その説明、小学生でもわかる? 伝わるプレゼンには「思考を飛ばす」という方法が大切──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その8)

その説明、小学生でもわかる? 伝わるプレゼンには「思考を飛ばす」という方法が大切──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その8)

話し手・聞き手に加えて第三者を想定したプレゼンの「核」。澤さんは、それを「第三極の思考」と表現します(詳細は第7回記事をご覧ください)。技術者のプレゼンを魅力的にするために必要なメソッドとは何か?

澤円のプレゼン塾・第8回は、オーディエンスを意識したプレゼンの「核」について、解説していきます。

連載:マイクロソフト澤円のプレゼン塾 記事一覧はこちら

「第三極の思考」で本質的なプレゼンを

前回(前回の記事はこちら)は、技術者のプレゼンを魅力的にするために有効な「第三極の思考」について紹介しました。実はこの内容は、これまでお伝えしてきた「伝言ゲーム」を思い出していただきたい部分です。

前回紹介したプレゼン(※以下参照)の内容を誰かに伝言するのは、営業部長さんには難しいチャレンジです。何せ、初めて聞く言葉が混じっていたりするわけですから。

インメモリデータベースの話題を例にしたプレゼン例

<例1>技術情報だけで伝えた場合

「インメモリOLTPエンジンでは、メモリ最適化記憶域の中にテーブルとインデックスを持ち、メモリ上でトランザクション処理を行うため、非常に高速な処理が可能となっています」

<例2>導入メリットと合わせて伝えた場合

「インメモリOLTPエンジンという素晴らしい技術革新により、多くのデータをより高速に処理することができるようになりました。

その結果として、処理時間が短くなるため、コスト削減やビジネスのスピードアップにもつながります」

しかし、後者のプレゼンなら「これ入れると、我々はいい仕事ができるらしいぜ」という伝言はできます。そして伝言されればされるほど、プレゼンテーションの価値が上がる。これはこの連載を読んでくださっている皆さんなら、きっと賛同いただけると信じてます(笑)。

もっと風変わりな「第三極の思考」を用意してもかまいません。例えば、小学生たちが聴きに来ていると仮定してもいいのです。そうすれば、さらに噛み砕いた説明が必要になりますよね。裏を返せば、それだけ本質的なプレゼンテーションができ上がるはずです。

言葉は平易になり、難解な用語は少なくなり、写真や図がふんだんに取り込まれることになるでしょう。数値データの使い方も変わってくるかもしれません。

多面的なプレゼンテーションの表現方法を考える

では実際に小学生たちが聴いていると仮定して、クラウドストレージサービスの説明をしてみることにしましょう。 「弊社のクラウドストレージサービスの導入により導入コストは10分の1になり、利用できるストレージ容量は50倍まで増やすことができます」

これでは分かる小学生はほとんどいなさそうです。

では、下記ならどうでしょう。 「RPGで勇者が武器を買うポイントが10分の1に減って、持っている武器の威力が50倍まで増えたら、絶対ボスキャラに負けないと思いませんか?私の会社のサービスはそういうものです」

ドラゴンクエストなどのゲームでボスキャラを前に悔し涙を流した小学生は、きっと夢のような世界だと感じてくれるのではないでしょうか。

これこそが、「第三極の思考」の極意たるものです。その場にいるはずのない人までも感動させるのですから。

この「第三極の思考」を取り入れれば、多面的なプレゼンテーションの表現方法を考えるきっかけを手にすることができます。

「思考を飛ばす」という発想

「第三極の思考」をするために必要なメソッドを、私は「思考を飛ばす」と呼んでいます。

例えば誰かに質問を受けたとき、「あ、私が言いたいのは…」を最初に持ってくるのではなく、「それはもしかしてこのような考え方ですか?」と第三者の思考を仮説として提示するやり方です。

プレゼンテーションを作っているときも、脳内に浮かんだ文字列をダウンロードしてキーボードをたたき続けるだけでなく、
「これを部長はどう見るかな?」 「競合相手はビビってくれるかな?」 「うちの子供にも分かるかなぁ」

と、まずはランダムに思考を飛ばしてみるわけです。プレゼンテーションを作っているとき、どうしても主観が思考の大半を占めることになります。

そのまま作業を進めてしまうと、かなりの確率で
「押しつけがましいプレゼン」 「自社の製品の宣伝ばかりのプレゼン」 「オーディエンスを意識していないプレゼン」

が、でき上がってしまうのです。

プレゼンテーションがある程度できたら、まず自分の思考をできる限り遠くに「飛ばして」みてください。
「ウォールストリートの超エリートがこれを読んだらどう思うのか?」 「中国の高校生はこれを見て何を感じるのかな?」 「サバンナの狩人は、これに賛同してくれるのだろうか」

とか、もう自由に飛ばしまくりましょう。

あなたのプレゼンテーションを聴く人たちは、決して同じ価値観を持ってはいないでしょう。同じ言葉でも、まったく違う受け取り方をするかもしれません。そのためにも、あちこちに思考を飛ばしてほしいのです。

それが皆さんの視野を広げ、視座を高くし、より多くの人に伝わるプレゼンテーションが生まれます。なるべく遠く、それも違う方向にたくさん飛ばすことで、全方位的に伝えることができるプレゼンテーションができ上がります。

飛ばす思考パターンは多い方がいい

まったく違う価値観を持っている人たちにも伝わる、素晴らしいプレゼンテーションにどんどん近づいてください。以前紹介した織田信長さんの話も、私が思考を「飛ばした」結果として生まれたストーリーです。思考は時空を越えて飛んでいきます。

ちなみに、この「思考を飛ばす」という行為は、プレゼンテーションをやっている最中でも有効です。「あ、このフレーズはノンテクの営業部長にも分かるかな?」とか、「このデモをディープな技術者に伝えるにはどんな言葉が適切かな?」とか。

そうすることで、自分のプレゼンテーションを客観視することができます。実際のプレゼンテーション中の思考や立ち居振る舞いについては、また別途詳しくお伝えします。

プレゼンテーションは、オーディエンスに伝わらなければ意味はありません。伝えるためには、なるべく多くの思考パターンを想定する必要があります。

そのパターンを多く持てば多く持つほど、プレゼンテーションの質が向上するのです。次回は、第三極の思考を持つために必要なメソッドについて、考えていきたいと思います。

連載:マイクロソフト澤円のプレゼン塾 記事一覧はこちら

著者プロフィール

澤 円(さわ まどか)氏

日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界世界No.1プレゼン術」

Twitter:@madoka510

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

関連記事リンク(外部サイト)

伝わるプレゼンに欠かせない「第三極の思考」とは?──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その7)
織田信長が“兵10万人の心”を掴んだプレゼンの「核」とは?──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その5)
プレゼンの「核」を作るために必要な棚卸しとは──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その4)

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. その説明、小学生でもわかる? 伝わるプレゼンには「思考を飛ばす」という方法が大切──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その8)

リクナビNEXTジャーナル

ビジネスパーソンのための、キャリアとビジネスのニュース・コラムサイト。 キャリア構築やスキルアップに役立つコンテンツを配信中!ビジネスパーソンの成長を応援します。

ウェブサイト: http://next.rikunabi.com/journal/

TwitterID: rikunabinext

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

記事ランキング