちな事例として挙がっているのが、「会議のための会議」「中年幹部が集まって行う新商品スイーツの試食会」「大企業の新卒採用面接」などです。いずれも「みんなで決めれば責任も平等」というわけです。
とはいえ、専門家でもない者が1人で決断しても、やはり良い決断は下せません。
こんな話があります。これは以前、私の受講生の方から聞いた話です。その方はある中堅ケーキメーカーの若手社員でした。そのころ、ちょうど社長が創業者から2代目の息子に引き継がれたばかりでした。
過去、創業社長が試食をして「これは売れる」と言った商品は、必ず売れたそうです。ところが、2代目は試食をしても「どれがいいのかわからない」と答えたというのです。古株の社員はこの話を持ち出して、「2代目社長は能力がない」と噂し合いました。この話を私にしてきた若手社員は、「このような社長のいる会社は先が思いやられるから、今のうちに転職したほうがいいでしょうか?」と聞いてきました。
すべてが完璧な人など存在しない
確かに端から見ると、2代目社長は決断力に欠けるように見えるかもしれません。しかし、ここでもし、2代目が自尊心を守るために「社長は私だ。私が決める」と虚勢を張っていたとしたらどうでしょうか。商品は売れず、大量の在庫を抱える事態になったかもしれません。それよりは、早めにわからないことを公言し、その道のプロに判断を仰ぐほうが、よっぽど賢明だと言えるのではないでしょうか。
元来、ゼロから会社を築き上げた先代と、できあがったものを引き継いだ2代目とでは、経験値が全く違います。しかし、会社を立ち上げることと、それを維持・発展させる能力もまた違うのです。例えば、ダイエーの創業者・中内㓛(なかうち・いさお)氏は、かつては時代の寵児(ちょうじ)ともてはやされ、一時代を築いていました。しかし、引き際を間違えたために、ついには会社が他社に吸収合併されるという憂き目を見ます。このように、すべてに秀でた人などいないのです。
結局、反発している社員たちは、たいてい自分の地位を心配して、批判的な態度を取っているのでしょう。ですから2代目社長としては、先代の偉大さを肯定して彼らを安心させる一方、自分に足りない部分は人材で補うようにすることが大切なのです。私がこの話をした結果、若手社員はその会社に留まり、後日、重要なプロジェクトのチーフに抜擢されたとのことでした。
判断のもととなるのは「他人からの情報」
今回のお話は、「人は孤独に決めるべきではあるが、決める過程まで孤独である必要はない」ということです。投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏でさえも、「築いてきた人間関係や他者への扱いを、ビジネスに関する知識と置き換えることはできない」と述べています。
つまりこれは、「判断のもととなる重要な情報は、人によってもたらされる」という意味なのです。
俣野成敏(またの・なるとし)
大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。
俣野成敏 公式サイト
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